F1第20戦メキシコシティGPのレース後、レッドブルのホスピタリティハウスで行われた定例会見に現れたクリスチャン・ホーナー代表の手にはA4の書類が数枚あった。それはランド・ノリス(マクラーレン)のGPSデータだけを印刷した書類だった。
ホーナーはその種類をジャーナリストたちが見えるようにテーブルに広げ、グラフを指でなぞりながら、フェルスタッペンに科せられた2回の10秒ペナルティが不当だということをアピールした。ホーナーが指摘したインシデントとは、フェルスタッペンが科せられた10秒ペナルティのうちのひとつ目の、10周目のターン4でのサイド・バイ・サイドのバトルのことだ。
ドライビング規則の見直しが決定も、渦中のフェルスタッペンは動じず「レースに関しては何も変わらない」
以下は『GPSデータ1』を見ながら、読んでいただきたい。
「オレンジ色の線がランドがこのレースで最速ラップを刻んだときのもので、青色の線がマックスとバトルを繰り広げたときのものだ。これを見るとターン4でのブレーキングが、彼の最速ラップ時よりも時速15kmも速いことがわかる(GPSデータ1の緑色の縦線の部分)。つまり、彼はブレーキをかなり遅らせていたことになる。 しかも、この時点で彼のマシンには最速ラップを記録した時点よりも燃料が80kgほど多かったにもかかわらずだ。ランドがコーナーを曲がりきれず、コースアウトしたのは(マックスに押し出されたのではなく)当然のことだった」
ホーナーはターン4でのノリスのドライビングをそう分析した後、こう続けた。
「なぜ、こんなことが起きたのか。それは追い越しに関するルールがひっくり返ってしまったからだ。こんなことが認められれば、ドライバーたちはただただエイペックス(コーナーの頂点)で他車より前に出ようとし、先に出ていれば、出口ではスペースを空けてもらうべきだと主張するようになる危険性がある。ランドはアドバンテージを得るためにコースアウトしていたようなものだ。これではコーナーを曲がるかどうかに関係なく、エイペックスで先を行くことを奨励しているようなものだ」
そして、スチュワード(審議委員)に対して、こう主張した。
「オーバーテイクの原則に立ち返る必要があると思う。レースの世界ではゴーカートから、基本はインサイドラインを確保できればコーナーを制することができるというのがバトルにおける原則であり、物理法則のひとつだ。つまり、アウト側にいるドライバーには優先権がないという基本に立ち返る必要がある。そうでないと、この後の5レースは混乱の連続になってしまうだろう。いまのままだと物事が複雑になりすぎて、本質が忘れ去られているように感じる。スチュワードはドライバーたちと協力して、現状よりも理にかなった合意事項をまとめることが本当に重要だと思う」
10周目のターン8でもサイド・バイ・サイドとなり、ふたりが揃ってコースオフ。このインシデントでもフェルスタッペンは10秒のペナルティが科せられた。この件について、ホーナーはスチュワードの裁定そのものに関しては理解を示したものの、100%納得はしていないと語った。
「ターン8の件は別の話だ。あれはその直前のターン4でランドがコース外からマックスを抜いて前に出ていたため、マックスはランドがポジションを譲ってくれると思っていたんだと思う。しかし、譲ってくれなかったため、マックスがインサイドにやや強引に入ることになり、2台ともコースアウトした。他車をコースアウトさせたのだから、ペナルティが適用されるのは理解できる。しかし、こうなってしまった背景には(その直前のターン4でコース外からフェルスタッペンの前に出た)ランドがマックスにポジションを譲らなかったことが原因だということを忘れてはならない」
しかし、スチュワード(審議委員)の見解は、まったく異なる。スチュワードはこう裁定した。
「ノリスはターン4で、アウト側からフェルスタッペンを追い抜こうとしていた。ノリスはターン4の入口、エイペックス、出口でフェルスタッペンより前にいたが、コースオフを余儀なくされた。したがって、この追い越しは安全かつ制御された方法で行われたものであり、ノリスはフェルスタッペンにコースオフさせられなければ、コース上で追い抜きを成功させていたはずだと考えている。ノリスはコーナーをカットして先頭に立ったが、すぐにその結果として得たポジションをサインツに明け渡している」
これにより、スチュワードはフェルスタッペンにのみ、10秒のペナルティを科し、その直後に起きたターン8のインシデントに対しても、次のような判断を下した。
「ターン4での出来事に続き、ターン8でフェルスタッペンはノリスをイン側から追い抜こうとした。フェルスタッペンはターン8の頂点で先行しており、レーシングルームを確保する権利があった。しかし、彼はコース上でその操作を完了することができず、コースアウトし、そのポジションを獲得した永続的なアドバンテージを維持し、結果的にノリスをコースアウトさせた。これは、コースアウトして永続的なアドバンテージを得たことに対する標準的なペナルティである」
フェルスタッペンとホーナーの思惑とは異なり、そもそもノリスによる10周目のターン4でのインシデントはフェルスタッペンに非があるため、ターン8のインシデントもノリスがポジションをフェルスタッペンに譲る必要はなかった、というのがスチュワードの見解だった。
メキシコシティGPのペナルティに関して、レッドブルはいまのところ再審査を請求する動きは見せていない。
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