骨盤の骨折と腎臓の破裂 翌年に復帰
1965年シーズンのF1は、ジョン・サーティース氏にとって望まない結果で終えた。9月25日にカナダ・モスポートパーク・サーキットでローラT70を運転中、フロント・アップライトが破損。クラッシュし、骨盤の骨折と腎臓の破裂という重症を負う。
【画像】重層サウンドが最高のBGM フェラーリ330 GT 2+2 同時代の跳ね馬たち 全131枚
アメリカとメキシコでのF1グランプリは欠場。最終的なドライバーズ・ランキングは5位、マニュファクチャラーズ・ランキングで、フェラーリは4位となった。
悲惨な事故にも関わらず、サーティースは1966年に復帰。3.0Lエンジンを搭載した最新のF1マシン、フェラーリ312をドライブする。英国シルバーストーン・サーキットでは、ジャック・ブラバム氏に次ぐ2位でフィニッシュ。ベルギーでは優勝している。
スクーデリア・フェラーリとの契約では、F1だけでなく、スポーツカー・レースへの参戦も義務付けられていた。それに則り、1966年にはフランスのル・マン24時間レースへも出場が決まった。
ところが、チームマネージャーのエウジェニオ・ドラゴニ氏との関係性は、当初からあまり良好ではなかった。ドラゴニは、フィアットのアニェッリ家と親交が深く、サーティースとエンツォとの距離が縮むことを、妬んでいたのかもしれない。
2015年のインタビューで、彼はこう振り返っている。「ライバルのフォードは、本物のレーサーが運転しています。相手へ勝つ唯一の方法は、フラッグが振られた瞬間から全力で走ることだと、(ドラゴニへ)伝えました」
完全に失われたドライブトレイン
「しかし、ジャンニ・アニェッリさんの観戦を知ると、コ・ドライバーでアニェッリ家の親戚だった、スカルフィオッティさんをスターティング・ドライバーに選んだんです。自分の方が速いと訴えましたが、ドラゴニさんの考えは変わりませんでした」
「自分は330でマラネロへ走り、ザ・オールドマン(エンツォ・フェラーリ氏)へ会いに行きました。フェラーリへ加わったのはレースへ勝つためで、政治的な関わりのためではないと、伝えましたよ。それが、(フェラーリとの)別れでした」
サーティースは、再び北上し英国へ帰国。GT40を擁するフォードは、イタリア勢を圧倒し、総合優勝から4位までを独占した。記録は定かでないが、グレートブリテン島へ渡ったシャシー番号6981GTの330 GT 2+2は、1967年前後に売却されている。
購入したのは、スイス在住のとある人物。交通事故に遭遇し修理を受け、その後はアメリカへ。1970年前後に、フェラーリの輸入代理店を営むルイジ・キネッティ・モーターズ社が仕入れると、ウィリアム・A・チザム氏が買い取っている。
カリフォルニアへ運ばれた330 GT 2+2は、093 AGTのナンバーで登録された。2000年6月に、ギャリー・ロバーツ氏が購入。その時点で、ドライブトレインはエンジンブロックしか残っていなかったらしい。
レストア前提のまま、4名のアメリカ人のもとを転々としたが、現在のオーナー、アラン・キャタロール氏が引き取る。アメリカ中部のミズーリ州で発見され、エンジンブロックも失われた状態だった。
サーティースの記憶がそのまま刻まれた車内
キャタロールは330 GT 2+2をグレートブリテン島へ運び、ティーポ209エンジンを調達。トランスミッションも用意し、フェラーリを得意とするニューランド・モーターズ社のビル・グッドオール氏によってボディ内へ収められた。
当初のトランスミッションはシングルマウントだったが、その後ダブルマウントのユニットへ交換。V12エンジンはヘッド周りのリビルドが実施され、330 GT 2+2はサーティースが飛ばしていた頃の性能を取り戻している。
ナンバーは、当時のHVK 506Cを再取得。ひび割れしたボディの塗装は、完全なオリジナルだ。シャシーや内装も、殆ど新車時のまま保たれている。サーティースがマラネロから連れ帰った頃の記憶が、文字通り、そのままクルマへ刻み込まれている。
1960年代のフェラーリで、筆者が特に美しい1台だと考えているのが、この330 GT 2+2。250 GTEほどボディは角が立っておらず、技術的には優れる275 GTBよりプロポーションが美しい。4灯のヘッドライトが、後期の2灯以上の風格を漂わせる。
サーティースが交換したアルミホイールは行方不明で、純正のボラーニ社製ワイヤーを履いている。ピレリ・タイヤは15インチで幅205の、純正サイズ。このボディの趣を残すため、キャタロールはボディへワックスオイルを丁寧に塗り込んでいる。
珠玉のエンジン 極めて高い製造品質
半世紀以上前のフェラーリは、珠玉のエンジンを中心に作られたスポーツカーだと認識されているかもしれない。しかし、製造品質も劣らず極めて高いことに唸らされる。きっちり揃ったボディパネルの隙間から、スイッチ類のタッチまで、高水準にある。
同時期のメルセデス・ベンツには届いていないとしても、かなり近い。唯一、オリジナルではないステアリングホイールが惜しい。またキャタロールは、フロントシートを250 GTE用に交換している。
ダッシュボードには、300km/hまで振られたスピードメーターと、6600rpmでレッドラインのタコメーター。これは、サーティースが見つめていたアイテム、そのものだ。
筆者は今回、そこまで気張って走らせなかったが、シャシー番号6981GTが全体的に好調なことは間違いないだろう。V12エンジンはすぐに始動し、安定して回転。3連ウェーバー・キャブレターが、繊細にガソリンを供給する。
補修中ということで、5速MTのシフトレバーにゲートガイドは付いていない。各ギアを選択するには、レバーをしっかり押し込む必要がある。しかし、クラッチペダルは重すぎず、ヒール&トウも難しくない。
ステアリングホイールは、ハイレシオで低域では重いものの、お約束どおり速度が上昇すれば意のまま。カーブが連続するテストコースを、豊かなフィードバックを頼りに駆け抜けられる。
最高のBGMになる重層的なサウンドトラック
330 GT 2+2は、基本的にはグランドツアラー。ゆったりリラックスした駆け足が似合う。4.0Lのコロンボ・ユニットは、そのベストパートナーだ。レッドラインへ迫るほど、神々しくパワーが増していく。控えめのサウンドが心地良い。
275 GTBのような、興奮はないかもしれない。それでも重層的なサウンドトラックは、欧州大陸を旅する最高のBGMになるはず。
「12気筒エンジンが好きなので、330には良い思い出が沢山あるんですよ」。ル・マンでの腹立たしい記憶を忘れるため、すぐに手放すことを決めたのだとしても、サーティースは後にそう認めている。
協力:英国フェラーリ・オーナーズクラブ、マーク・ポラード氏、ファルコンハースト・ファームショップ社
フェラーリ330 GT 2+2(1964~1967年/欧州仕様)のスペック
英国価格:6217ポンド(新車時)/28万ポンド(約5460万円/現在)以下
生産数:1075台
全長:4840mm
全幅:1715mm
全高:1365mm
最高速度:244km/h
0-97km/h加速:7.4秒
燃費:5.3km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1380kg
パワートレイン:V型12気筒3967cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:304ps/6600rpm
最大トルク:39.7kg-m/5000rpm
ギアボックス:4速・5速マニュアル(後輪駆動)
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