日本経済新聞が、日産自動車の「2021年度 第3四半期算発表記者会見」直前のタイミングで「日産がエンジン開発終了へ。まず欧州。日中も段階的に」というスクープ記事を掲載した。当然ながら記者会見の場で「本当なのか?」という質問が出ました。するとアシュワニ・グプタCOO(最高執行責任者)は、「お客様がいるかぎりそのようなことはありません」と答えていた。果たして本当のところやいかに?
文/国沢光宏
写真/日産自動車、ベストカー編集部
■「なんでこれがスクープなのか」
まず「エンジンの開発終了」だけれど、自動車業界的には「スクープ記事にするほど驚くべきことじゃないですね」と思う。ホンダも三部敏宏さんの社長就任時に同じようなことを言っています。日産以外のメーカーだって、欧州でガソリンエンジン車を販売できるのは2030年まで。それ以降は売っちゃいけない。海外のメーカーだって欧州向けモデルについて言えば、昨年中にエンジンの開発は凍結している。
決算会見で記者からの質問に答えるアシュワニ・グプタCOO(最高執行責任者)。「これまでのロードマップから変更はない。電動化は徐々に、お客様の望むかたちで進めてゆく」と語った
そもそも欧州CAFEやユーロ7など、今後施行される厳しい規制をクリアしようとしたら、エンジン搭載車じゃダメ。日産に限らず、メルセデスもBMWもホンダもトヨタも、欧州向けモデルのために新しいエンジンを開発することなどしないだろう。そいつがなんでスクープなのか、頭を捻ります。自動車業界のことを知らない記者と編集デスクだった?
日本や中国はどうか。
記事で「段階的に」とある。これまた当然だ。日本を考えてみよう。「2050年のカーボンフリー」=「2050年の元日からガソリンも軽油も売っていない」ということを意味する。自動車の寿命を15年くらいと考えたら、2030年代中盤くらいになるとハイブリッドを含むエンジン搭載車を買う人などいなくなると思う。2030年代中盤になると、すべてモデル末期ということ。
おそらく日本でエンジンを搭載した新型車が出てくるのは2025年くらいまで。そいつを10年間くらい販売し、2030年代中盤で絶版になるということです。中国やアメリカも同じようなタイミングでカーボンフリーが進んでいく。日経のスクープで「日中も段階的に」と書いてあるのは当たり前すぎる。あと3年もすれば、新しいエンジンを出してもコスト的に成立しないですから。
ただ改良は必要だし、もしかするとカーボンフリーの時期が延期されるかもしれない。自動車メーカーだってそのあたりは考えている。だからこそ国内自動車メーカー5社などで昨年(2021年)9月24日に「MBD推進センター」(Japan Automotive Model-Based Engineering center)という謎の団体を立ち上げた。取り扱い技術はエンジンとミッションになるようだ。エンジンの撤退戦略を進める団体だと理解すれば、すべてのことに納得する。
どのメーカーも、「いずれエンジンは無くなってゆく」ということは覚悟している思う。となればエンジン技術に掛ける開発コストを、すぐにでも削減したい。けれどバッサリ切ってしまえば小さな改良すら出来なくなってしまう。はたまたエンジンが復活する可能性だってあるかもしれない。そうなった時の『保険』を掛けておかねばらならぬ。そのために団体を作ったということです。
■ガソリンやディーゼルエンジンが完全になくなるのは…?
おそらく2025年くらいまでに、(現在、継続的に研究開発されているもののなかで実用可能な)新しいエンジン技術はすべて商品化されると考えていい。といっても数少ない。現時点で確実なのが、マツダの直列6気筒とロータリーエンジンを使うPHV。熱効率で50%を超えると言われている日産e-POWERの第2世代エンジン。レヴォーグでデビューしたスバルCB型の電動化ユニット、ダイハツとホンダの軽自動車ハイブリッド…くらいだろうか?
ちなみに東南アジアや南米などに代表される発展途上国や新興国用のパワーユニットは新規開発のニーズなし。むしろ現在使われている「量産効果によってリーズナブルになったパワーユニット」を、規制が許すかぎり使い続けることになると思う。アルコール燃料だって使える。エンジンが、世界中の市場から完全になくなるのは、2070年くらいになってしまうと予想します。
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