2022年1月に4代目となって発売されたばかりのトヨタのMクラスボックス型ミニバン、ノア&ヴォクシーは、まさに日本のミニバン業界、いや日本の自動車業界さえ震撼させるほどの新型と言っていい。
何しろ、初代ノア&ヴォクシーは2001年のデビューながら、そのプラットフォームは90年代からのイプサムに使われていたもの。それを先代ノア&ヴォクシーまで使い続けてきたのだが、この新型でついにトヨタ最新のTNGA、GA-Cプラットフォームに刷新。さらに先代の弱点の一つだった先進運転支援機能=トヨタセーフティセンスもまた、トヨタ最先端の内容、どころか、トヨタのフラッグシップミニバンのアルファードの2倍のセンサー角度を最新鋭の機能にアップグレードされているのである。
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加えて、MIRAIで初搭載されたトヨタチームメイトの、限定的ハンズオフドライブを実現するアドバンストドライブや、最新のレクサスNXで初採用された、BSM(ブラインドスポットモニター)と連動する降車アシストといった超先進支援機能から、実用面ではボックス型ミニバンの使いにくさを解消するフリーストップバックドア、スライドドアの乗降をさらに快適にしてくれるユニバーサルステップなど、全方位において超絶な進化を果たしたのが、新型ノア&ヴォクシーなのである。
車両の概要については、この@DIMEで概報しているので、今回はミニバンならではの室内空間、シートアレンジ、そしてハイブリッド車とガソリン車の試乗レポートをお届けしたい。
左は開発責任者の水澗さん
まずは室内空間だ。運転席に着座すれば、かけ心地のいい、背もたれの高さが拡大された(実測+40mm)シートの上半身を包み込むような座り心地の良さはもちろん、極細Aピラーと大型三角窓、そして巨大なフロントウインドー、水平基調のダッシュボードデザインによる、前方、斜め前方のパノラミックな視界の良さに感動できる。四角く、鼻先の短いボックス型ボディと相まって、運転席に座った瞬間から、爽快な運転感覚、車両感覚のつかみやすさ、運転のしやすさを実感できるに違いない。また、DCM(車載通信機)搭載のディスプレイオーディオPlusの10.5インチとなる大画面も、大型TFTメーターと合わせ、新型らしさを伝えてくる。
しかし、室内空間、パッケージングのハイライトは、ミニバンの特等席となる2列目席、キャプテンシートにある。先代のキャプテンシートは810mmものロングスライドが可能で、広大な2列目席膝周り空間を実現していたのだが、シート外側のリクライナーがロングスライド時にリアホイールハウスと干渉するため、2座のキャプテンシートを中寄せスライドさせてロングスライドするしかなかった。そのため、ロングスライド時にはせっかくの折り畳みテーブルが使えず、2-3列目席スルー空間も犠牲になっていたのである。ところが、新型では、2列目キャプテンシートのリクライナーを内側に寄せ、ややシート幅を狭めることで、中寄せスライドさせることなく、745mmのストレート超ロングスライドが可能になっている。ゆえにカップホルダーやUSBソケットも用意される折り畳みテーブル(グレードによる)が、ロングスライド時でも使えるようになったのだ。
そしてキャプシートのかけ心地もまた優秀だ。サイズは先代の座面長500mm、座面幅520mm、シートバック高590mmに対して、新型は座面長500mm、座面幅500mm、シートバック高630mmと、シートバック高が前席同様に拡大され、背中を包み込むような心地よい着座感を実現。もっと言えば、快適感を損なうシート振動の抑え込みに関しては、先代キャプテンシートより優れているのは当然として、アルファードの上級キャプテンシートより上なのだから立派である。
ちなみに、身長172cmの筆者のドライビングポジション基準で2列目席に座れば、頭上に260mm(シートスライド中間地点)、膝周りに最大600mm(超ロングスライド時)という、先代とまったく同寸法の広大な居住空間がある。繰り返しになるが、その状態で2座のキャプテンシートが先代のようにくっついているのと、新型のように2座のキャプテンシートが離れ、テーブルまで使えるのとでは、居心地、贅沢感、便利さともに大違いである。それだけではない。各席のヒップポイント地上高も改められていて、1列目席の770mmは先代の765mmと同等なのに対して、2列目席は先代の765mmからこの新型は790mmに高まっている。つまり、より高い着座位置、目線となり、一段と爽快でミニバンらしい、特等席としての居住感覚が得られることになるのだ。
では、アルファードほどの広さは望めない3列目席の居住感覚はどうか。先代との大きな違いはシート構造。先代はSバネ+ウレタン構造だったのだが、格納要件のためクッションが薄く、かけ心地は平板かつ硬めで、減速時などではお尻が前に滑りやすい着座感であった。一方、新型はその反省と、アレンジ性の要件もあって、薄くてもかけ心地に影響しにくいネット構造に変更。シートサイズとしては、先代の座面長455mm、総幅(5:5分割)1190mm、シートバック高520mmに対して、新型は座面長430mm、総幅(5:5分割)1190mm、シートバック高515mmと、座面長がやや短くなっていることになる(設計上は-22mm。理由は2-3列目席フラットアレンジの実現のため)。
そのかけ心地そのものはクッション感もあり悪くないのだが、フロアとシート前端までの高さ=ヒール段差が先代の360mmから330mmに低まっているため、乗員の身長によっては、やや膝を立てる姿勢になるかも知れない。また、身長172cm、体重65kgの筆者だと、座面後端が後ろ上がりになった形状が気になった。なんだかお尻が押されているような感覚なのだ。ここは、むしろ座面後端を後ろ下がりにしたほうがよいと思えるのだが、そこは格納性が影響しているらしく、そうはできなかったようだ。つまり、新型の3列目席は、大人であれば、短時間の着座ならOKという感じである。
さて、まず走らせたのは、ノアのハイブリッド最上級グレードとなる、S-Z(2WD)である。パワーパッケージのスペックは、1.8Lエンジンが98ps、14.5kg-m、フロントモーターが95ps、18.9kg-m、リアモーターが41ps、8.6kg-mというもの。バッテリーに電気が十分あれば、もちろん、走りだしはモーター駆動。静かに、スムーズに発進する。その際の力強さが先代以上に感じられる理由は、ハイブリッドシステムそのものが最新の第五世代になり、モーター16%、バッテリー15%の出力アップが果たされているからにほかならない。そして車内の静かさもレベルアップ。新プラットフォームの採用、遮音、吸音材の最適配置はもちろん、ボディ周りの不要な穴を徹底的につぶした遮音対策も効いているはずだ。
乗り心地も進化している。S-Zグレードはノア&ヴォクシー初の17インチタイヤを履いているのだが、市街地の段差をスムーズにいなし(1列目席)、収束が早く、フラットで快適そのもの。レインボーブリッジの下道にあるような、長いゼブラゾーンを通過しても、不快な音、振動は最小限に抑えられている。ただし、速度によってはボックス型ボディの宿命となる箱鳴りが気になる場面もあったのだが、この現象について開発陣に聞くと、1/3列目席に箱鳴りのピークがあり、2列目席はその谷間となって、もっとも気にならない席になるということらしい。
首都高速に入り、感心させられたのは合流での加速力の余裕だ。これもまた、モーター、バッテリーの出力UPが効く場面と言っていい。そして先代で気になっていた重心感の高さもほぼ払しょくされている。新型はフロア、全高ともに高まっているのに、そうした感覚が得られるのは、新しいプラットフォームとサスペンション、そして17インチタイヤの相乗効果と言えるはずだ。とにかく、首都高速道路のカーブをけっこうなスピードで曲がっても、軽く扱いやすさ抜群のパワーステアリングの操舵フィールは極めて自然で曲がりやすく、車体はロール感最小限のほぼ水平感覚のまま、実に気持ち良く、安心・安全に走り抜けることができるのである。こうした走りの安定感があれば、完璧な先進運転支援機能にも支えられ、ドライバーの運転疲労は最小限で済むだろうし、同乗者も終始、快適にドライブを楽しめるに違いない。
ただし、エンジンを高回転まで回すシーンでは、それまでの静かでスムーズな走行感覚から一転、エンジンノイズの騒々しさが気になりがちだ。ハイブリッドモデルでは、ヒュイーンというハイブリッド車ならではのノイズが「ほぼ気にならないレベルに抑えた」と説明されるものの、皆無ではなく、アクセルの踏み加減によっては、エンジンノイズとともに、ほかの完成度が極めて高いことから、ことさらそう感じさせるのかも知れない。
基本的な走行性能以外の部分で、大いに感心させられたのが、全グレード標準装備となるトヨタセーフティセンスに含まれるプロアクティブドライビングアシストPDAの作動だ。歩行者の横断などを先読みしてくれるのと同時に、先行車やカーブを検知し、自動で減速してくれる先進機能なのだが、それが”一般道”でも作動し、それによる減速感が、下手にブレーキを踏むよりずっとスムーズ。うっかり前車に近づきすぎてしまうことも、カーブに勢いよく飛び込んでしまうこともまずない。先行車との距離を保ってくれるという意味では、レーダークルーズコントロール(ACC)でも可能なのだが、自動車メーカーとしては「自動車専用道路でのみ使うこと」、としているので、レーダークルーズコントロール(ACC)を使わなくても同じような機能が得られるプロアクティブドライビングアシストの採用は、画期的と言えるのだ(OFFにもできる)。
このほかにも、MIRAIに採用されている高度運転支援機能のトヨタチームメイトのアドバンストドライブも、新型ノア&ヴォクシーには用意されている。自動駐車、スマホによる自動駐車リモート操作のほか、0~約40km/h以下の同一車線で実現するハンズオフドライブ(渋滞支援)機能という、現時点でミニバン唯一の夢のような超先進機能もオプションで付けることができるのだ。今回の試乗車はOTAによるアップデート前の先行車両のため、ハンズオフドライブはおあずけ。とはいえ、一般ユーザーに渡る車両はそのソフトが織り込み済みだから安心してほしい。標準搭載の車載通信機DCMによって、これから先も多彩な機能が自動アップデートされていくのはもちろんである。
一方、同グレード比で35万円安くなるガソリン車のほうは、ヴォクシーのS-Zグレード、2WDに試乗した。パワーパッケージ以外でノアのS-Zとの違いは、タイヤが16インチになること。走り出せば、アクセルペダルをふんわり踏んでいるうちは、なるほど、新型らしい静かさとスムーズさ、トヨタのミドルサイズセダンに匹敵する乗り心地の良さを実感させられる。
先代に対してより重心感覚の低い、安心感ある走行感覚を味わせてくれるのは、ハイブリットモデル同様だ。そして、ハイブリッドモデルが低中速域、主に市街地走行で、圧倒的な燃費の良さとともに電動車ならではの瞬発力ある加速力を含めた威力、走りやすさを存分に発揮してくれるのに対して、170PS、20.6kg-mを発揮する2Lダイナミックフォースエンジンは、どちらかと言えば、ハイブリッド車とガソリン車の燃費差が縮まるであろう高速走行が得意。そして中高速域ではより速い。ただし、乗り心地のしっとり感はハイブリッド車がやや上。また、エンジンを回したときの騒々しさに関しては、ハイブリッドモデルとともに、改善してほしい部分ではある。
このように、新型ノア&ヴォクシーは、新プラットフォームの採用により操縦安定性、乗り心地を高め、ミニバンとしての実用性の飛躍的向上を果たすとともに、トヨタのミニバン最先端の先進運転支援機能まで備えたことになる。このあたり、ライバルは戦々恐々といったところではないか。なお、筆者のお薦めグレードは、先代に対してより新鮮なエクステリアを備えたヴォクシーの最上級グレードとなるハイブリッドのS-Z。走行性能の進化でガソリン車を大きく上回り、また新型らしさを存分に堪能できる先進感溢れる機能をフル搭載しているグレードだからだ。
文・写真/青山尚暉
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