コンパクトカーや軽自動車の売れ筋をみていると、ある共通の特徴に行き当たる。まず車高の高いハイト系であること、そして後ドアにスライドドアであることだ。
大ヒット中のルーミーや軽で勢いのあるタントやムーヴキャンバスがそれにあたる。そこでこれらダイハツコンパクト&軽の人気の秘密に迫る!
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文/渡辺陽一郎、写真/ベストカー編集部
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■最も国内市場を重視しているメーカーは?
国内販売比率が最も高いメーカーであるダイハツのOEM車、トヨタ ルーミー。登場から5年を経てもなお販売ランキングの上位に入る人気車だ
今の自動車産業は、グローバルに発展したが、国内を最も重視しているメーカーはどこか。国内販売比率の最も高い自動車メーカーはダイハツだ。2020年にダイハツが世界で販売したクルマの内、65%が国内で売られた。
ほかのメーカーを見ると、軽自動車が中心とされるスズキでも、国内販売比率は26%だ。世界販売台数の70%以上を海外で売る。トヨタ(ダイハツと日野を除く)の国内販売比率は17%、日産は12%と少ない。これらに比べて65%のダイハツは、国内販売比率が圧倒的に多い。
この背景にはダイハツがトヨタの完全子会社で、小さなクルマを担当している事情もある。2020年にダイハツが国内で販売したクルマの内、91%が日本独自の規格となる軽自動車であった。スズキも軽自動車比率が高いが、83%だから、17%は小型/普通車が占める。
そこで注目されるのが、ダイハツ製のOEM車となるトヨタルーミーの売れ行きだ。2021年1~10月には、1か月平均で約1万1300台のルーミーが登録された。
ちなみに今の国内販売1位はヤリスとされるが、この登録台数には、ヤリスのほかにヤリスクロスとGRヤリスも含まれる。ヤリスクロスはSUVで、全幅のワイドな3ナンバー車になり、外観もヤリスとは大幅に異なる。
GRヤリスも高性能なスポーツモデルだ。ユーザーのニーズを考えると、ヤリス/ヤリスクロス/GRヤリスは別のクルマだ。
そこで直近の2021年10月の登録台数を分割すると、ヤリスは4980台、ヤリスクロスは5280台であった。このデータに基づくと、2021年10月の小型/普通車で最も多く売られたのは、新型アクアの7643台であった。その次にランクされるのが、ルーミーの6999台になる。
ルーミーの発売は2016年だから、すでに5年を経過した。2020年のマイナーチェンジで姉妹車のトヨタタンクが廃止され、ルーミーの需要が増えた経緯もあるが、それにしても5年を経たクルマが小型/普通車販売ランキングの上位に入るのは注目される。
■ルーミーとムーヴキャンバスの人気の秘密
スライドドアを装備した軽自動車のダイハツ ムーヴキャンバス
なぜルーミーは人気が高いのか。販売店は以下のように説明する。
「ルーミーは全長がヤリスよりも短いコンパクトカーだから、街中で運転しやすい。その一方で天井は高く、スライドドアも装着するので、子育てを終えたお客様がミニバンからルーミーに乗り替えることも多い。
またヴィッツ(ヤリスの前身)などのコンパクトカーを使っていたお客様が、必要に応じてスライドドアを備えた車内の広いルーミーに移ることもある」。
コンパクトカーでありながら、天井の高いボディによって車内が広く、スライドドアの採用で乗り降りしやすいことがルーミーの選択理由だ。子育てのために高い天井とスライドドアを備えたミニバンに慣れると、子育てを終えて2列シートのコンパクトカーに乗り替える時も、この2つの条件は手放せない。
そこで高い天井とスライドドアを兼ね備えた2列シートのクルマを探すと、軽自動車では豊富に用意されるが、コンパクトカーはルーミー/トール/ジャスティと、ライバル車のソリオ/デリカD:2しかない。
ソリオも2020年11月に現行型へフルモデルチェンジされたので、2021年1~10月の1か月平均登録台数は約4000台に達するが、売れ行きは小型/普通車を中心に扱うトヨタのルーミーが圧倒的に多い。
一方、前述の通り軽自動車では、高い天井とスライドドアの組み合わせが販売の中心だ。
2021年の軽自動車販売ランキングを見ると、1位:N-BOX(2021年1~10月の1か月平均登録台数は約1万6000台)、2位:スペーシア(約1万1200台)、3位:タント(約9500台)、4位:ムーヴ(約8100台)、5位:ルークス(約7700台)であった。大半が全高を1700mm以上に設定して、スライドドアを装着する。
唯一ムーヴだけは、全高が1700mmを下まわるが、この届け出台数にはムーヴキャンバスも含まれる。ムーヴキャンバスの全高は1655mmでムーヴと同等だが、スライドドアを装着した。そしてムーヴの販売総数の内、約60%をムーヴキャンバスが占めるので、1か月平均で5000台近くが販売されている。
つまり日本では、背の高いボディとスライドドアを兼ね備えたクルマの人気が高く、新車として販売される軽乗用車の50%以上をこのタイプが占める。
そこで国内販売比率の高いダイハツも、このタイプに力を入れる。ダイハツの売れ筋車種は、トヨタに供給するコンパクトカーのルーミーとダイハツ版のトール、軽自動車のタントとムーヴキャンバスになった。
ムーヴキャンバスの高人気は、スズキの商品開発にも影響を与え、2021年9月に類似車種のワゴンRスマイルが発売された。
スズキの販売店では「ワゴンR全体の50~60%は、ワゴンRスマイルが占める」という。ワゴンRスマイルが好調に売られて、ほかの車種はパーツの納入不足によって納期を延ばしたから、2021年10月の軽自動車販売1位はワゴンR(ワゴンR+ワゴンRスマイル)になった。
■若い人達にとっては当たり前の装備となったスライドドア
子供の頃からスライドドアを備えた車に親しんでいた現在の若い世代にとって、スライドドアは装備されていて当然のものとなっている
それにしてもなぜ、スライドドアを備えたクルマが好調に売られるのか。軽自動車だけでなく、小型/普通車でもルーミーに加えて、ミニバンのフリード、シエンタ、アルファード、ヴォクシー、セレナなどが登録台数ランキングの上位に入る。これらのミニバンも、高い天井とスライドドアの装着を特徴とする。
この点について、ムーヴキャンバスの開発者は次のように説明した。
「今の比較的若いお客様は、子供の頃からスライドドアに親しみながら育った。従ってスライドドアを備えた車種の人気が高い。そしてスライドドアは欲しいが、タントほど高い天井は必要はない、というお客様もおられるので、全高が1700mm以下のムーヴキャンバスを開発した」。
スライドドアを備えるミニバンが急速な普及を開始したのは、1996年に初代ステップワゴンが発売された頃だ。1990年に生まれた世代は、当時6歳で、今は31歳になる。つまり30歳以下のユーザーは、背の高いボディとスライドドアに親しみがあり、クルマ選びの基本形になっている。
スライドドアには、開閉時にドアパネルが外側へ大きく張り出さないから狭い場所でも乗り降りしやすい、電動開閉機能が用意されて子供を抱えた時でも使いやすい、横開きのドアに比べて間口が広いためにベビーカーを抱えた状態でも乗り込める、といったメリットがある。
これらは今でもスライドドアの魅力として健在だが、若い人達にとっては、それ以前にスライドドアという装備自体が装着されていて当然のものなのだ。
中高年齢層のユーザーが若い頃は、セダンがクルマ選びの基本形だった。セダンにも重心が低い、後席とトランクスペースの間に骨格や隔壁があるからボディ剛性を高めやすい。
その結果として走行安定性、乗り心地、静粛性を向上させやすいといったメリットがあるが、それ以前にセダンを選ぶのが当たり前だった。若いユーザーには、同様のことがスライドドアに当てはまり、好調に売られている。
その一方で中高年齢層のユーザーにとっても、高い天井とスライドドアは使いやすくて開放感もある。子育て時期にミニバンでその良さを味わうと、コンパクトカーやミニバンに乗り替えても、同様の機能が欲しいと考える。
また高齢者を後席に同乗させる時も、高い天井とスライドドアを兼ね備えたクルマは乗り降りがしやすい。さまざまな世代にとって、メリットをもたらす。
以上のような事情により、高い天井にスライドドアを組み合わせたミニバン/コンパクトカー/軽自動車は人気が高く、特にコンパクトカーは車種数が少ないから、トヨタの強い販売力との相乗効果でルーミーに需要が集中した。今後も高い天井+スライドドアのクルマは、好調に売れ続けるだろう。
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