この記事をまとめると
■世界や日本のラリー選手権ではベテランドライバーの活躍が多い
バトルがないからレースに比べて楽しめない……なんて言ってちゃ人生損してる! ラリージャパンに見る「ラリー」観戦の楽しみ方
■ラリー競技はレース以上に経験が必要で体力の衰えを経験値でカバーできる
■経験を重ねれば若手ドライバーにもチャンスのあるカテゴリーがラリー競技だ
40代でも活躍できる数少ないモータースポーツ
WRCのシーズンオフは短い。11月16~19日の第13戦「ラリージャパン」でようやく2023年のシーズンが終わったかと思えば、約2カ月後の1月25~28日の「ラリー・モンテカルロ」で2024年のシーズンが開幕する。そして、伝統のラリー・モンテカルロで筆者が思い出す一戦のひとつが2022年の大会だ。
というのも同大会では、Mスポーツ・フォードWRTでプーマRally1ハイブリッドのステアリングを握っていたセバスチャン・ローブが通算80勝目を獲得。当時のローブの年齢は47歳で、最年長優勝記録を更新したからだ。
ローブに限らず、WRCでは数多くのベテランドライバーが活躍しており、2023年のWRCでもトヨタGAZOOレーシングWRTよりハーフ参戦を行なっていた39歳のセバスチャン・オジエがGRヤリスRally1ハイブリッドで計3勝をマークした。
さらに、国内最高峰のラリー選手権、全日本ラリー選手権に目を向ければ、トヨタGAZOOレーシングWRJよりJN1クラスに挑む55歳の勝田範彦が、GRヤリスJP4-Rally2で第6戦のラリー・カムイを制したほか、JN2クラスではNUTAHARAラリーチームを率いる59歳の奴田原文雄が、GRヤリスで8戦中6勝をマークするなど、ベテランドライバーがトップ争いの主導権を握っている。
一方、フォーミュラレースの最高峰シリーズ、F1に目を向けると、アストンマーチンF1チームより最高齢の41歳で2023年のシーズンに挑んだフェルナンド・アロンソが計8回の表彰台を獲得したほか、メルセデスAMGペトロナスF1チームより参戦した38歳のルイス・ハミルトンも7回の表彰台を獲得。しかしながら、シリーズを代表するふたりのベテランは未勝利に終わっている。
レッドブル・レーシングより参戦した33歳のセルジオ・ペレスは3勝をマークしたが、30代のウイナーは彼ひとりで、残りの優勝経験者はマックス・フェルスタッペンが25歳、カルロス・サインツが28歳、オスカー・ピアストリ(スプリントでの勝利)が21歳といずれも20代のドライバーばかり。
つまり、フォーミュラレースのトップカテゴリーは、40代後半はもちろんのこと、30代後半でも勝つことが難しいカテゴリーといえるのだが、なぜラリー競技では30代後半はもちろんのこと、40代や50代のドライバーが活躍できるのだろうか?
その最大の理由が、ラリーはレース以上に経験が求められるカテゴリーで、体力の衰えを経験値でカバーできるところにある。
豊富な経験がリザルトに影響するのがラリー競技
「ラリーは経験値が必要で、WRCでもセバスチャン・オジエが40代(注:実際は39歳)で勝っているからね。確かに瞬発力は落ちてくるから3kmのSSなら、カッレ(注:ロバンペラ/23歳)みたいな若いドライバーのほうが速いけれど、30kmのSSで、路面状況が変わったりしてくると経験値が有利になって、オジエが速いこともある」。
そう分析するのが、スバルラリーチームアライのスバルWRX S4で全日本ラリー選手権のJN1クラスに参戦した56歳の新井敏弘だ。ライバルの多くが軽さを誇るシュコダ・ファビアR5やGRヤリスで参戦するだけに、新井は車両重量の重いWRXで苦戦。とくにターマック戦ではトップ争いから遠ざかっているものの、グラベルやスノーではいまだ抜群のコントロールを披露しており、スノー戦の嬬恋で3位に入賞したほか、第7戦のラリー北海道でも殊勲の4位入賞を果たすなど、国内トップレベルのパフォーマンスを披露している。
「確かに若いころに比べると瞬発力や瞬間的な判断力は落ちてくるけれど経験値があるから危険なところを判断できるし、それに対処することができる。レースでもそれは一緒。経験を重ねたドライバーは危険を察知して抑えることができるんだけど、ラリーはより顕著で、それをやらないと生き残れないからね」と新井は分析する。
前述のJN2クラス王者、奴田原も「昔に比べると体力も落ちているし、反射神経も落ちているし、視力も落ちているけれど、ラリーはそれ以外の要素も必要だからね。やっぱり経験値が必要なんだと思う」と分析。
さらに「ラリーのSSはコーナーの先がどうなっているのか分からないワイディングで走っているでしょ。見えてから反応する速度は若い頃と比べると間違いなく落ちているけれど、見えないところを予想していく能力は間違いなく上がっている。ラリーで歳を重ねても戦えている理由はそこだと思う。もし、ラリーのSSがサーキットみたいにコーナーの先が見えるコースなら若いドライバーが速いと思うけれど、見えないが故に経験値からくる『予測する能力』が武器になってくる。技術的にはペースノートの精度や表現の仕方が突き詰められていくんだと思う」と解説する。
このようにラリー競技はレース競技よりも経験値がリザルトを左右するカテゴリーだが、逆に言えば経験を重ねさえすれば若いドライバーにもチャンスはあるという。
「俺は若いころ、週4回、走りに行っていたけれど、いまの若手ドライバーはあまり練習していない。あとはグラベルラリーを経験したほうがいいかな。ヨーロッパのターマックはインカットして砂が出たりと路面状況が変わっていくけれど、日本のターマックはそうじゃないからね。グラベルのほうが極端に路面状況が変わるからスキルアップにいいと思う。いま国内のラリーシーンではきちんと走れる若手ドライバーが少ないから、グラベルで練習して上手くなればすぐに有力チームにひっぱってもらえると思う」と語るのは新井だ。
一方、奴田原も「自分も若いころはたくさん練習していたからね。それから考えるといまの若いドライバーは圧倒的に練習量が少ないと思う」と前置きした上で、「日本はヨーロッパと比べると若手ドライバーがステップアップできるシステムが少なかったけれど、いまはトヨタGAZOOレーシングが若手育成プロジェクトを行なっているので、これから若手ドライバーが出てくると思う」と分析。
さらに、「自分もラリースクールでトレーニングの仕方を教えているけれど、やっぱりシートを用意してあげないといけない。2023年はレカロと共同でクルマを用意して若いドライバーを起用したけれど、こういった形を増やしていくことができれば、ヨーロッパのように若手ドライバーが育っていくと思う」と付け加える。
このように、ラリー競技はレース競技以上に経験がリザルトを左右する競技で、それ故に最高峰のWRCでもベテランドライバーが優勝可能。逆に言えば、経験を重ねれば若手ドライバーにもチャンスのあるカテゴリーで、その結果として、23歳のロバンペラと39歳のオジエがトップ争いを展開することができるのである。
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