M5初採用の自然吸気V8エンジン
敵対的な新規モデルの投入といえた。ドイツで誕生した訴求力ある存在は、それ以外のブランドにも対立候補の創出を脅迫的に迫った。1960年代に高性能サルーンという発想をカタチにしていたジャガーも、蚊帳の外にはいられなかった。
【画像】ネオクラV8サルーン M5 E 55 AMG Sタイプ R クアトロポルテ 現行モデルも 全132枚
ウォールナットのダッシュボードとポリッシュされたカムカバーは、コンピューター制御の時代へ合わせるように、アルミニウムの化粧トリムと樹脂製のエンジンカバーへ置き換えられた。迫りくる21世紀は、新しい要求への回答を求めていた。
太いトルクがもたらす250km/hの最高速度を、4ドアサルーンで実現するだけでは不十分。ラグジュアリーなインテリアと外界からの隔離性を保ちつつ、峠道を我が物にするような機敏な操縦性を叶える必要もあった。
一足先に打って出たのはBMWだった。1997年のフランクフルト・モーターショーで、E39型M5が発表された。動力性能や乗り心地、操縦性、製造品質など多くの面でライバルを凌駕していた、4世代目5シリーズをベースにしたMモデルだ。
目玉といえた装備が、M5として初搭載された自然吸気のV8エンジン。可能な限りハイパワーを求めるという、M部門の意思を表明したユニットといえた。
540iに搭載されていたM62型ユニットを素材に、S62型へアップデート。バルブポケットの切り欠きが付いた鍛造ピストンを採用し、89mmへのロングストローク化と94mmへのボアアップ化が施され、ピストン間の冷却機能も向上されていた。
世界最強の路上を走るコンピューター
この4941cc V8エンジンを司ったのが、ボッシュ社と共同開発されたMSS 52 ECUと呼ばれる電子制御装置。当時は世界最強の路上を走るコンピューターとさえ称され、バタフライを備えた個別のスロットルボディを、120ミリ秒という高速で調整した。
先進的な可変バルブシステム、ダブルバノスと、セミ・ドライサンプ方式のオイル循環システムも採用。その結果得た最高出力は400ps、最大トルクは50.9kg-mに達した。
サスペンションは、ニュルブルクリンク・サーキットを約10万kmも走り込みチューニング。フロント側は15mm、リアは10mm、標準の5シリーズより落とされた。もちろん、スプリングレートや可動特性などのジオメトリーも見直されている。
1998年に生産がスタートした当時のM5の資料を振り返ると、ダイナミックなサルーンを追い求めたことへの説明が、延々と続いている。技術に対する自信の表れなのだろう。
容姿では専用のフロントバンパーや、240km/h時に50kgのダウンフォースを生み出す控えめなリアスポイラーなど、専用ボディキットを獲得。それでいて空気抵抗は、540iのCd値0.31から変わりなかった。
時を同じくして、W210型のメルセデス・ベンツE 55 AMGが登場。M5より穏やかに感じられる見た目だが、内に秘めた能力に不足はなかった。
M5の装備は驚くほど充実していたが、シュツットガルトの老舗が生み出した高性能サルーンも引けを取らない。自負に満ちた、落ち着きのようなものを感じる。
5.4Lへ拡大し354psと53.9kg-mを達成
2代目となるW120型のEクラスは、E39型5シリーズより前の1995年に登場。スペック的に驚くことはなかったかもしれないが、BMWへ対峙できる唯一の存在といえた。
サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン式、リアがマルチリンク式で、ステアリングラックはラック&ピニオンを採用。上質さと洗練性を追求したEクラスは、生まれた時から優れたシャシー能力も備えていた。
メルセデス・ベンツが買収したAMGの、格好のベースにもなり得た。最初に登場したのはE36 AMG。しかし、3.6Lの直列6気筒エンジンは先代のW124世代からのキャリーオーバーで、さらなる高性能化は避けられなかった。
E 55 AMGでは、Eクラスのトップグレードに搭載されていた4.3L V型8気筒エンジンをチューニング。排気量は5.4Lまで拡大され、最高出力354ps、最大トルク53.9kg-mを得ている。
自然吸気でありながら、50.9kg-mという太いトルクを2500rpmから4800rpmという広い回転域で発揮したのが特長だった。お気づきかもしれないが、これはBMW M5の最大トルクだ。
2001年にはマイナーチェンジを受け、E 55 AMGは僅かにパワーアップ。一層強力なE 60 AMGも追加されている。こちらの排気量は6.0Lで、最高出力は381psに到達。晩年に投入された限定モデルでは、6.3Lで404psを実現した。
とはいえ、E39型M5最大の対抗馬として量産されたのはE 55 AMGだろう。約1万2000台がラインオフし、主にドイツ・アウトバーンの追い越し車線で覇権を争った。
シリアスに仕立てられたSタイプのR
M5とE 55 AMGの登場を、ジャガーは静観できなかった。この2台が英国を走り始める頃、上品で礼儀正しいXJRは新型のSタイプへ一新。当時親会社にあったフォードの資金によって、「R」の計画が進められた。
販売へこぎつけたのは、21世紀になった2002年。専用のボディキットとレトロモダンなワイヤーメッシュ・フロントグリル、ダークカラーのボディトリムを身にまとい、クロームメッキで着飾っていたSタイプはシリアスに仕立てられた。
車高は落ち、フェンダーアーチを18インチ・ホイールが満たした。路面に低く構えたスタンスは、過度に主張することなくライバルへ伍する能力をアピールした。
優雅なラインのボンネット内には、スーパーチャージドV8エンジンを搭載。新しいヘッドとピストンなどで排気量は4.2Lへ増え、ブロワーとエグゾーストシステムにも改良を受けている。
BMWと同様に、サスペンションへジャガーはしっかり時間を割いた。Sタイプ R用のサブフレームには、アルミニウム製のリンクが取り付けられている。CATSと呼ばれたアダプティブダンパーは、減速時や旋回時にボディを水平に保持した。
Sタイプは2002年にフェイスリフトを受け、ルーフパネルがレーザー溶接されるなどボディ剛性が向上していた。さらにRでは、リアシート後方に補強パネルが追加され、一層の高剛性化が図られていた。
ただし、E 55 AMGと同様にリミテッドスリップ・デフは不採用。トラクション・コントロールの能力を存分には発揮できなかった。
この続きは中編にて。
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