ディスラプション指数77の衝撃
自動車産業は現在、競争という枠を超えて、生き残りをかけた生存競争の時代に突入している。米国のコンサルティング会社・アリックスパートナーズが発表した「ディスラプション(破壊)・インデックス2025年版」が、その現実を示している。
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この調査は、主要10業種を対象に、
「経営環境の破壊的な変化の度合い」
を指数化したもので、全業種のなかで「自動車産業」が最も高い指数を記録した。指数は77ポイントで、前年から4.7ポイントの上昇を見せ、業界平均を4ポイント上回っている。調査によると、70%の企業が高レベルのディスラプションを経験しており、
・電気自動車(EV)の成長鈍化
・サプライチェーンの混乱
・地政学的リスク
など、複数の要因が複雑に絡み合っている自動車産業の現状が浮き彫りになっている。
本稿では、この調査結果を解説し、同時に自動車産業の経営層が採るべき経営戦略について考察する。
自動車産業の指数が高い理由
今回の調査は、2024年8月から12月の期間に、10業種11か国の企業経営幹部3200人(年齢25歳から65歳)を対象に実施された。その中で、自動車産業に関わる回答者は
「約300人(9.4%)」
だった。調査対象には航空、エネルギー、金融、ヘルスケアなどの業界が含まれ、特にメディア&エンターテインメント(76ポイント)、通信(75ポイント)が高い指数を記録した。自動車産業において顕著なディスラプションが見られた分野として、
・アフターマーケット
・シェアードモビリティ
・フリートセクター
が挙げられる。これらの分野では、サプライヤー、ディーラー、自動車メーカーの増加傾向も確認された。
アフターマーケットとは、自動車販売後に提供される商品やサービスを指す。具体的には、修理、メンテナンス、部品交換、アクセサリー販売などが含まれる。この市場は、車両の寿命全体にわたる需要を支えており、近年では車両のインテリジェンス化やEV化の進展により、変化が生じている。
シェアードモビリティは、個人が所有せずに他人と移動手段を共有する形態で、カーシェアリングやライドシェア(例:Uber、Lyftなど)が代表的なものだ。個人の所有コストを削減し、公共交通では賄えない移動ニーズに対応する手段として急成長しており、都市部を中心にその利用は拡大している。
フリートセクターは、企業や組織が業務に使用する車両群(フリート)の管理と運営に関連する分野を指す。配送業者やタクシー会社、レンタカー事業者などがこれに該当する。企業は効率的な運営を目的に車両の購入やリース、維持管理を行っており、このセクターは商業活動の中で重要な役割を果たしている。特に、テレマティクス技術の導入が進み、効率化が図られている。
自動車産業を取り巻く環境は急速に変化している。その背景には、EVシフトによるテクノロジーの進化や各種規制の変化、消費者のニーズの変化がある。特にEV市場の不確実性は大きな要因であり、
・半導体不足
・原材料価格の変動
・米中関係の緊張
といった外的要因が自動車産業の不安定さを増幅させている。また、サプライチェーンの問題は未解決であり、EV用バッテリーのコスト上昇が重荷となっている。さらに、各国政府がEV導入を推進している一方で、充電インフラの整備が遅れていることも課題として浮上している。
このような厳しい状況下で、自動車メーカーがどのような戦略を打ち出すかが、産業全体の方向性を決定づける鍵となる。
サプライチェーン再構築の急務
このような急激な環境変化のなかで、自動車メーカーが生き残るためには、いくつかの戦略的な対応が求められる。まず、変化を単なるリスクとして捉えるのではなく、
「機会」
として捉えることが必要だ。技術革新のスピードは加速しており、ソフトウェア開発や自動運転技術、次世代バッテリーの開発において革新をリードする企業が競争優位性を確保することは明確だ。
例えば、EV市場の成長に陰りが見え始めている現在、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)へのシフトを加速することが急務であり、一部の自動車メーカーは「マルチパス」と呼ばれる全方位戦略を採用している。
さらに、サプライチェーンの再構築も重要な課題だ。中国からの部品供給依存のリスク軽減や、欧米での生産拠点確保、レアメタルの安定調達など、リスク管理の強化が必要とされる。特に、地政学的リスクを考慮した戦略的投資が今後の成長に直結する。
加えて、ソフトウェア定義型自動車(SDV)への転換が進んでいる。従来のハードウェア中心の開発から、ソフトウェア主導のアプローチに移行することで、車両のアップデートや新機能の追加が容易になった。すでにテスラや中国のEVメーカーは、OTA(Over-the-Air)によるソフトウェアのアップデートを活用して車両性能の進化を常態化させている。伝統的な自動車メーカーも、新興EVメーカーに遅れを取らないよう、この分野への投資を積極的に進める必要がある。
また、MaaS(Mobility as a Service)の概念がますます重要になっている。自動車販売に依存するビジネスモデルから、サブスクリプション型サービスなどの多角化を進めることで、新たな収益源を確保することが求められる。
政治的不透明感が企業戦略に影響
現在の自動車産業には、激変する環境のなかで、一時的な要因が悪影響を及ぼしているに過ぎないとする楽観的な見解も存在する。
直近ではEV需要の減速が顕著だが、同時にハイブリッド需要のシフトが進んでおり、市場全体が安定し、需要見通しが改善するとする見方もある。しかし、中国ではEV補助金の縮小が影響し、販売が急減しており、テスラやBYDの販売戦略にも影響を与えている。さらに欧州ではEV需要の鈍化が進み、一部のメーカーは生産調整を余儀なくされている。このような状況でも、企業は単に需要の回復を待つのではなく、新たな収益源を模索する前向きな姿勢が求められる。
また、政治的な不透明感が調査結果に影響を与えた可能性もある。トランプ政権の復活により対中政策や貿易政策の不透明感が企業の慎重な姿勢を生み出しており、今回の調査でも大統領選挙後に実施された調査では、選挙前後の意識の変化が明らかとなった。ディスラプションによってビジネスモデルに大きな変化が生じると予測した経営幹部は、選挙後15ポイントの上昇を示している。これは、政権交代後の一時的な感情が影響しているに過ぎず、政権が安定すれば、サプライチェーンの再編が進み、経営環境が改善するという見方もできる。
さらに、自動車産業のデジタル化が進むなかで、新たな収益機会が生まれる可能性が期待されている。例えば、コネクテッドカー市場の成長により、車載ソフトウェアやデータビジネスが新たな収益源となる可能性が高い。このように技術革新が進展すれば、自動車産業全体の競争力が向上し、長期的な成長へとつながるだろう。
生き残りを賭けた3つの条件
現在の自動車産業は激動の時代を迎えており、今後しばらくは厳しい経営環境が続くと予想される。しかし、時代に適応した適切な判断と戦略を採ることで、この変化をチャンスに変えることは十分可能である。
自動車産業の経営層には、政治経済の動向を注視しながら、柔軟かつ迅速な意思決定が求められる。特に、EV市場の変化やサプライチェーンの最適化、ソフトウェア開発の強化といった要素を取り入れた戦略が、今後の成長のカギとなるだろう。
自動車産業で生き残るためには、以下の3つの条件が求められる。第一に、マルチパスウェイに代表される市場変化に対応した柔軟な事業戦略。第二に、ソフトウェア開発を含む新たな競争力の確立。そして第三に、顧客ニーズを的確に捉えたサービス展開であり、これらを速やかに実行できる企業こそが“勝ち組”として生き残るだろう。
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