業界を騒がせた偉大なる「部外者」たちの物語
ミシンから銃、テレビ、航空機などを製造・販売している会社が、さまざまな理由で自動車を作り始めることがある。業界の常識にとらわれない自由な発想で世界を驚かせることもあれば、何ら違和感なく市場に溶け込みそうな現実的なコンセプトを掲げることもある
【画像】常識にとらわれない発想力【アウトスパン、カラシニコフ、ソニーの自動車を写真で見る】 全57枚
そのまま自動車業界で有名になった会社もあれば、無名のまま消えていった会社もある。ソニー、シーメンス、そしてカラシニコフといった会社が作った自動車を紹介しよう。
ソニー
ソニーは2020年のCESショーで、「ビジョンS」と名付けたEVを発表した。当時ソニーは、これ以上の計画はないと述べていたが、今年1月のCESで、先のセダンをベースにしたSUV「ビジョンS 02」を発表したのだ。
7人乗りのこの新型車は、最高出力272psの電気モーターを2基搭載しているが、目標航続距離についてはまだ言及されていない。興味深いことに、発表の場でソニーは「EV市場への参入を検討していく」と述べている。
電機メーカーが自動車市場に参入することは、まったく前例がないわけではない。サムスンは90年代に自動車製造部門を持っていたが、その後ルノーに売却している。
スタインウェイ
1888年、ニューヨークでピアノを作っていたウィリアム・スタインウェイは、ゴットリープ・ダイムラーの社名をライセンスして、ダイムラー・モーター・カンパニーを設立した。つまり、世界にクルマというものが誕生してからわずか3年後に、ダイムラーは米国市場へ参入していたのである。
スタインウェイは自動車製造を始める前の1896年に亡くなり、相続人はダイムラー社の株をゼネラル・エレクトリック社に売却してしまった。1904年になってようやく、メルセデス製のエンジンを搭載した最初の「アメリカン・メルセデス」が製造された。
アウトスパン・ミニ
アウトスパンは、南アフリカのオレンジ会社だ。1970年代初頭、英国のブライアン・スウェイツ社に欧州向けの宣伝用車両の製作を依頼。カスタムしやすいミニをベースに、オレンジの皮の質感まで再現したリアルなボディをミニのシャシーに装着した。製作された6台のうち、現存するのは3台である。
AUTOCARは2019年に一度だけ、試乗したことがある。車内の雰囲気は、1970年代のティーンエイジャーが思い描く空想の寝室のようだった。窓は1つも開かず、車内は収穫期の太陽のようにどんどん熱くなっていく。
まさかこのオレンジ玉が、普通のミニのように素早くコーナーを曲がれるとは思わなかった。ただ、意欲的にペースを上げていくと(50~60km/h程度でも速いと感じる)、車体の挙動はコークスクリューのように不安定になり、翌朝の新聞の見出しを飾りそうな気配があった。
ボーイング
2019年、ボーイングとポルシェがタッグを組んで、空飛ぶコンセプトカーを開発すると発表した。そして、この画像がそれだ。まあ、とにかくまだ名前のない空飛ぶクルマがどのようなものであるかを示すイメージだ。
両社ともこれが「離陸」する時期については何も示していないが、2018年のポルシェによる調査では、早ければ2025年には都市型エアモビリティ市場が勢いをつけ始める可能性があるという。
ヴォワザンC5
ガブリエル・ヴォワザン(1880~1973年)は、自動車会社を設立する以前は航空事業でよく知られていた。フランスの航空業界のパイオニアである彼は、動力飛行が可能な最初期の有人飛行機を製作し、彼の会社アヴィオン・ヴォワザンは世界初の航空機量産メーカーであった。
第一次世界大戦が終わると航空機の需要が激減したため、ヴォワザンは動力付き自転車の実験に着手し、さらにアンドレ・シトロエンの設計をもとに2人乗りの自動車を開発した。そして1919年、M1が誕生した。
写真のC5は、1923年から1928年にかけて生産されたもので、最高速度は125km/hに達する。2013年のオークションでは、C25エアロダインという超レアモデルが190万ドル(約2億2000万円)で落札された。
アップルiCar
このIT業界の巨人は、2016年当時、携帯電話で行ってきたように自動車でも革新を行うという大胆な計画を持っていた。しかし、実際の車両を見せることはなく、プロジェクトは謎に包まれたままだった。そして2019年、アップルは「プロジェクト・タイタン」チームを淘汰し、自動車そのものではなく、自動運転システムに焦点を切り替えたと述べている。
2017年からは、本社に近いクパチーノの街中で自動運転技術を搭載したレクサスRX 450hをテストしている。
シーメンス・エレクトリッシュ・ヴィクトリア
1840年代に電信技術などの発明で有名になり、今日では消費財、鉄道、医療機器、IT技術で知られているシーメンスは、1905年にEVを製造して未知の領域に足を踏み入れたことがある。このエレクストリッシュ・ヴィクトリアは、最高速度30km/h、航続距離約60kmを誇った。4人乗りのオープンカー、ピックアップ、バンの3種類のタイプが用意され、販売台数は50台程度であった。
2010年、シーメンスは初期のスケッチをもとに実用的なレプリカを製作したが、同年末にドイツで事故に遭い、プロジェクトのリーダーが死亡している。
Nvidia
米国の半導体大手Nvdiaが、自動運転の「ロボレース」向けに開発した無人レーシングカー。同社のDrive PX2を演算ユニットとして搭載し、同じマシンを10チームが走らせることで、技術や精神力ではなくソフトウェアの優劣を競う。
グーグル・ファイアフライ
ウェイモはグーグルの自動車部門であり、2009年から無人走行システムの設計を行っている。これまでで最も有名な製品は、ハンドルもペダルもない可愛らしい虫の形をした自動運転ポッド「ファイアフライ」だ。
グーグルの本拠地マウンテンビュー周辺の道路で普通に見かけられたが、2017年に運行中止となった。ウェイモは今後も自律走行技術の開発を続けるが、他社のモデルをベースとして使用する。
ミシュランPLR
70年代、ミシュランはタイヤテストのためにプロトタイプの自動車を作った。シトロエンDSをベースに、シボレーのビッグブロック・エンジンを2基搭載。最大の特徴はなんといっても10輪のデザインだ。「ムカデ」の愛称が付けられたPLRは、大型トラックほどのサイズで、車重9500kgに達する。ボディの真ん中にトラック用の大径タイヤを搭載し、最高速度160km/hでの走行テストが行われた。
NASA
宇宙へ行くのはいいのだが、行ってからの移動が大変なのだ。人類が初めて月に降り立って以来、NASAは地球外探査を容易にするために、さまざまなタイプの乗り物を設計・製造してきた。
これは2017年に発表されたそのマーズ・ローバー(火星探査車)の1つで、移動実験室というよりはバットマンが乗るバットモービルのような外観をしている。NASAは2030年代に火星に人を送り込む有人ミッションを計画中だ。
グラマンLLV
米国に住んでいる人なら、今日、あなたの郵便物がこのトラックで届けられた可能性が高い。グラマンLLVは、米国郵政公社が使用する軽輸送トラックだ。90年代に製造され、14万台以上作られたLLVは、現在も現役で活躍している。1994年にノースロップ社と合併した軍用機・民間機メーカーのグラマン社(戦闘機F-14トムキャットで有名)によって製造された。
サムスン・デジタルコックピット
サムスンもまた、自動車産業に参入しようとする巨大企業だ。2020年のCESでは、実車のようなプロトタイプ車を用いてデジタルコックピットを披露した。子会社のハーマンと共同製作した4人乗りのオープンカーの車内で、車内エンターテインメントと安全性の未来像を見せたのである。
サムスンのデジタルコックピットは、5G通信技術を使って車内外の機能を連携させ、ドライバーと乗客がよりつながった体験を提供するものだ。車内には8台のディスプレイと8台のカメラがあり、車外のリアディスプレイにメッセージを表示することで他の車両と情報を共有することができる。
サムスンXM3インスパイア
サムスンにとって初の自動車プロジェクトは、前述のデジタルコックピットではない。2019年にはルノーとの提携でXM3インスパイアというコンセプトを発表している。XM3は、2018年に登場したルノーのSUVアルカナのリバッヂモデルである。
リアをすぼませ、よりスポーティな外観に仕上げているのが特徴だ。今年、韓国で生産が開始される予定である。
メッサーシュミットKR200
第二次世界大戦後、ドイツの有名な航空機メーカーであるメッサーシュミットは、もう航空機を作ることを許されなかったので、代わりに自動車事業に乗り出した。フリッツ・フェンド(1920~2000年)がデザインし、メッサーシュミットが製造したKR200は、「キャビネンローラー(キャビン付きのスクーター)」という愛称で呼ばれた。
この小さな3輪のマイクロカーは、戦後の欧州大陸が安価な移動手段を必要としていた時代に人気を博した。1955年から1964年まで製造されたが、ミニのような少し大きめで快適なモデルが手頃に買えるようになり、マイクロカー市場は縮小していった。メッサーシュミットは1968年に航空業界に復帰し、現在はエアバス社の傘下に入っている。
カラシニコフCV-1
ロシアのカラシニコフといえば、どこにでもあるアサルトライフル「AK-47」が有名だが、近年は武器の世界以外にも手を広げている。2018年には、小型車のIZH-21252をベースにした、ソ連時代を思わせるレトロな外観のハッチバック「CV-1」を公開した。
カラシニコフは、CV-1が90kWhのバッテリーと最高出力690psを持つテスラと同じくらいEV市場にとって重要な存在になると主張している。その設計力というか、自信には敬服せざるを得ない。その後、このプロジェクトについては、ほとんど音沙汰がない。
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