この記事をまとめると
■法人向けの三菱eKクロスEVとミニキャブ・ミーブの販売をヤマダデンキで行っている
かつてはナンバーから「自宅を突き止めて」訪問するセールスも! イマドキの新車の売り方と「閉店間際に来店」が有効なワケ
■BEVの普及は既存の新車ディーラーの既得権益を打破する可能性がある
■これは海外メーカーの参入障壁を下げることにも繋がる
ヤマダデンキで販売してメンテナンスも提携工場で請け負う
2023年6月29日、三菱自動車工業(以下三菱自動車)と株式会社ヤマダデンキ(以下ヤマダデンキ)は、同年7月4日よりヤマダデンキの神奈川と埼玉県内にある計5店舗において、三菱自動車のBEV(バッテリー電気自動車)軽自動車となる、“eKクロスEV”と“ミニキャブ・ミーブ(商用車)”の法人向け新車販売を開始することを発表した。
三菱自動車とヤマダデンキ(当時は株式会社ヤマダ電機)は2010年12月に軽規格BEVとなる(当時)“i-MiEV”をヤマダ電機の東京都及び神奈川、埼玉両県の17店舗で試行販売する覚書を締結し、一時期販売していたこともあるので、今回の法人向け新車販売は“再販売開始”といった表現もふさわしいかもしれない。
今回の協業では、三菱自動車の子会社的存在となる販売会社“東日本三菱自動車販売株式会社”の営業テリトリー内にあり、法人向け自動車販売を手掛けるヤマダデンキの5店舗でまず販売を開始し、その後は11店舗まで増やす計画にあるとのこと。
ヤマダデンキで販売した車両のアフターメンテナンスについては、ヤマダデンキがJARWA(一般社団法人日本自動車車体補修協会)と構築しているサービスネットワークが担当することになる。
ヤマダデンキはJARWAと2021年4月1日に“ヤマダ車検”に係る業務委託契約を締結している。ヤマダデンキが集めたお客をJARWAがJARWA提携整備工場への取り次ぎなど運営管理業務を行うというもの。ヤマダ車検は点検車両については工場への持ち込みがいらず、自宅での引き取りそして納車が可能。さらに法定費用も含め専用ローンでの分割払いが可能となっている。
大手家電量販店という異業種での自動車販売となるわけだが、いまは一部メーカーのBEVとなっているものの、今後BEVの異業種での販売拡大は進みそうな感じがする。一方でそのままHEV(ハイブリッド車)などICE(内燃機関)搭載車にまで手を広げるというのはなかなか考えにくい。“BEV=電気=家電”ということで、家電量販店の店頭でのBEV販売では“電気を使う”という共通項があるので売りやすい。また、ヤマダデンキはリフォーム事業にも積極的に取り組んでおり、そのなかにはオール電化リフォームや太陽光発電設備の設置などもあるので、トータルコーディネートとしてBEV販売が馴染みやすいといえるだろう。
いま世間を騒がしている、某大手自動車買い取り及び中古車販売店は、点検・整備工場を持ち、自動車保険代理業務も行うなど、自動車に関してその店を訪れるだけですべてのサービスを受けられる“ワンストップサービス”の提供をめざし業務を拡大していった。
ただ、新車販売については、原則各都道府県1社といった形でメーカーと専属販売代理店契約を結んだ販売会社が行っており、各地域でそのような契約を結んだディーラー以外は、メーカーから車両を仕入れて直接新車販売することはできないので、某大手買い取り及び中古車販売店でも新車の直接販売は、やりたくてもできなかったものと考えている。
日本では、メーカーと子会社関係にある“直資ディーラー”と呼ばれるものがある一方で、“地場資本ディーラー”と呼ばれる、そもそも地元で新車販売以外の事業を行っている有力企業が、新たに新車販売会社のオーナーになるケースもある。諸外国ではひとつのオーナー企業が複数のメーカー系正規ディーラーを経営するのは半ば当たり前となっている。たとえば、レクサス店を経営しているオーナー企業が、メルセデスベンツ正規ディーラーも経営するようなことは当たり前となっているのである。
そして、オーナー企業として“実入りのいい(より儲かる)”ブランドの販売を積極的に行っていることもザラだと聞いている。また、たとえばアメリカでGM(ゼネラルモーターズ)ディーラーを長く経営していたオーナーが、“ヒョンデが儲かりそうだ”ということで、新たにヒョンデディーラーの経営にも乗り出し、GMディーラーの敷地内にショールームを構えるといったこともある。
日本メーカー系ディーラーでも、ホンダのように同一地域内にメーカー直資系のほか、複数の地場資本系ディーラーが存在するといった、同一地域内に同じメーカーの看板でも資本の異なる複数のディーラーが存在するケースもあるが、新たにディーラー権を取得するのはかなり難しく、経営が行き詰まったディーラーがあると、メーカーが買い取りメーカー直資系ディーラーのまま営業を続けるか、メーカーのお眼鏡にかなう新たなパートナーが経営を引き継ぐというケースもある。
首都圏を例にすれば、マツダ系や三菱系ディーラーではメーカー直資系ディーラーが複数の都県にまたがり手広く販売ネットワークを構築している。複数の都道府県にまたがり販売地域を持ったりなど、新車販売市場の縮小傾向の続くいまでは販売拠点の統廃合も着々と進んでいる。
ディーラー以外で買えるようになれば輸入BEVの参入が増える
輸入車系ではバブル経済のころに輸入車販売台数が急激に伸びたこともあり、短期間で販売網拡充の必要性があったので広くオーナーを求めた時期があったが、その当時のオーナー審査が甘かったこともあったのか、一部ブランドでは反社会的勢力にディーラー権を与えてしまい、後に解約金を払ってディーラー権を取り戻すといったこともあったと聞く。
審査が甘く、“お行儀”のあまり良くない企業などにディーラー権を与えると、相手が反社会的勢力ならば資金洗浄の温床になってしまうし、反社会的勢力以外でもメーカーから仕入れた新車をそのまま海外へ輸出してしまうなど、想定外のトラブル発生リスクも高まってしまうのである。
何がいいたいのかいうと、ICE(内燃機関)車においては、前述してきたように賛否は別として、すでに既得権益のようなものも発生しているようなので、メーカー系正規ディーラーへの仲介販売のような形を除けば、同じ店舗で複数メーカーの新車や異業種店でメーカー系正規ディーラーのような形で購入できたりするようになるのはかなりハードルが高いのだが、“BEV”という新たな存在はそれを打破する可能性を秘めているといえるのである。
韓国ヒョンデ自動車のBEVであるアイオニック5は日本国内ではオンライン販売のみとなっている。BEVはICE車に比べると部品点数が少ないし、故障も少ないとされている。また、消費者目線で考えれば、たとえば家電量販店でICE車が買えるとしても、いままでのイメージもあり馴染みにくいが、“BEV=電気自動車”となれば、家電量販店で買えるとなっても違和感を覚える人は少ないともいえよう。つまり、BEVが新車の異業種販売へのハードルを下げる要素を持つともいえるのである(とくに海外ブランド車では)。
現状の日本の自動車メーカーの動きを見ていれば、普及レベルでの“日系BEV”がなかなか登場しないなか、韓国や中国からさらにお値打ちなBEVが上陸することは十分考えられる。そのようなメーカーにとっては、自社で日本国内に販売ネットワークを構築するコスト負担や、そこまでの費用対効果を望まないならば、日本全国に販売店舗を持ち、ヤマダデンキのように、外部と提携したアフターメンテナンス窓口もしっかり確保していれば、大規模小売店舗に販売を任せるメリットも高い。その意味では自力でリアル店舗の全国展開を進めている中国・比亜迪(BYD)の動きには日本市場に対する本気度と言うものを感じてならない。
日系メーカーは、異業種販売となるとメーカー直資系ディーラーの販売地域内など、地場資本系ディーラーへの配慮などもあり(競合させない)、異業種での新車販売には慎重にならざるをえない。
単にBEVというハード自体で先行しているというだけではなく、日本国内ではオンライン販売の積極化や家電量販店やホームセンターなどで海外メーカーだけでも複数のBEVが手軽に買えるようになるなど柔軟な対応が進めば、海外BEVメーカーの優位性がさらに高まっていくかもしれない。
令和の時代に、ひとつの店舗でひとつのメーカーの新車しか購入検討できないというのは、どう見ても“タイパ(タイムパフォーマンス/時間対効果)”が悪いのは間違いない。
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みんなのコメント
鉄道会社が鉄道輸送だけで成り立たない様に
電気屋も家電販売だけではもはや生きていけないこの時代
座して死を待つより次の一手を模索するのは当然の流れ
その一手が次代を切り開けるかは別の話