アップグレードして値下げするBYDの戦略
中国BYDが2024年モデルへの切り替えとともに、ほとんどすべての車種で最大125万円級の大幅値下げを行い、いよいよ、内燃機関車との値下げ戦争に終止符を打ってきました。とくに日本メーカーの収益源であったトヨタ・カムリやホンダ・アコードに大打撃を与えるであろう、新型Hanの存在、またトヨタRAV4やホンダCR-Vに大打撃を与えるであろうSong Plusなどのアップデート内容を中心として、中国EV値下げ戦争をリポートします。
利益度外視で中国EV戦争に挑むZeekr! 「001」は大幅進化でコストアップもまさかの値下げで勝負
今回取り上げていきたいのが、中国最大の自動車メーカーであり、世界最大のEVメーカーでもあるBYDの動向です。
すでにBYDについては、売れ筋モデルの大衆セダンQin Plusに対して、Honor Editionと名付けられた2024年モデルを投入し、内外装の装備内容をアップデートしながら、それでいてむしろ値段設定を一律で引き下げてくるといった大規模な値下げ戦略を断行していました。
とくに、PHEVバージョンであるQin Plus DM-iに関しては、EV航続距離55kmのエントリーグレードが7万9800元、日本円でおよそ166万円という、2023年モデルと比較しても一律で41万円以上もの値下げを行ってきていたわけです。
問題は、この大衆セダンセグメントにおいて強さを発揮していたのが、我々日本メーカーであるという事実です。
とくにこれまでは、日産シルフィ、トヨタ・カローラ、ホンダ・シビックなどという安価な内燃機関車が人気だったのですが、PHEVであれば、中国国内で車両を購入する際にかかってくる車両購入税が免除されるという税制優遇措置、およびガソリンよりも電気自動車のほうが安いという経済的なメリットによって、PHEVを選択肢に入れるユーザーが急増しているとのことです。
そして、今回のQin Plusの大幅値下げによって、いよいよ競合の内燃機関車と遜色のない値段設定になったというわけです。
このグラフは、大衆セダンセグメントの人気車種それぞれの値段設定、およびPHEVの場合はEV航続距離との相関関係を示したものになります。
このとおり、PHEVであるQin Plusについては、内燃機関車であるシルフィやカローラと同等の値段設定を実現していることから、同じ値段設定であれば、内燃機関車よりもPHEVを選ぶのは当然です。
そして、それ以上に注目するべきは、このシルフィやカローラなどの内燃機関車たちは、メーカー小売価格ではなく実際の販売ディーラーにおいて値引きが行われたあとの値段設定であるという点です。つまり、内燃機関車たちについては、これ以上値下げする余力が残されていないということを意味します。
2024年中旬からは、本格的にシルフィやカローラなどの日本メーカーの大衆セダン販売台数に大きな悪影響が出てくる可能性が濃厚なわけです。
そして、このBYDの2024年モデルであるHonor Editionが、それ以外のモデルに対しても続々とスタートしている状況です。
まず、2月末に発売がスタートしたのが、BYDのフラグシップセダンであるHan、およびフラグシップSUVであるTangです。とくにHanに関しては、2020年7月の登場以降、急速に販売台数を伸ばしており、月間3万台ペースという中国国内のトップセラーの一角に君臨しています。
他方で、2023年に突入すると、このHanに対抗するためにトヨタ・カムリやホンダ・アコード、フォルクスワーゲン・パサートなどの内燃機関車が、大幅値下げを展開していました。しかもBYDは、Hanとそこまで装備内容やEV性能に遜色がないプレミアムセダンのSealの発売により、HanとSealのカニバライズも発生してしまいました。
とくにHanのバッテリーEVモデルについては、PHEVとプラットフォームを共有しているために、2023年で重要な指標となっていた超急速充電に対応することができていないということ、またプレミアムセグメントにおけるさらなる重要指標である高速や市街地を含めた自動運転支援であるレベル2プラスに対応できていないということで、商品力のテコ入れが急務となっていたという背景が存在したわけです。
そして、今回のHonor Editionについては、BYDブランドのフラグシップモデルとして、内外装の質感とEV性能、ADAS性能のすべてにテコ入れしてきました。
まず、内外装の質感については、新色を追加設定しながら、スマホのワイヤレス充電を50Wへと急速充電化、シートヒーターやベンチレーションだけではなく、シートマッサージ機能も追加設定。EV性能についても620Vシステムにアップグレードすることによって、最大155kWの急速充電出力へと改善。
そして、目玉となるのがプレミアムセグメントにおける必須機能であるレベル2プラスのADAS機能です。
今回のHanのHonor Editionでは、BYDが出資しているHorizon Robotics製のJourney 5のADASプロセッサーを搭載。その演算能力は毎秒128兆回と、テスラのハードウェア3.0に匹敵する能力を有することで、高速道路上における、追い越しや分岐を含む自動運転に対応させる、いわゆるレベル2プラスにBYDブランドとしては初めて対応してきました。
すでに高級ブランドであるDenzaやYangwangについては対応済なものの、いよいよ大衆ブランドであるBYDでも、レベル2プラスの導入を始めてきた格好となります。
中国に嵐を巻き起こす第二次EV値下げ戦争
そして、今回のHonor Editionにおけるもっとも注目するべき点というのが、なんといってもその値段設定です。この表は、HanとTangのグレード別の、2023年モデルであったChampion Editionと比較した、2024年モデルのHonor Editionとの値下げ幅を示したものになります。
このとおり、HanのPHEVモデルであるDM-iについては16万9800元、日本円で354万円からのスタート。よって、Han DM-iについては、最大50万円の値下げを行ってきた格好です。
さらに、バッテリーEVモデルについては、日本円で374万円からのスタート。一部グレードについては6万元、なんと125万円もの大幅値下げを行ってきた格好です。2022年モデルまで遡ると、最大7万元、日本円で146万円もの大幅な値下げ幅となっている状況でもあります。
また、フラグシップSUVであるTangについては、PHEVモデルであり圧倒的売れ筋であるDM-iに対してのみ、Honor Editionを設定しました。こちらもインテリアの装備内容をアップグレードしながら、なんといっても最大70万円以上の大幅値下げを行うことによって、コスト競争力を大幅に強化しています。
また、Tang DM-iのAWDグレードであるDM-p、およびバッテリーEVモデルについては、Champion Editionをそのまま62万円以上値引きすることで対応しています。
いずれにしても、BYDブランドのフラグシップ両車種が、揃って大幅値下げされたわけです。
そしてこのグラフは、Hanの競合車種であるプレミアムセダンの内燃機関車たちの値段設定を比較したものです。
このとおり、今回の大幅値下げによって、Hanについてはトヨタ・カムリのガソリンモデルと同等の値段設定を実現していることが見て取れます。さらにその上、この値段設定に関しては、どの車種も実際の販売ディーラーにおいて大幅値引きを受けた後の値段設定であり、とくにフォルクスワーゲン・パサートについては、一律で4.4万元、日本円で90万円級、ホンダ・アコードに至っては一律で5.3万元、日本円で110万円級の大幅値引きを行っており、ようやくHanよりも安価な値段設定を実現している状況となります。
先ほども説明したとおり、経済的な観点から、このレベルの値段設定の差にまで縮まれば、内燃機関車よりもPHEVを購入したほうが割安であり、もちろん既存メーカーはこれ以上値下げする余力は残されていないことから、いよいよ販売台数に大きな悪影響が出てくる可能性が濃厚です。
また、HanとTang以外のモデルにおける、Honor Editionの追加による値下げ幅を確認してみると、Qin PlusとDestroyer 05に関しては、最大2.2万元(約46万円)もの大幅値下げを一律で行っている状況です。
そして、Song Plusについても、Honor Editionの追加によって、DM-iとEVモデルそれぞれ一律で2万元(約41万円)以上の大幅値下げが実施された格好となります。
すでにこのミッドサイズSUVセグメントは、ホンダCR-VやトヨタRAV4などの販売シェアが奪われていることから、このHonor Editionの追加によって、さらにどれほど販売台数の減少につながってしまうのかには、最新の販売動向に注目です。
さらに、2023年中旬から正式発売がスタートした最新モデルであるSeal DM-iに関しても、なんと早速大幅値下げを断行。15万元(312万円)以下から購入可能という大幅値下げとなりました。
新型モデルを早速35万円以上も値下げすることによって、とくに中大型セグメントのセダンを購入する際に、「高級志向およびレベル2プラスの最新ADASを求めるのであればHanをチョイス、より安価なモデルを求める場合はSealをチョイス」というように、これまでカニバライズ感があったHanとSealの差別化に成功してきたわけです。
このようにして中国BYDについては、この2月後半以降、立て続けに2024年モデルであるHonor Editionの発表を行いながら、とくにHanとTang、Song PlusとSeal DM-iの一律の大幅値下げによって、いよいよ、値下げだけで販売台数をなんとかキープしてきた日本メーカー勢の内燃機関車の販売台数に、深刻な影響を与える1年となる可能性が出てきている状況です。
今回のBYDの一連の発表で印象深いスローガンというのが、いわゆるEV戦争を念頭においているのではなく、あくまでも「電気は燃料よりも安く、燃料と電気の戦争に終止符を打ち、新エネルギー時代の到来を確定させる」というものです。
2024年シーズンにBYDが値下げ戦争を仕掛けたのは、テスラやファーウェイ、中国EVスタートアップに対してというよりも、日本メーカーやドイツメーカーといった内燃機関車を販売しているメーカーたちです。
2023年冒頭にテスラが引き起こした「第一次中国EV値下げ戦争」に続いて、2024年冒頭にBYDが引き起こしている「第二次中国EV値下げ戦争」によって、中国国内の勢力図がどのように変化していくのかに注目です。
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みんなのコメント
3/20(水) 6:50 Yahoo!ニュース
新車も中古も値引きしないと買ってくれないEV。
俺は値引きしてくれても今は買わないけど。
欧米では大きな問題になっている事は有名です。
同じ土俵に上がっていない車同士では競争にもならない
また中国メーカーの品質が信用出来るかと言う事も頭においておく必要もある