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“トヨタの天才タマゴ”
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俳優の吉沢悠さんが、「こんなにきれいな個体がまだ残っているんですね」と、感嘆の声をあげた。撮影場所にあらわれたトヨタの初代エスティマは確かにぴかぴかのコンディションで、大切に乗られていることが伝わってくる。
運転席をのぞき込んだ吉沢さんは、「そうそう、このコラムシフトがいかにも運転しているという感じがして大好きでした」と、当時を懐かしむ。1978年生まれの吉沢さんが運転免許を取得して、最初に乗ったクルマがこのエスティマだったのだ。
ちょっと意外なのは、20歳そこそこの若手俳優だった当時の吉沢さんと、ファミリーカー然としたミニバンの組み合わせだ。なぜ、人生初の愛車としてエスティマを選んだのか。当時を振り返ってもらう前に、初代エスティマがどんなクルマだったのかを簡単に紹介したい。
エスティマがデビューしたのはバブル華やかなりし1989年の東京モーターショーで、販売は1990年から始まった。一般に、日本におけるミニバンの大ブーム到来は1994年デビューのホンダ「オデッセイ」がきっかけだったとされるから、日本人の目にエスティマは新鮮に映ったはずだ。
当時のキャッチコピーは“トヨタの天才タマゴ”で、丸みを帯びた、ゆで卵のようにツルンとした外観が特徴だった。
ルックスだけでなく、メカニズムも斬新だった。2.4リッターの直列4気筒エンジンを右方向に傾けて、床下に搭載するミドシップレイアウトを採用したのだ。エンジンを横に傾けるためには、オイルや冷却水の配管を換える必要があることから、エスティマ専用に設計された。バブル期だからこそ可能になった、贅沢な開発手法だったとも言える。
当時のトヨタのディーラーには、「ボンネットにエンジンがない!」という、笑い話のようなクレームもあったと聞く。
エンジンを床下に配置することでフラットなフロアを実現、おまけに2列目シートはクルッと反転して3列目シートを対面にすることができたから、インテリアはまるでリビングルームのような雰囲気になる。
余談ではあるけれど、重量物のエンジンが車体の中心に集まるミドシップレイアウトを採ったこともあり、当時の自動車専門誌では「望外の好ハンドリング」とその操縦性が絶賛されていた。
つまり、“天才タマゴ”はただの宣伝文句ではなく、本当に画期的なアイデアから生まれていたのだ。ちなみに、2000年に発表された2代目エスティマは、一般的なFF(フロントエンジン・フロントドライブ)のレイアウトになっている。
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ただし実際に免許を取得すると、自分のクルマが欲しいと思うようになる。きっかけは、サーフィンだった。
「10代の頃から先輩にサーフィンへ連れて行ってもらっていたんですが、ハマるにつれて、自分の好きな時に行きたくなるじゃないですか。それで、仲間数人と人数分のサーフボードを積めるクルマ、という条件でクルマを探しました。デビューしたばかりの頃に、『世界ウルルン滞在記』という番組に出させてもらったんですが、その時に知り合って今も仲良くしている技術スタッフの方がすごくクルマに詳しくて、一緒に中古車屋をまわってくれたんです」
ステーションワゴンにするか、ミニバンにするか、最後まで悩んだという。最終的にエスティマを選んだのは、背が高いことによる積載性とともに、トヨタ車だったことが大きいという。
「先ほどコラムシフトが好きだったと話しましたが、インパネに空調やオーディオが集中していて、自分の手が届くところですべての操作が完結するのも好きでした。運転席や助手席からの眺めが、クルマというよりロマンスカーとかパノラマカーっぽいのもよかったなぁ……。空間が広いせいか気持ちに余裕が生まれて、気を使わずに楽しくドライブした記憶があります」
感慨深げにエスティマの細部をチェックする吉沢さんは、「エスティマに乗るようになってからは、夏だけじゃなくて冬にもサーフィンへ行くようになりました」と、語る。
「湘南にも行きましたけれど、主に千葉ですね。千葉は北から南まで、いろいろ行きました。あんなに大人数でサーフィンへ行ったのは、後にも先にもエスティマの時代だけです。まだ免許を取っていない仲間もいたし、結局エスティマが一番広いから、僕がクルマを出す機会が多かったですね。当時、『また俺が運転するんだよね』とか思ったんですけど、みんな仕事が忙しくなったり家族ができたり、だんだん一緒に海に行く機会が減っていったので、僕がエスティマを運転して海に行っていたあの頃は幸せな時期だったんだなぁ、と、今になって思います」
今、興味があるクルマとはエスティマ以降の愛車については後編となる次回に語っていただくとして、現時点で興味のあるクルマを挙げてもらうと、それはクラシック・ミニだった。
「WOWOWの『准教授・高槻彰良の推察』というドラマで、実際に動かしてはいなんですが、運転席に座って撮影したんです。本当に小さいんだなということと、ものすごく雰囲気があるなぁ、と、思いました。あと、歴史を感じさせるレトロなクルマに乗りたいなという気分もあって、今はミニに興味を持っています」
1959年の夏、オースティン・セブン850という名前で登場し、1962年にミニへと改称したこのクルマは、スエズ動乱に端を発するエネルギー危機を乗り越えるためのエコカーとして開発された。短いボンネットにエンジンを横置きして前輪を駆動するレイアウトは外見から想像するよりはるかに広い室内空間を実現、コンパクトカーに革命をもたらした。
昨今はクラシックカーがブームで、軒並み高騰している。そのなかにあって、2000年までの長きにわたって生産されたクラシック・ミニはタマ数も部品も豊富であることから、ちょっと古いクルマの入門用に最適との声もある。
「都内をマニュアル(トランスミッション)で乗るのは大変かとも思うんですが、オートマもありますか?」
もちろんオートマもたくさんあると答えると、吉沢さんの表情がパッと明るくなった。
「ちょっと古い輸入車って色々ありますよね。色々あるから愛着が湧くのかもしれませんね」と、遠くを見つめた。
吉沢さんと輸入車との間にあった知られざるエピソードとは? 続きは、後編で届けたい。
吉沢悠(よしざわひさし)1978年8月30日生まれ、東京都出身。1998年に『青の時代』(TBS系)でドラマデビュー。以降、2003年に『動物のお医者さん』(テレビ朝日系)で主演を務めるなど数多くのドラマに出演。近年ドラマでは、『ギバーテイカー』(2023・WOWOW)、『悪女について』(2023・NHK BS4K)、『夫婦が壊れるとき』(2023・日本テレビ)、『週末旅の極意~夫婦ってそんな簡単じゃないもの~』(2023年・テレビ東京系)、『泥濘の食卓』(2023年・テレビ朝日系)などに出演。2024年7月より主演舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」に出演する。
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文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) ヘア&メイク・Ryo スタイリング・上井大輔 編集・稲垣邦康(GQ) 撮影協力・パシフィコ横浜
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みんなのコメント
文字数稼ぎですか?
もうひょんなことからの変なご自慢記事はやめたの?