2024年は、ローランド・ラッツェンバーガーとアイルトン・セナのふたりがこの世を去った1994年サンマリノGPから30年。舞台となったイモラ・サーキットで開催される今年のF1エミリア・ロマーニャGPを前に、4度のF1世界王者であるセバスチャン・ベッテルは、イモラで起きた悲劇を忘れず、追悼イベントを通じてF1の安全性向上へ向けた喚起を行なった。
エミリア・ロマーニャGPの決勝日には、セナへの敬意を表して、ベッテルはセナの1993年マクラーレンMP4/8で1周のデモランを実施予定だ。
■セナの事故死から30年……ずっと苦しみ続けてきたセーフティカードライバー「僕は100%で走ったけど、F1の前を走る適切なクルマじゃなかった」
またグランプリ開催前日の5月16日(木)には、F1、FIA F2、FIA F3のドライバーやF1関係者たちと黄色の“フォーエバー”Tシャツを着用し、イモラのコースを走って回った。そしてセナの記念碑の前では追悼が行なわれた。
コースを走る前、F1がさらなる安全性向上を追い求めるのに十分な開発スピードだと思うか? と質問されたベッテルは「決して十分なスピードではない」と答えて次のように続けた。
「(マシンの)スピードは速いし、それゆえに危険はまだ存在している。しかし、あのひどい週末の後、ドライバーたちは真に団結し、立ち上がった。ミハエル(シューマッハー)はGPDA(F1のドライバー協会)として一丸となってFIAとF1にサーキットをより安全なモノにするよう働きかけた」
「今日まで、ドライバーたちはみんな、あの週末の恩恵を受け止めている。不思議に聞こえるかもしれないけどね。でも安全基準や対策を推し進める上で重要な一歩だった」
「あの週末以降、F1がドライバーを失ったことは10年以上なかった。2014年も同じ状況だった。モータースポーツの危険性は承知の上だが、死は身近なモノではなかった。そしてあの事故が起こり、ジュール・ビアンキが犠牲となった」
「多くの疑問が投げかけられている。何かが起きて、その後に何が実施されたかを見れば……ああいった出来事は起きてはいけないというのは明らかだし、(安全装備の)実装スピードは決して十分ではない」
「しかしあのような暗い出来事の後、我々が集まり、状況を加速させようとするのは良いことだと思う。たとえ、事前にできる限り安全だと思っていたとしてもね」
そしてベッテルは次のように続けた。
「奇妙に聞こえるかもしれないけど、あのひどい週末のおかげで、サーキットをより安全なモノにして、ランオフを大きくし、レイアウトを変え、マシンを変え、衝撃吸収構造について話し合い、シャシーが耐えられる強度を増やしていった」
「とても、とても暗い瞬間だったが、僕がその恩恵を受けたドライバーのひとりだというのは明らかだ。あの後のマシン全てがその恩恵を受けているからね」
セナはF1史上最高のドライバーのひとりと広く認められており、現役ドライバーの多くが幼少期にセナの影響を受けた。
しかしベッテルとしては、セナのサーキット外での献身に対するリスペクトは、コース上でのパフォーマンスに対するリスペクトと同じくらい大きいという。
「確かに、僕はドライバーとして彼の成功に最も影響を受けた。彼と一緒に仕事をした人たちと働く機会に恵まれ、彼がマシンに乗っている時にどのような存在で、彼を特別たらしめた理由からインスピレーションを受け、理解しようとした」とベッテルは言う。
「勝利数、ポールポジション数、レース数といった数字はひとつの要素だが、彼には結果や成功以上のモノがあると思う」
「特にサーキット外でのことだ。彼がどのような人物であったか、ブラジル国内での影響力……当時のブラジル国民にとっては他に例を見ないほどだろう。しかしスポーツ選手が人気を博すだけでなく、その役割を担い、国や人々をより良い方向に導こうとしているのはとても稀なことだ」
「子どもたちのために教育を推し進め、貧困と戦おうとしたことを見れば、そこからインスピレーションを受けることは沢山あると思う」
「だから、彼の物語があのひどい週末で止まってしまったことはさらに悲劇的だ。コース上だけでなく、コース外でも多くのことがあっただあろうからね」
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