ウクライナ侵攻や、新型コロナウイルスの影響などにより、エネルギーの価格が高騰し、ガソリンの価格が大きく上がって政府が石油元売り各社に補助金を出す事態になりました。
また、同様に電気料金も上昇しています。加えて6月には猛暑により電力需給がひっ迫し、停電のリスクが高まったことから、政府は7年ぶりに東京電力管内に「電力需給ひっ迫注意報」を発令し、節電を呼びかけました。
ガソリン代も電気代も急上昇! 本当にオトクなのはEVかハイブリッドか?
それを受け、テスラのクルマのスクリーンには、ピークタイムでの充電を控えるようお願いするメッセージが表示されたりもしました。
こういったニュースを見聞きすると、「電気自動車って本当にエコなんだっけ?」と疑問になるのも無理はありません。「エコ」は環境にやさしいという「エコロジー」のエコだけでなく、経済的という「エコノミー」のエコでもあります。
そこで、EVの電費とガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車、PHEV車の燃費を比較して、本当にEVは経済的なのか検討してみました。
文/柳川洋
写真/ベストカーWeb編集部、トヨタ、日産、マツダ、テスラ
■電気代はこの1年半で4割もしくはそれ以上値上がりしている
電気代はこの1年半で4割以上値上がりしている。EVやHVは本当にお得なのだろうか?
「電気代が上がっている」とは言われているものの、どれくらい上がっているのかはっきりわかる人はそれほどいないと思いますので、東京電力ホールディングスの「平均モデルの電気料金」から、標準的な家庭の電気料金を調べてみました。
グラフでお分かりのとおり、過去5年で標準的な家庭の電気代が一番安かったのは、2021年1月の6317円。それに比べて2022年8月には9118円と、約2800円、+44.3%とかなりの値上がりとなっています。
8月の電気料金は3、4、5月のエネルギー価格をもとに算出されるため、電力消費量が毎月一定という仮定を置けば計算可能、ただし夏は当然電力消費量は増える(出典:東京電力ホールディングスHP「平均モデルの電気料金」より筆者作成)
ただし、東電の「平均モデル」では毎月の使用電力量が260kwhで一年中一定であると仮定しています。ですが、春夏秋冬とわず電力消費量が一緒ということはあり得ず、8月の消費電力は年間平均の2割増しと言われているので、実際にはこの夏の電気代の負担はより大きくなっていると考えて差し支えないでしょう。
■ガソリン代は本来なら200円超えだが補助金で2割引、170円近辺で安定推移
ガソリン、ディーゼル(軽油)の価格はどれくらい上がっているのでしょうか。電気料金と同様の過去5年の価格の推移のグラフは以下のとおり、直近の最安値から3~4割上昇しています。
電気代と比べてこのところのガソリン、ディーゼル(軽油)の価格の上昇が緩やかなのは政府からの補助金によるところが大きい(資源エネルギー庁「給油所小売価格調査」より筆者作成)
しかし、次のレギュラーガソリン全国平均価格と補助金の額のグラフをご覧ください。グラフの濃紺の部分はレギュラーガソリン価格の推移、水色の部分は補助金額の推移です。
本来であれば200円を超えているはずのレギュラーガソリンの価格は、政府から石油元売り各社に支払われる1リットルあたり39.0円【7月28日から8月3日までの水準、ハイオク、レギュラー、ディーゼル(軽油)同額】の補助金により、170円近辺で安定推移しています。
ガソリン補助金
ガソリン、ディーゼル(軽油)の価格は、補助金のおかげで本来の価格からおよそ2割引されている、と言ってもいいかもしれません。
したがって、上昇を続ける電気代と比べ、補助金によって安定的に推移しているガソリン、ディーゼル(軽油)の価格が相対的に安くなっており、EVのランニングコスト面での優位性が燃料油への補助金支給開始前と比べて失われています。
■電費と燃費を比較してみると、やはりEVの優位性が失われてきている
では、実際にEVとEV以外で、燃費を比較してみましょう。結論から言ってしまうと、標準的なドライバーが乗る場合、EVとハイブリッドの電費/燃費の差は、ひと月で900円程度とあまり大きく変わりません。
これまではEVの300万円以上の価格差を電費の良さで大きく相殺できていたが、ガソリン・ディーゼルへの補助金と電力料金の値上がりで事情が変わってきた。(出典:各社HPより筆者作成、車両本体価格その他のデータは2022年7月31日現在)
テスラ モデル3
細かくみていきましょう。最も普及しているEVの一つ、テスラのモデル3 RWDの電費はWLTCモードで127wh/km。
東京電力の平均モデルでの8月の電力価格は、1kwh(=1000wh)あたり約35円(従量料金26.46円+再エネ促進賦課金3.45円+燃料費調整額(8月)5.1円)なので、カタログ値通りの電費であればテスラモデル3が1km走るのには35円×0.127=4.445円。
日本の自家用車の平均年間走行距離は約6000kmなので、1ヶ月500km分の電気代は2223円となります。仮にカタログスペックより1割実際の燃費が悪かったとしても、2450円程度です。
トヨタ プリウス(S ツーリングセレクション 2WD)
ではハイブリッド車はどうでしょうか。プリウスの売れ筋グレード、S ツーリングセレクション 2WDのWLTCモードでの燃費は27.2km。ガソリン代が170.4円とすると、1カ月500km分のガソリン代は3132円。909円しか変わりません。
実燃費が0.9掛けだとすると3480円程度、テスラのモデル3よりも1カ月あたり1000円ちょっと高いということになります。
トヨタ プリウスPHV(S)
PHEVだと、プリウスPHEV SのWLTCモード燃費は30.3km、1カ月の燃費2812円、実燃費ベースで3120円程度、モデル3との差は670円ほどに縮まります。
トヨタ カローラスポーツ(ガソリン・G CVT 2WD)
マツダ CX-3(XDツーリング)
ガソリンだと、カローラスポーツG CVT 2WDは同16.4km、5195円、実燃費ベースで5770円程度、モデル3との差は3320円となります。
ディーゼルだと、マツダCX-3 XD Touring 2WD ATで同20.0km、4260円、実燃費ベースで4180円程度(ディーゼル1リットル150.4円で計算)、モデル3との差は1730円となります。
現在のエネルギー価格がそのまま続くと仮定すると、テスラモデル3とプリウスとの燃料代の差は1年で1万1000円、5年で5万5000円となり、EVの電気代と、ハイブリッドのガソリン代の差があまり大きくないことが分かります。
やはり、電気代が1年半で4割近く上がってしまったのに比べ、直近ガソリン、ディーゼル(軽油)価格は政府からの補助金で安定推移していることが大きく影響しています。
「EVは価格が高いけれど、ハイブリッドや純内燃機関車に比べて電費が大幅に安いので、コスト高が相殺される」というこれまでの常識は、燃料油価格への補助金の支給によってやや変わってきていると言っていいと思われます。
■EVのランニングコストはしばらく上昇する可能性が高く、優位性が徐々に失われる
9月の電気代は、今年の4~6月の原油・LNG・石炭の価格で決まるため、東京電力の平均モデルの場合、1kwhあたりの価格は8月の約35円から9月には約36.4円に、つまり1.4円、約4.3%値上がりすることはすでに決まっています。
以下のグラフのように、10月の電気料金に影響を与えるドバイ原油価格の5月から7月までの3カ月の平均価格は14,314円と、4月から6月までの3カ月の平均価格13,960円から2.5%ほど上昇しているので、10月も電気料金が値上がりする可能性は高いでしょう。
3カ月遅れで決まる電気料金は10月まで値上がりする可能性が極めて高い。(出典:各種公表資料より筆者作成、ドバイ原油〈プラッツ〉先物第一限月にドル円為替レートをかけて円建月間平均価格を算出)
アメリカの景気後退懸念により、ドル建てのエネルギー価格の上昇と円安が一服したことで、円建てのエネルギー価格は下がる方向にありますが、3カ月遅れの円建て価格を参照して決まる電気代はしばらく上昇が続きそうです。
また、北半球が冬に入ると、ロシアからの天然ガス輸出が止まる影響で、欧州を震源地として世界的なエネルギーの需給がさらにひっ迫する可能性もあります。
EVの購入を検討するにあたっては、「車両本体価格の高さをランニングコストの安さで取り戻す」ことが以前よりも難しくなってきていることを頭に入れておく必要がありそうです。
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みんなのコメント
近場なら乗らない事だ。
今乗ってるクルマを簡単替えられないんだから、燃費の差を云々言っても仕方ない
普段は市内しか走らない。
とりあえず往復で200㎞程度は走れるからそれ以上の時は乗らない。
自宅充電のみでしか使っていない。
新車のEVなんて高くて買えないよ。