2022年10月3日にマイナーチェンジしたタントがV字回復を遂げている。10月の新車販売台数では、軽販売1位のN-BOXの1万6369台に対して、タントは1万4981台で、その差はわずか1388台。このままいくと、数カ月以内に、タントが久しぶりにN-BOXを抜いて軽販売NO.1に帰り咲きそうな勢いだ。
V字回復を遂げた理由はどこにあるのか? 今回から新たに加わったタントファンクロスと、改良を受けたタントカスタムを試乗するとともに、開発者の声も紹介していこう。
マイナーチェンジしたタントがV字回復! 開発者のたゆまぬ努力が実を結んだ!? 売れた理由はどこにある?
文/ベストカーWeb編集部小野
写真/森山良雄
■いくら改良してもN-BOXには勝てないと思っていたが……
左からタント、タントファンクロス、タントカスタム。発売1ヵ月後の販売構成比は、タント=約20%、タントカスタム=約55%、タントファンクロス=約25%
タントは10月3日にマイナーチェンジし、タントカスタムのエクステリア、インテリアを変更するとともに、新たにSUVテイストのタントファンクロスを新たに追加設定した。
発売1ヵ月後となる成績を見ると、タントシリーズの累計受注台数は約5万台と、月販目標台数1万2500台に対し、約4倍の受注を記録した。
発売月となる10月の販売台数は、1万6369台と対前年同月比314.0%、前月比151.7%の伸び。まだマイナーチェンジ後1ヵ月のデータなので、なんともいえないが幸先のいいスタートを切ったのは間違いない。
●タイプ別構成比
タント=約20%、タントカスタム=約55%、タントファンクロス=約25%
主な購入層としては、タントが子育てから子離れ、シニア女性が中心。カスタムは男性、若年層も含め、幅広い世代。ファンクロスは男性、新しいユーザーが多いという。
人気のカラーはタントがシャイニングホワイトパール、ブラックマイカメタリック、ファイアークオーツレッドメタリック。
カスタムがシャイニングホワイトパール、ブラックマイカメタリック、クールバイオレットクリスタルシャイン。
ファンクロスがサンドベージュメタリック、サンドベージュメタリック(2トーン)、レイクブルーメタリックとなっている。
■なぜV字回復したのか、売れた理由を探る
マイナーチェンジ後のタントカスタム
マイナーチェンジ前のタントカスタム。ボンネットフードのノーズ部分が下がっているのがわかる
タントカスタムとファンクロスのメディア向け試乗会に開催された。その時点ではまだ、V字回復した結果は出ていなかったのだが、実車を見て、これは売れるという確信はあった。
まずはタントカスタム。実車を見ると、ヘッドライト、グリル回りの作りがよく、質感が高い。マイナーチェンジ前のモデルと比べると、オラオラ、ギラギラ感が増し増しといった感じで、なかなかの好印象。
ダイハツ工業タント開発陣のみなさん。左から浅海さん、城迫さん、里館さん、秋本さん。みなさん、クルマ作りを楽しんでいる、そんな感じでした。羨ましい~
フロントマスクのデザインについて、ダイハツ工業デザイン部第一デザインエイト室の浅海亮一さんに直撃した。
―フロントマスクがオラオラ顔になりましたね。これなんとくレクサスのスピンドルグリルに見えますが、参考にしたのでしょうか?
浅海さん―参考にしていません。デザインを手掛けている最中は、分厚いロワーバンパーを意識していました。
―随分、オラオラ顔が増しましたね。
浅海さん―2019年に発売したマイナーチェンジ前のカスタムは大人カスタムという言い方をして、割りとオラオラ、ギラギラせずに、シュッとしていました。
このモデルもご指示していただきましたが、「迫力がもっと欲しい」というお客さんの声を多くいただいていました。今回は、迫力を出すために、お辞儀しているような形状だったボンネットフードを、マイナーチェンジモデルではノーズを上げて顔が上がったシルエットとしました。高さが圧倒的に変わりました。
―気づきませんでした。メッキグリルは外枠(枠の上はブラック)だけでグリル中央はブラックですが、ここをメッキにするとよりオラオラ顔になったのでは?
浅海さん―このデカグリルは、分厚いたくましい胸板をイメージして表現しました。グリルの中はギラギラせずに縁はメッキを配して、中は黒艶にしました。もう少し、ギラギラさせたい方にはオプションでメッキグリルも用意されているのでぜひ購入いただければと思います。
―なるほど、たしかに逞しい筋骨隆々とした胸板を感じます。ギラギラ感はアップしましたが、作りのいい上質さも感じます。
分厚い胸板をイメージしたというタントカスタムのグリル
純正アクセサリーで用意されているド派手なメッキグリルやメッキパーツ類。もっと派手にしたいならぜひ
■言われなければわからない「気づかない、見えない努力」
Bピラーのないミラクルオープンドア。タントシリーズの飛び道具の1つ
これはタントシリーズ共通のものになるが、シートやラゲッジの使い勝手が大幅に向上しているのだった。そのあたりを、ダイハツ工業くるま開発本部製品企画部城迫崇嘉さんに聞いてみた。
―マイナーチェンジでどのあたりがよくなったのですか?
城迫さん―これまで、シートをチルトダウンすると段差があって改善してほしいという声をいただいていました。チルトダウンしても傾斜5~8度の間で残っていました。今回、それをほぼフラットに近い状態に、骨格を変えています。
今回シートの骨格まで変えたという。ほぼフラットになった(写真は城迫さん)
―え~、シートの骨格まで買えたんですが、コストかかっていますね~。
城迫さん―リアシートの骨格、フロア含めて変えています。大げさになってしまうんですが、衝突安全性含めて変えています。
2段デッキボードが下段の状態
2段デッキボードを上げ左右の脚を立てる。2段デッキボード下には収納スペースがあって小物を入れるにも便利
―ラゲッジスペースはいかがですか?
城迫さん―デッキボード下の空間ですが、デッドスペースではなく、+αの空間として使いたいと思い、専用の収納スペースを作りました。
2段デッキボードを上段にした状態
リアシートの背もたれを垂直にできるようにしたので、四角い荷物を載せることもできます。私自身もバス釣りをするのでタックスボックスとかリールのケースを上に重ねたくなるんです。そうするとブレーキを踏んだ時に前に倒れてくる荷物があるんですよ。
そこで、ラゲッジ側のスライドレバーで、リアシートを垂直にしてしっかり四角いものが積めるよう、デッキボードを2段にしたことで、下の段に靴など分け入れられますし、荷室を分けて入れられますので、使い勝手はかなりよくなったと思います。
背もたれの角度を垂直になるように調整
―自分で使ってみてこうなればいいなあと思ったことを具現化したわけですね。ほかに、痒いところに指が届くような改良点はありますか?
四角い荷物もこうして積むことができた。バス釣りをする城迫さん自身のアイデアだ
城迫さん―ランプ設計の人にぜひアピールしてきて! と言われていることが1つあります。ヘッドランプですが、前のモデルから、さらに細くするために、ハイビームが30mmしかないエリアに、ハイビームとADP(アダプティブヘッドランプ)の機能を入れています。
デザインさん含めて、かなり頑張ってやったそうです。これまでのモデルはリフレクターが構えているタイプだったのですが、今回のモデルは、後ろから直射を照らすプロジェクターを入れたため、薄くできました。
■タントカスタム、タントファンクロスのカラー、内装について
ダイハツ工業デザイン部第2世代クリエイト室CMFグループの里館ひなのさん
タントカスタムはクールバイオレットクリスタルシャインとクロムグレーメタリックの2色を追加。特にファンクロスにはサンドベージュメタリック、フォレストカーキメタリック、レイクブルーメタリックなどブラックマイカのルーフの2トーンカラーを含め13白の選べるのも嬉しい。
パープル系のクールバイオレットクリスタルシャイン
ボディカラーについて、ダイハツ工業デザイン部第2世代クリエイト室CMFグループの里館ひなのさんは、
「カスタムのボディカラーは、造形の力強さを表現するために、深みのあるカラーを中心に考えていきました。見え感を大事にパープル(クールバイオレットクリスタルシャイン)とガンメタリック(クロムグレーメタリック)の2色を追加しました。クールバイオレットクリスタルシャインは、光が当たっているところのキラキラ感を出しました。
サンドベージュメタリックカラーのファンクロス。樹脂製パーツを配してアウトドアテイストに
―ファンクロスはサンドベージュやフォレストカーキメタリックなど、アウトドアテイストたっぷりで2トーンカラーを合わせると12色も用意されています。インテリアカラーは迷彩風カラーの1色ですか?
里館さん―ファンクロスのインテリアカラーは1色となります。ファンクロスは、エクステリアの形にも合わせて、インテリアカラーは単なる迷彩ではなく、グラフィック模様の新しいアクセントカラーを入れました。インテリアはオレンジのアクセント入れて楽しさを表現しています。
ファンクロスのインテリアカラーは1色。グラフィックの迷彩色。このほかオプションでシートカバーの用意もある
シートが厚く、作りがいい。ゆったりくつろげる
■タントカスタム、ファンクロスの走りは?
タントカスタムターボ。乗り心地は上質で加速もスムーズ
お台場周辺をタントカスタム、ファンクロスを試乗したのだが、DNGAのボディはしっかり感があって、乗り心地も上質。お世辞でもなんでもないのだが「出来がいい」のひと言。
前出の城迫さん曰く、「コンピュータの制御を変えて実用域に近いWLTCに合せていて、燃費はマイルドハイブリッドの他社さんのクルマよりもいい22.7km/Lを達成しました」。
今、各社、後ろの荷室スペースが広く取られ、後席キツキツの4ナンバー軽商用バンの販売競争を繰り広げているが、このファンクロスは5ナンバーの乗用ワゴンだから、なんといっても商用バンとは違って室内の静粛性は高いし、乗り心地も上質。
今年初めに乗った新型ハイゼットカーゴは、乗用ワゴンに肉迫していて軽商用バンには思えないと感じたものの、それでもタントには適わない。
■タントカスタム、ファンクロスを購入する人はどんな人?
軽か? と思えるほど作りがいいフロントマスク
タントシリーズ共通となるが、全車助手席側のBピラーのないミラクルオープンドアを採用しているのが、N-BOXにはない最大のポイント。
後席にベビーシートやチャイルドシートを置いている若い奥様には、この良さはわかってもらえるはずだ。後席から子供をストレスなく、スムーズに降ろせることができるからだ。
これは後席やシートを倒して後ろのスペースをラゲッジにした場合も同じ。積み下ろしがスムーズに行える。そして、何気ないことだが、フロアが低く、乗り降りがしやすかったのも嬉しいポイント。
タントカスタムは、20代の若い男性から、40代以上のオヤジ世代もいいと思う。あまりにもオラオラ顔で、おもちゃっぽいと敬遠したくなるが、実車を見ると「レクサスの軽自動車か? Lのエンブレムに替えちゃおうかな」と思ってしまうほど、高級感、上質感があったからだ。
家族3~4人乗りで1dayキャンプに出かけるのにピッタリなファンクロス
そしてファンクロス。軽商用のスズキスペーシアベース、N-VAN、そしてアトレー、ハイゼットカーゴ、エブリイは1人もしくは2人用のソロキャンパー向けだから、5ナンバー軽乗用ワゴンのファンクロスとは市場が違う。
声を大にして言っておきたいのは、軽商用バンと大きく違うのが、静粛性の高さと乗り心地のよさ。街中を低速で走るに大差ないのかもしれないが、高速域は明らかに違うし、長距離走行においても疲れ方が違う。
ファンクロスは3、4人乗ってファミリーで乗る、1dayキャンプ向けといえるだろう。週末はファンクロスでキャンプ場へ行き、テントを張って1泊するのもいいだろう。
もちろん、フルフラットにもなるし、助手席を倒して、後席のシートを残したままでリラックスする、そんな使い方もできるのでソロキャンパーでもOK。
キャラが薄くなってしまいがちな標準車のタントだが、もちろんミラクルオープンドアも採用しており、素のよさが感じられる
開発責任者のダイハツ工業くるま開発本部製品企画部チーフエンジニアの秋本智之さんは、
「実際にタントでスキーやキャンプ場に行きましたが、タントシリーズは日常使いとともに、ミラクルオープンドアのおかげで使い勝手がよく、こうしたレジャーの場所によくマッチすると思います。
今回、開発チームが一丸となってよりみなさまに愛着を持って喜んで使っていただきたく頑張りました。ぜひアップデートしたタントシリーズを一度見て乗っていただければと思います」。
筆者は、この試乗会に参加している最中、どうやってもN-BOXに適わないかもしれないが、ひたむきにタントをよくしようと頑張っている開発の人たちに触れ、売れるといいな、と思っていたが、10月のデータを見てビックリ。なんとN-BOXに対してたった1388台差という結果!
開発者たちの努力が報われたーと涙がちょちょ切れそうになった。とはいえ、N-BOXを抜いたわけでもないため、今後の動向に注目していきたい。
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みんなのコメント
よく売れた2型、3型のカスタム顔に寄せたのは正解だと思う。
逆にファンクロスは新型登場の御祝儀効果が切れたら、タフト同様に失速しそう。