日本発信の最終版インテグラーレが、モナコのオークションに登場
今や国際オークションでも主役の一端を担う人気モデルとなったランチア「デルタHFインテグラーレ」だが、かつて日本に生息していた個体を海外オークションで見つける事例も、珍しくなくなってきています。2024年5月10日から11日に、地中海に面した見本市会場「グリマルディ・フォーラム」を舞台として開催されたRMサザビーズ「MONACO」オークションでは、日本の「ガレーヂ伊太利屋」のオーダーで限定生産された「デルタHFインテグラーレ エヴォルツィオーネII “エディツィオーネ・フィナーレ”」が出品され、ファンの間で話題を呼びました。そこで今回はそのモデル概要と、注目のオークション結果について、お伝えします。
ランチア「デルタ」は「マルティーニ」より「黄色」がお高い!?「エボルツィオーネ2」は2000万円前後が相場です
エヴォII限定車随一の人気モデルは、ガレーヂ伊太利屋の発案
1992年シーズンの「世界ラリー選手権(WRC)」にて、前人未到のマニュファクチャラーズタイトル6連覇を達成したのち、グループAホモロゲートモデルとしての役割を終えたランチア「デルタHFインテグラーレ」だが、翌1993年には燃料噴射システムをシーケンシャル化し、従来型「エヴォルツィオーネ」から5psアップの215psをマークした最終型「エヴォルツィオーネII」に進化を遂げる。
くわえて、アロイホイールもエヴォルツィオーネIと同じ基本デザインながら、15インチから16インチに大径化され、アピアランス上の迫力をさらに増していた。
このエヴォルツィオーネII時代は、1993年の「マルティーニ6」を皮切りに、「ブルー・ラゴス」や「ジアッラ」など複数の限定バージョンが設定され、それぞれ現在の国際クラシックカー市場にて非常に高い評価を受けているのはご存知のとおり。でもそんなエヴォII限定モデルの中でも究極の1台と目されているのが、その名のとおり名車デルタHFインテグラーレの最後を飾る「エディツィオーネ・フィナーレ」だったのだ。
このモデルは、歴代インテグラーレの日本正規輸入元として、世界的ヒットに多大な貢献を果たしたと認められた「ガレーヂ伊太利屋」の要請により、250台のみが製作された限定車。同社からの要請で、ランチア首脳陣は日本のトップクラスの顧客が開発拠点を訪れることを許可し、ランチア デルタの特別な日本専用モデルの開発に貢献したという。
その成果として完成した、エディツィオーネ・フィナーレの仕様は印象的で、ランチアが日本の顧客を喜ばせるために配慮したアプローチを反映したものだった。
「ロッソ・アマラント(ダークレッド)」にイエロー&ブルーのストライプは、1960~1970年代のラリーで活躍した「フルヴィアHF」ワークスカーへのオマージュ。アンスラサイト(濃灰色)仕上げの16インチ径スピードライン「モンテカルロ」アルミホイールが装着され、マットブラックのベントとベーンが全周を引き立てている。また、ブラックのボンネットベントとメッシュグリル、ステアリングホイールセンターと同じカーボンファイバー製のフューエルキャップ、そして特別なバッジがあしらわれている。
インテリアでは、ブラックのアルカンターラと布製のレカロ製バケットシートが装備されるほか、アルミニウム製のペダルやシフトノブ、レーシングスタイルのシフトレバー、カーボンファイバー製トリム、さらにプッシュ式のエンジンスタートスイッチが装備されたほか、インテグラーレのスペシャルエディションで唯一、リアアクスル側に「OMP」社製ストラットバーも装着された。
日本で一定期間を過ごしたシリアルナンバー244
今回のRMサザビーズ「MONACO 2024」オークションに出品されたランチア デルタHFインテグラーレ エヴォルツィオーネII “エディツィオーネ・フィナーレ”は、オークション出品にあたって添付された「ランチア・クラシケ原産地証明書(Lancia Classiche Certificato di Origine)」によると、1995年1月19日にラインオフしたとされ、日本市場専用の限定250台の最終期にあたる244番目の生産車両とのことである。
ファクトリーから出荷されたのちのヒストリーは、少なくともRMサザビーズのオークション公式ウェブカタログには記されておらず、またリアウインドウに貼られていた有名な「garage伊太利屋」のディーラーステッカーの痕跡も見られないようだが、エンジンルームには日本語表記のコーションステッカー2枚が確認できることから、当初の目的どおり日本に正規輸入された1台であることは紛れもない事実であるようだ。
同じく添付された整備記録簿とインボイスによると、正確な時期は不明ながらイングランドに輸出され、2023年2月に英国ノース・ヨークシャー州ノーサラートンに本拠を置く、有名なHFインテグラーレのスペシャリスト「ウォーカーズ・ガレージ(Walkers Garage)」社にて、大規模なメインテナンスを受けている。
この整備の際には、ブレーキシステムやセントラルロックシステム、ロワーサンプパンなどが改修されたとともに、同時期にイギリスの車検に相当する「MoT」検査にも合格したものの、英国内のナンバー登録はされていないとのことであった。
このエディツィオーネ・フィナーレのシリアルナンバー244は、ともすれば悪趣味なモディファイが施されがちなデルタHFインテグラーレの中にあって、アップグレードされた排気システムを除いては一切の改造も施されていない、稀有な1台といえよう。
くわえて、公式カタログ作成段階での走行距離は8万2860kmと、ヨーロッパの常識ではローマイレージ。インテリアトリムには新車時以来の保護フィルムが残されているなど、オリジナリティやコンディションの面でも申し分ないとアピールされていた。
このデルタ エヴォII “エディツィオーネ・フィナーレ”に、RMサザビーズ欧州本社と現オーナーは、協議の結果18万ユーロ~20万ユーロというエスティメート(推定落札価格)を設定した。
エディツィオーネ・フィナーレといえば、2021年5月に英国「アイコニック・オークショネア」社が開催したオークションでは、21万8250英ポンドで落札された事例もあることから、日本円では約3060万円~3400万円に相当する今回のエスティメートは、きわめて順当なものとも思われた。
ところが、実際の競売では思いのほかビッド(入札)が伸びなかったようで「Not Sold(流札)」に終わってしまい、現在は上記のエスティメートを表示したままRMサザビーズ社の営業部門で継続販売とされているようだ。
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