愛車を見せてもらえば、その人の人生が見えてくる。気になる人のクルマに隠されたエピソードをたずねるシリーズ第34回。前編は、俳優・アーティストの吉田栄作さんが車歴の前半を振り返る! アメリカ生活で乗っていたジープと久しぶりに対面した。
俳優になるため免許を取得
長身の吉田栄作さんがジープ「チェロキー」の前に立つとぴたりとハマり、一枚の絵になった。
吉田さんにそう伝えると、「アメリカで暮らした3年の間、ほぼ毎日乗っていましたからね」と、笑みがこぼれた。チェロキーを見つめる吉田さんの眼差しが、優しい。
「1995年に26歳でアメリカに渡ったとき、まずアパートを見つけて、それからクルマを探したんですよ。もともと海が好きで、海に似合うSUVを考えていました。子どもの頃に父から『ジープっていうクルマは海でも走れるんだぞ』と、聞かされて、ジープというブランドに憧れがあったんでしょうね。そうこうするうちに、1984年型の赤いジープ・チェロキーが見つかったんです。確か5000ドルで、距離計を見ると10万マイルを超えていました。キロ表示になおすと16万kmですが、それでもよく走ってくれました。エンジンもすごく調子がよくて」
1984年型ということは、ジープ・チェロキーが初めてのモデルチェンジを受けて2代目に移行した年のモデルということになる。チェロキーの思い出を語る前に、運転免許を取得した時点に遡って、吉田さんのクルマ生活を振り返っていただいた。
「16歳で原付の免許を取ったんですが、高校2年生の時に俳優養成所に入ったんですよ。当時は『太陽にほえろ!』とか『西部警察』といった刑事ドラマが全盛で、デビューしたらすぐにクルマの免許が必要になると思ったんですね。両親に、大学も専門学校も行かずに俳優を目指すから教習所に通わせて欲しいと頼んで、18歳で普通免許を取りました。いま振り返ると、よく両親は反対もせずに、すんなりとOKしてくれたと思いますね」
19歳で映画『ガラスの中の少女』でデビューした吉田さんは、あっという間に人気俳優になっていく。
「うちの事務所は社有車で送迎するのではなく、俳優が自力で現場に行くという方針でした。だから電車でスタジオまで行って、ロケバスに乗せてもらって撮影現場まで行って、スタジオで解散、という日々でした。でもデビューから2年ぐらい立つと、通勤通学の時間帯で電車に乗ると騒ぎが起こるようになって……朝の田園都市線で女子高生に囲まれてしまいう、身動きがとれなくなってしまったこともありました。で、事務所に相談したんです。そうしたら“自分でクルマを用意して、運転手さんも雇いなさい”ということになりました。運転手さんの面接と募集は事務所がやってくれたのかな……。こうして、音楽もやっていたので機材を積めるワンボックスがいいなと思って、三菱『デリカ』を移動用に買いました。22歳の頃ですね」
吉田さんが22歳ということは1991年頃の話だから、角張ったボディが特徴の3代目のデリカ(スターワゴン)だったはずだ。このクルマで移動しているうちに、吉田さんは自分でもハンドルを握りたくなったという。
「休みの日には自分も運転できるように、同じ三菱の『パジェロ』を買いました。やっぱりジープ系のスタイルが好きなんでしょうね」
吉田さんが購入したのは、2代目の三菱パジェロ。パリ-ダカール・ラリー優勝の追い風もあり、新車の月間販売台数で1位となるなど、大ヒットしたモデルだ。
「パジェロはすごく気に入っていて、26歳でアメリカに渡ったあとも日本のガレージに置いたままでした」
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「22歳ぐらいで、近い将来にリセットしたいと思い始めました。24歳のときに、ドラマ(TBS系列『徹底的に愛は…』)の撮影と、YOSHIKIさんがプロデュースしてくださった『今を抱きしめて』(NOA)という楽曲のレコーディングでアメリカのロサンゼルスに行ったんです。1週間ぐらいロスで過ごすうちに、ここに来るべきじゃないかとピンときたんですね。海があって、勉強ができて、挑戦ができるという三拍子が揃っていた。世界地図のロスの場所に、ダーツの矢が刺さったんです」
ジープ・チェロキーの運転席に座りながら、吉田さんはアメリカでの暮らしを懐かしそうに振り返った。
「アパートのすぐそばにサンタモニカブルバードがあって、西へ向かうとどんつきでオーシャンアベニューという海沿いの道に出るんです。オーシャンアベニューにはパーキングスペースがあって、そこにチェロキーを停めて韓国人のご夫婦がやっているカフェでコーヒーを買って、公園で本を読んだりギターを弾いたり。ロスに行った最初の頃は、まだ友だちもいませんでしたから」
ここで、吉田さんのアメリカでの相棒となったジープ・チェロキーを紹介したい。
1962年に、ジープのメカニズムを活用したワゴン版のジープ「ワゴニア」が発表される。そして1970年にジープを傘下に収めたAMC(アメリカン・モーターズ・コーポレーション)が、ワゴニアの2ドア版である初代チェロキーを1974年に送り出した。
吉田さんが購入した2代目チェロキーは、1984年デビュー。2001年まで生産された長寿モデルで、スタイリッシュなスタイリングと扱いやすいサイズ感、アフォーダブルな価格などが相まって、日本でもヒットした。
「カリフォルニアの青い空に赤いボディが映えていたのを思い出します。2週間に一度は自分で洗車していましたね。ロスではちょっとスーパーに行くのにもクルマが必要ですから、いつも一緒。チェロキーを見ていると、アメリカでの思い出が蘇ってきます。1998年に帰国するんですが、アパートとチェロキーはそのままにしておいて、そうだなぁ……、チェロキーは手放すのが辛くて、1年ぐらい持っていたんじゃないかなぁ」
1998年に帰国した吉田さんは、日本に置いてあった三菱パジェロに乗るようになる。
そして2001年、チェロキーがフルモデルチェンジをしたタイミングで、シルバーに塗られた3代目チェロキーを購入した。
「3代目は丸目がかわいくて、ひと目惚れでした。このチェロキーもすごく気に入って、2001年からついこのあいだまで、19年も乗ったんですよ」
これほどまでに吉田栄作さんはチェロキーを愛しているわけで、このクルマの前に立つと絵になるのは、ある意味で当然のことなのだ。
吉田栄作(よしだえいさく)1969年1月3日生まれ、神奈川県出身。1988年『ガラスの中の少女』でデビュー。1991年、ドラマ『もう誰も愛さない』(フジテレビ)『愛さずにいられない』(日本テレビ)などでトレンディドラマ俳優として一世を風靡。2003年にはNHK大河ドラマ『武蔵』、『ブラックジャックによろしく』(TBS)の演技が評価されギャラクシー賞の奨励賞を受賞。2021年は『全裸監督シーズン2』(Netflix)など数多くの作品で活躍。音楽活動では1990年に『心の旅』、1992年に『もしも君じゃなきゃ』でNHK紅白歌合戦に出場。2019年には歌手デビュー30周年を迎え全国ツアーを実施、俳優デビュー35周年の昨年にはシングル『Old Soldier~老兵の剣~』をリリース。今年、5月から東京パルコ劇場を皮切りに大阪、愛知、福岡でシェイクスピア舞台『ハムレット Q1』に出演。
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文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) ヘア&メイク・TOSHI熊田 スタイリング・勝見宜人(Koa Hole inc.) 編集・稲垣邦康(GQ) 撮影協力・パシフィコ横浜
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一台一台を長く乗り続ける吉田栄作さん、カッコイイ!