1980年代のメルセデス・ベンツを支えたW124
傑作と呼ばれたW123型の後継として、1985年にメルセデス・ベンツが発売したのがW124型。より軽量で走行性能に優れ、正式に「E」を肩書にした始めてのモデルとなった。当初は、ミディアム・クラスを名乗ったが。
【画像】本物としての風格 W124型 メルセデス500 E/E 60 AMG 同時期の190E エボ 最新AMGサルーンも 全141枚
ドイツ南部のジンデルフィンゲンで開発された、それ以前の保守的な誠実さを受け継ぎ、今でも本物のメルセデスとして支持は厚い。BMWやアウディだけでなく、躍進する日本ブランドとの競争へ全面的にさらされたことも、触れない訳にはいかない。
W201型の190クラスは、高級コンパクト・サルーンという新市場へ対応。他方、強固なボディ構造にリアのマルチリンク式サスペンション、空力的なボディデザインなど、同様のコンセプトがW124にも展開されていた。
現代的で威厳漂わせるスタイリングを導いたのは、ブルーノ・サッコ氏率いる同社のデザインチーム。空気抵抗を示すCd値は0.28で、当時の量産車としては最小値といえた。側面衝突や横転事故の安全性に対しては、最新の思考が落とし込まれていた。
パワートレインは、キャブレターが載る2.0L直列4気筒に加えて、シングル・オーバーヘッドカム・ヘッドの2.6Lか3.0Lの直列6気筒を設定。ミディアム・サイズのサルーンとして、上流階級だけでなく、タクシーとしても需要は高かった。
数年後には、ステーションワゴンも登場。クーペにコンバーチブル、リムジンと、多様なボディスタイルが展開され、同社で最も重要なモデルとして、9年間に約250万台がラインオフしている。
500 Eの登場を促したレクサスLS 400
そんな成功モデルのW124型は、高性能サルーンの領域へ一歩を踏み出したことも、見逃せない功績だろう。ポルシェに並ぶ動力性能を秘め、BMW M5に対するメルセデス・ベンツからの回頭といえたのが、今回取り上げる500 Eだ。
300 SEL 6.3や450 SEL 6.9という、Sクラス相当のV8サルーンも過去には擁していた。先代のW123型でも、パワフルな6気筒エンジンを選ぶことはできた。だが、猫を被ったライオンのような、ステルス・サルーンとはいえなかった。
この登場には、レクサスLS 400(初代セルシオ)が大きな影響を与えた。トヨタから派生した高級ブランドの大型サルーンは、1989年に発売。初期のW124型より速く静かで、製造品質は高くお手頃だった。
主要市場は北米とされ、現地では実際に大ヒット。メルセデス・ベンツが保持していたシェアの、半分以上を奪ったといわれている。
LS 400の車格はSクラスに並ぶものといえたが、次期W140型が発売されることになるのは1991年。北米のメルセデス・ベンツ・ディーラーは、日本の黒船へ対抗するため、古くなかったW124型へのV8エンジン搭載をドイツ側へ強く要求した。
そこで登用されたのが、Sクラス向けだった4.2Lユニット。400 E(後にE 420)と名付けられ、レクサスの正式なライバルになった。6万ドルという北米価格は安くなかったが、不足なく速かった。
ポルシェが設計したV8の高速サルーン
だが、メルセデス・ベンツは更に高みを目指した。経営の厳しかったポルシェと協力し、R129型の500 SLと同じ5.0L V8のショートストローク・ユニットと4速ATを組み合わせ、羨望の500 E(1992年からはE 500)が生み出される。
メルセデス・ベンツがプレスした300 Eのホワイトボディは、シャシーを拡大するためポルシェの工場へ輸送。バルクヘッドも強化されると、再びシュツットガルトを挟んで反対側にあるジンデルフィンゲンの工場へ運ばれ、深みのある艶で塗装された。
乾燥されたボディは、ポルシェのツフェンハウゼン工場へ戻り、残りの組み立て作業が進められた。5.0LのV8エンジンに加えて、フロント・サスペンションも500 SL用。4ポッドのブレーキキャリパーも同様だった。
18日間をかけた丁寧な工程を通じ、トレッドは通常のW124型より38mm拡大。最低地上高は23mm低められた。
仕上がった500 Eは、もう一度ジンデルフィンゲンへ。最終的な完成検査が実施された。これに先行して、ポルシェはアウディRS2の生産も引き受けていたことは、AUTOCARの読者ならご存知だと思う。
かくして500 Eには、メルセデス・ベンツとポルシェ、2つの工場ID番号が振られている。メルセデス・ベンツに代わって、ポルシェが高速サルーンを設計したという事実は、今でもマニアを喜ばせるものだろう。
部品は基本的にメルセデス・ベンツ製
新型のW140型Sクラスへ注力していたメルセデス・ベンツは、少量生産の特別仕様へ充分なリソースを割り当てることが難しかった。他方、ポルシェは優れた技術力を備えたスポーツカー・メーカーでありながら、北米での販売不振で新たな仕事を欲していた。
同社は、設計コンサルタントとしての側面もあった。直列6気筒エンジンを前提にしたW124型へ、大排気量で重いV8エンジンを押し込み、衝突安全性や操縦性を担保することは、誰にでもできる簡単な仕事ではなかった。
ただし、500 Eがポルシェ製だと考えるのは、厳密には正しくない。トランクへ移設された補機バッテリーのカバー以外、部品は基本的にメルセデス・ベンツ製だったからだ。5.0L V8エンジンを組み立てたのは、ポルシェの職人だったけれど。
通常の生産ラインに、広げられたホイールアーチが対応していれば、ポルシェの工程はホワイトボディの改良に留まっていた可能性はある。同じく改良を受けていた、400Eのように。
結果として、僅かにフレアしたフェンダーラインにワイドなタイヤ、専用のサイドスカートで差別化された500 Eは、特定の人へ強く響いた。その他大勢の人には、W124型の1車種にしか見えなかったとしても。
ポルシェもメルセデス・ベンツも、当時は経営者より技術者の方が上位にあった。往年の傑作として、結果的に30年後も高い評価を集めるに至っている。
この続きは、W124型 メルセデス・ベンツ500 E(2)にて。
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かたや100万で無茶な改造されて貧困層しか乗ってない・・・