FF車といえばエンジンは横に置くのが常識。ところがなにごとにも例外はある。トヨタが初めて作った前輪駆動車「ターセル」は、なんとエンジンを縦に置いていたのだ!
文/ベストカーWeb編集部、写真/トヨタ、スバル
FFなのにエンジン縦置き? トヨタ車初の前輪駆動車ターセルの変態っぷりにマイッタ!
■スバルやアウディはFFなのにエンジン縦置き
スバルのAWD。エンジン縦置きのFFを基本とする
FF車のボンネットを開ければ、たいていエンジンが横向きに置かれている(トランスミッションはその横に並んでいる)。エンジンを横に置けばボンネットの奥行が短くできて、広い室内が作れるためだ。
エンジンを横に置いたクルマの元祖はイギリスのMINIだといわれる(1959年。設計はアレック・イシゴニス)。ただしMINIは横置きエンジンの下にトランスミッションを置いた2階建て構造だったため、エンジン高があって重心も高かった。
そこでイタリアのダンテ・ジアコーサが、エンジンの横にトランスミッションを並べる構造を発明する。ジアコーサはこれをアウトビアンキ・プリムラというクルマで実現するのだが(1964年)、これこそが現在のFFレイアウトの原点といえる。
とはいえ世の中にはその法則に従わないクルマもある。その代表がスバルとアウディだ。スバルは水平対向エンジンの特性を生かすために、アウディは左右重量の不均等さや前後方向の振動を嫌うために(A4以上のクラスで)、エンジンを縦に搭載している。
ちなみにスバルもアウディも4WDが得意だが、「4WDを作るために縦置きにしている」という考えは間違い。スバルはFFだったスバル1000の時代から縦置きだし、アウディはクワトロ発明以前のDKWやアウトウニオンの時代から縦置きFFだからだ。
なおエンジンを縦に置いて前輪を駆動するクルマは、エンジン後方に繋がるトランスミッションへ伝えた出力を前方へUターンさせて取り出している。そうしないと駆動輪である前輪の位置がやたらと後ろになり、フロントオーバーハングの長い不格好なクルマになるためだ。
■トヨタ車初のFF車だったターセル
1978年にデビューしたトヨタ初のFF車ターセル
スバルとアウディ以外にも、キャデラックのエルドラド(エンジンとトランスミッションを並列配置した変態レイアウト!)やアルファロメオのアルファスッド(水平対向+FF)など、エンジンを縦に置いたFF車は存在する。
しかし身近な大衆車というカテゴリーに限れば、意外な例にぶちあたる。トヨタが1978年に発売した小型車「ターセル」がそれだ。
ターセルにはコルサという兄弟車もあるが、どちらもトヨタが初めて作った前輪駆動車。トヨタのFFといえばスターレットを思い出す人が多いかもしれないが、同車がFF化されるのは、3代目が登場する1984年のことだ。
肝心のターセルだが、なんでエンジン縦置きのままFF化されたのか。そこにはさまざまな理由があったと聞く。いわく「FR(縦置きエンジン)しか知らない顧客を説得しやすい」とか「エンジンの整備性がよい」といったものだ。
しかし最大の理由は技術的な課題だろう。ひとつはFFに欠かせない不等長ドライブシャフトの問題だ。
FR車はトランスミッションが車体中央にあるため、そこから延びるドライブシャフトの長さは左右同じ。ところがエンジンの隣にトランスミッションがあるFF車は、ドライブシャフトの長さも右輪と左輪で異なるわけだ。
FFが未熟だった当時はそれが原因で左右の駆動力に差が生まれ、ハンドル操作に影響が出たりした。当時のトヨタがこれを懸念としても不思議ではないだろう。
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■「2階建てエンジン」は2代目ターセルにも継承
2代目ターセルもエンジン縦置き。ただしホイールベースが短縮されて若者向けとなった
縦置きの理由には「FR用トランスミッションのパーツが流用できる」という事情もあったかもしれない。
とはいえターセルのトランスミッションは特殊で、ミッション内部でUターンさせたエンジン出力をエンジンの下に設けたデフに送り込む構造だった。その結果ターセルはエンジン高が高くなり、フロントセクションにどこか「ぼってり感」を感じるクルマだったことも確かだ。
しかしそんな事情もなんのその。ターセルは前輪駆動車最大の強みであるキャビンの広さをしっかりと実現したクルマでもあった。それはホイールベースの長さで分かる。ターセルの全長は4mに満たなかったが、ホイールベースが2500mmもあり、家族4人がゆったり座れる室内を備えていたのだ。
結果としてこの「2階建て縦置きエンジン」は、次の2代目ターセルにも継承され、トヨタのファミリー層向けエントリー車としての役割を見事に果たした。その存在は、FF車の進化の過程を語る貴重なものといえるかもしれない。
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みんなのコメント
当時はまだ横置きベースの4WDは難しかったと思う