2008年、アウディQ5がデビューして大きな話題を呼んだ。DセグメントのSUVとしてすでにBMW X3などが登場していたが、アウディは「SUVのダウンサイジング」をこのブランドらしい緻密かつ巧妙な手法で実現していた。そのキーポイントはパワートレーンの高効率化。今回はスペイン・バレンシアで行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年9月号より)
スポーツカー、スポーツセダンの「定義」の変化
アウディのDセグメントゾーンに強力なニューカマーが加わった。2008年の北京自動車ショーでワールドプレミアを果たしたQ5である。このモデルは原油高の今だからこそ、いいタイミングでデビューしたと思う。アウディはDセグメントの新しいラインアップに、まず2ドアクーペのA5を尖兵として送り出し、次いで看板モデルのA4とそのアバントをリリース、そしてスポーツSUVを謳うQ5をいよいよ世に問うことになった。
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このモデルは同社のフルサイズSUV、Q7の弟分にあたり、フォルクスワーゲンのトゥアレグに対するティグアン、BMWのX5とX6に対するX3、メルセデス・ベンツMクラスに対するGLKの関係と同じと考えていい。そして近い将来デビューするカイエンの弟分、ミニ(またはベビーの仮称)カイエンもライバルとなる。
ここでいわゆるSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)について、ざっとおさらいをしてみたい。このジャンルのクルマは多岐にわたるが、そのほとんどは巨大な北米マーケットのニーズに応えたものなので、大きく力強く頑丈であることが必要条件となる。しかし近年になってその流れが変わってきた。オフロード性能に軸足を置いたクロスカントリータイプよりもオンロード性能や快適性をユーザーが求めるようになったのだ。
そこを狙って大成功を収めたのがBMWのX5だった。姿カタチは背の高いオフロード系なのに運動性能はスポーツセダンのそれだったからだ。そのマーケット(のさらにリッチ層)に斬り込んだのがポルシェで、カイエンを発売するとこれまた大当り。911のユーザーがセカンドカーに購入するケースが多かったという。あのポルシェがSUVを、と世間は驚いたが、文字通りポルシェのドル箱となった。
BMWはX5に続き、3シリーズのプラットフォームとパワートレーンを使ったX3を発売するが、これは北米のみならず欧州圏、日本でも好評を博した。ちなみにBMWはXシリーズにSUVという呼称はつけず、独自にSAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル、X6はSAC)と名乗る。
こうして21世紀に入ってからというもの、クルマの価値観は大きく変わった。つまり、スポーツカー、スポーツセダンの「定義」の変化である。低い車高と固めたサスペンションで旋回性能を高め、ハイパワーエンジンで縦横に走るというかつてのスポーツモデルよりも、新技術、新機軸を詰め込んだスポーティなSUVの方が、実際に快適で速い、使いやすい、となればユーザーはそちらに流れて行く。
現在の第三次オイルショックともいえる状況下で大型SUVマーケットはとても厳しい状況に陥っている。しかし各メーカーは生き残りを賭けて、新世代SUVの開発競争を絶えまなく続けているのだ。
持て余さない大きさがスポーツSUVの証
さて、本題のQ5に話を戻す。アウディA5/A4のアーキテクチャーを取り入れた、全長4629mm、全幅1880mm、全高1653mmのスリーサイズを持つフルタイム4WDのSUVである。ホイールベースはA4と同じ2810mm。真っ向勝負となるであろうBMWのX3とボディサイズを比較すると、全長が64mm、全幅も25mmプラスだが、全高は22mmマイナス。BMWのX6に通じる「非SUV的」なクーペ的プロポーションである。
Cd値は0.33で、このカテゴリーでトップに位置するQ7は大きく近寄りがたい感じもするが、Q5は「フツーの大きさ」である。
デザインは近代アウディの彫刻的かつエレガントな造形で、ひと目でわかる大型シングルフレームグリルが際立つ。そしてヘッドランプはLEDデイライトランニングライトつき。大径ホイールと伸び上がるアクセントライン、なだらかに流れるルーフラインがクーペ的雰囲気を醸し出している。このあたりのまとめ方はさすが、である。
アウディQ5に搭載されるエンジンは3種類。2.0TFSIの直4ガソリンターボ(211ps)、2.0TDIの直4ディーゼルターボ(170ps)、そしてトップグレードの3.0TDIのV6ディーゼルターボ(240ps)である。日本導入は当面はガソリンのみとなるが、オフィシャル資料によると2.0TFSIのスペックは0→100km/h加速タイムが7.2秒、最高速度が222km/h。
アウディQ5にあって、A4、A5にないものが新開発の7速Sトロニックだ。このデュアルクラッチ式トランスミッションは、縦置き用で大トルクにも対応できるようになったことがビッグニュースである。今後アウディ各車に拡大採用されるというからアウディのパフォーマンスはさらに向上するだろう。今やエンジンの制御技術とトランスミッションの技術が真剣に問われる時代。問題は「燃費」をいかにして向上させるか、それがメーカーの責任だからである。
ところでこの新7速Sトロニックは、横置きエンジン用のの乾式7速Sトロニックとはまったく別物である。
さあ、新しいQ5に乗ってみよう。舞台はスペイン・バレンシアである。まず日本に来年(2009年、時期は未定)導入される2.0TFSI搭載モデルから試す。このエンジンは従来型のディメンジョンを維持しているが、全面的に再設計されたもの。新しいバルブリフトシステムを採用し、バルブリフト量は2ステージで可変制御される。そしてエンジン内部の摩擦抵抗を徹底的に低減し、さらにターボチャージャー、インタークーラーも軽量化と高効率化が図られている。
シートに腰をおろしポジションをセットする。インテリアの景色はアウディのお約束通り質感が高く、ドライバーはリラックスできる。ドイツでは最近、後方視界確保のためサイドミラーの大型化が義務づけられたそうで、ミラーが干渉して斜め直前はややうっとうしいが、アイポイントの高さもあって全周囲の視界は良好な部類。車幅感覚も掴みやすく、混雑した市街地でもストレスは感じなかった。
テストルートはバレンシア空港を起点に高速道路と平野部、丘陵地帯の一般道。2.0TFSIエンジンは活発かつトルキーであたかも排気量が3Lオーバーの感じ。なにしろ最大トルクが1500rpmから350Nmも発生するのだから余裕綽々だ。そして白眉は7速Sトロニックだ。さまざまなモードで走行してみたが、そのシフト制御の精密さにただただ感心するばかり。ギアチェンジは数百分の1秒の単位というから、マニュアル好きの私でも「時代はもうこっち」と改宗せざるを得ない。
Q5のクワトロ=フルタイム4WDは一般的な運転状況ではフロントに40%、リアに60%駆動力が配分されている。リアドライブを強調した設定なので旋回時のハンドリングはどこかFR車的でもある。これはA5から始まった、アウディの「フロントアクスル前方配置」の新しいパワーパックによるところが大きい。フロントオーバーハングの大幅短縮によって前後の重量配分が改善(フロントヘビーの緩和)されたからだ。
丘陵地帯のワインディングロードを80~90km/hのペースで走ると、気分はもうスポーツセダンあるいはスポーツワゴンであり、SUVカテゴリーであることを忘れてしまうほどだ。標準のサスペンションのストロークはフロントが214mm、リアが230mmとたっぷりとってあるので乗り心地も高水準にある。テスト車に装着されていたタイヤは18インチだったが、少々グリップ不足を感じた。それだけシャシのポテンシャルが高いということでもあるのだが。
きわめて高級感のある3.0TDIの走り
途中でテスト車を3.0TDIにチェンジした。現在のところQ5のトップグレードである。搭載するV6ディーゼルターボは、アウディの上級車、A6やQ7などの主力エンジンであり、クラス最強かつ低燃費(総合では13.3km/L)のパワーユニットだ。最大トルクは500Nmあり、ガソリンエンジンならば5Lクラスに相当する。
走り出してまず驚くのは静かさだ。だまって乗せたら、よほどクルマに詳しい人でもディーゼルであることはわかるまい。そしてもりもりと沸き上がる大トルクを利したスポーティな走り。彼の地のディーゼルは驚くほど進化しているのを実感する。
タイヤはオプションの20インチを装着していたが、ゴツゴツ感はなく、フラットで快適な乗り心地だった。これはオプションのアウディドライブセレクトが装着されていたことが要因。通常はオートモードにセットしておけば最もバランスのいいセッティングとなるが、市街地でコンフォートモードにすれば荒れた路面でも快適性を確保し、ダイナミックモードにするとハイスピードレンジの活発なドライビングに対応してくれる。このシステムはサスペンションの特性変化だけでなく、エンジンレスポンス、Sトロニックのシフトポイント、ステアリングレスポンスまで統合制御するすぐれもの。乗り味はまさに「高級車」である。
2.0TFSI搭載車がスポーツセダンならば、この3.0TDIは高級GTカーの趣きがある。日本へ導入される可能性はゼロではないものの、当分はおあずけなのが惜しい。また欧州圏では最もメジャーとなる2.0TDIを搭載したマニュアルトランスミツション車は時間切れで試乗することができなかった。なお、アウディは来年初頭に3.2FSI搭載車を追加するとコメントしている。このモデルは日本に導入される可能性が高い。
アウディの先進技術が凝縮された期待のSUVモデルQ5は、とくにアジア、ロシア圏で大ブレイクしそうな予感がする。(文:Motor Magazine編集部)
アウディ Q5 2.0TFSI quattro 主要諸元
●全長×全幅×全高:4629×1880×1653mm
●ホイールベース:2807mm
●車両重量:1740kg(EU)
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:211ps/4300-6000rpm
●最大トルク:350Nm/1500-4200rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:7速DCT(Sトロニック)
●最高速:222km/h
●0→100km/h加速:7.2秒
※欧州仕様
アウディ Q5 3.0TDI quattro 主要諸元
●全長×全幅×全高:4629×1880×1653mm
●ホイールベース:2807mm
●車両重量:1865kg(EU)
●エンジン:V6ディーゼルターボ
●排気量:2967cc
●最高出力:240ps/4000-4400rpm
●最大トルク:500Nm/1500-3000rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:7速DCT(Sトロニック)
●最高速:225km/h
●0→100km/h加速:6.5秒
※欧州仕様
[ アルバム : アウディ Q5 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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