日本において盤石の人気を誇るドイツ車に比べて、いまひとつマイナーな雰囲気が払拭できないフランス車。近年はルノー・カングーや一連のルノー・スポール・モデルのヒット、プジョー206の爆発的ヒットによる知名度の向上などにより、以前よりは街中でも見かけるようになりましたが、それでもまだ少数派であることには違いありません。
そんなフランス車の中でもさらにマイナーな存在が、シトロエンです。日本では、正規輸入されている車種すら少なく、知る人ぞ知るブランド…という立ち位置はしばらくの間変わっていません。
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ところが一転。フランスの隣国・ドイツにおいては、シトロエンはメジャーな輸入車ブランドのひとつ。乗用車のラインナップは小型ハッチバックからスポーツモデルまで幅広く、かつ「ベルランゴ」に代表されるような軽商用車も数多く輸入されています。今回の主役は、シトロエンの小型ハッチバック「サクソ」。日本ではほとんど見かけなくなった、この小さなハッチバックを紹介していきたいと思います。
プジョー106の兄弟車
シトロエン・サクソがデビューしたのは1996年。シトロエンAXの後継車として開発されました。同年代のシトロエンの他モデルに比べると、かなりアクの少ないデザインだと感じる方も多いのではないでしょうか。プラットフォームとコンポーネントはプジョー106と共有していて、エンジンやサスペンションなどは基本的に同一のものとなっています。
見るからに小型エンジンを横置きしたFFそのもののフォルムのプジョー106に比べ、サクソはほんの少しだけ「ロングノーズ」を匂わせるデザインとなっています。同時代のXMやエグザンティアを彷彿とさせるエクステリアに寄せている点はご愛嬌、といったところですね。
サクソに搭載されたエンジンはかなり多岐にわたっていて、1.0Lガソリン、1.1Lガソリン、1.4Lガソリン、1.5Lディーゼル、1.6Lガソリン(SOHCとDOHCの2種類)、そしてさらにバッテリー式の電気自動車も用意されていました。もっとも、電気自動車の販売についてはあまり成功したとはいえず、先代モデルのAXとあわせても約2800台しか生産されなかったといわれています。
日本導入当初の名前は「シャンソン」
サクソは日本導入当初、商標の関係でネーミング変更を余儀なくされ、その際に選ばれた名前が「シャンソン」でした。そのネーミングはあんまりだ、となったのか、はたまた商標の問題がクリアになったからか、翌年には本来の「サクソ」のネーミングに戻り、プジョー106S16と同クラスのスポーツグレード「VTS」、1.6LのDOHC搭載・3ドアモデルだけが輸入されるようになります。
「シャンソン」時代には3ドアと5ドアの1.6LのSOHC・3速ATモデルが輸入されていましたが、そのほとんどは日本に残っていないでしょう。「VTS」に関しても、日本の中古車市場で見かけるのはわずかに数台、という希少車になっています。サクソ最後の年である2003年には、最終生産分60台を「スーパー1600」として限定販売し、日本での販売を終了しました。設計上、右ハンドルにするとエアコンが取り付けられなかったので、左ハンドルだけの販売になってしまったことも、日本市場で受け入れられにくかった一因かもしれません。
モータースポーツの登竜門として
シトロエンのイメージといえば、日本ではかつて「優雅なデザインと優れた乗り心地の高級車」というものだったのかもしれませんが、ヨーロッパではWRCでの活躍から、古くからスポーティなイメージもかなり強いブランドです。日本に導入された最後の限定車「スーパー1600」というグレード名も、当時のWRCのクラス名が由来となっています。
フランス本国ではワンメイクレースが開催されたり、WRCのスーパー1600クラスで活躍するなど、若く有望なドライバーを数多く育てたクルマでもあるサクソ。現代のクルマのような電子デバイスはほとんど搭載されておらず、値段も手頃、ハンドリングも良好だったサクソは、FFドライビングの基本を学ぶには最高の教材だったのでしょう。
また、本分である「大衆車」としても、サクソは大いに活躍。ドイツにおいても堅実な販売を記録しました。現在のドイツでは、スポーティグレードを見かけることは稀で、写真のようなベーシックグレードのサクソが大多数を占めています。写真のサクソは1.1Lモデルで、ホイールキャップがなかったり、ドアに大きな凹みがあったりと、決して綺麗な個体ではありませんが、現在もオーナーの日常の足として活躍しているに違いありません。
日本ではプジョー106の人気に押され、不人気車となってしまったシトロエン・サクソ。とはいえ、生まれ故郷のヨーロッパでは、オーナーたちの相棒として、今後も元気に走り続けていくことでしょう。
[ライター・カメラ/守屋健]
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