2021年12月8日、16年間首相を務めたアンゲラ・メルケル氏が退き、オラフ・ショルツ氏を新首相とする新体制がスタートしたドイツ。社会民主党(SPD)、自由民主党(FDP)、緑の党の3党が連立を組む今回の新政権は、特に気候変動対策に力を入れていくと見られています。
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気候変動対策と、ドイツの主力産業のひとつである自動車産業は、ある意味では表裏一体です。新政権はすでに「2030年までに国内の電気自動車台数を1500万台に増やす」ことを連立協定のひとつに盛り込んでいて、こうした政策が自動車産業界に大きく影響を与えていくのは間違いありません。
今回のドイツ現地レポは、今回の新政権発足で話題となった「ドイツの制限速度問題」について紹介します。速度無制限区間で有名なドイツのアウトバーンに、ついに制限速度が導入されるのでしょうか? 現時点の最新情報をお伝えします。
■ドイツの世論はアウトバーンの制限速度導入に賛成?
最初の話題は、「アウトバーンに130km/hの制限速度が導入されるのか」です。結論を先に書いてしまうと、新政権は連立協定にアウトバーンの制限速度を含めず、速度無制限区間に関しては現状維持とすることで3党は合意しました。
アウトバーンの制限速度導入に関しては長い時間議論されており、ADAC(ドイツ自動車連盟。日本のJAFに相当する組織)は「制限速度導入に賛成か反対か」について、1985年から定期的にアンケート調査を行ってきました。
1980年代から1990年代前半は賛成派・反対派が毎年入れ替わるような結果が出ていましたが、1995年からは一貫して制限速度導入・反対派が上回る結果に。ところが、2017年あたりから票数は接近し始め、2020年にはついに賛成派が逆転、2021年の集計では賛成派50%、反対派45%、どちらともいえないが5%という結果になっています。
こうした結果になった背景には、ドイツの気候変動に関する懸念があります。近年ドイツは毎年のように大規模な洪水被害が発生しており、その原因が気候変動にあると考えられているからです。
ドイツ連邦環境庁の2020年2月に発表された試算では、130km/hの制限速度導入で年間190万トンのCO2削減(高速道路網におけるCO2排出量を4.9%削減)、120km/hの制限速度導入で年間260万トンのCO2削減(高速道路網におけるCO2排出量を6.6%削減)できるとされています。
■アウトバーンは決して危険な道路ではない!
一方「アウトバーンは走行速度が速いから危険。制限速度を導入すべきだ」という意見に対し、ADACは「アウトバーンは危険な道路、という認識については正しくない」という姿勢を崩していません。むしろ統計結果をもとに「アウトバーンはもっとも安全な道路」と主張しています。
ADACの調査によれば、ドイツの全車両が1年間に走行する距離を合計すると、その約3分の1の距離をアウトバーンで走行しています。しかし、どの道路で死亡事故が発生しているかを調べると、アウトバーンで死亡する人の割合は約12%にすぎず、都市間の一般道で約60%の人が亡くなっているのです。
また、ドイツ国内の速度無制限区間・130km/h制限区間・120km/h制限区間のそれぞれの死亡事故数を調べてみると、そこに比例関係は存在しないことが明らかになっています。つまり「アウトバーンは走行速度が高いから危険な道路」と言い切ることはできないのです。
ドイツでは、緑の党が環境保護の観点から制限速度導入に以前から熱心に取り組んでいましたが、産業界とのつながりが深い自由民主党は、制限速度導入には反対の立場を示していました。結局今回の連立協定には制限速度に関する規定は含まれませんでしたが、かわりに緑の党が主張していた「再生可能エネルギー比率を2030年に80%まで引き上げ、脱石炭を2038年から2030年への前倒し」などの野心的な目標が盛り込まれています。
ここまで紹介してきた通り、ドイツでは即時の「アウトバーンの制限速度導入」は見送られました。しかし、ADACのアンケート結果でも制限速度導入・賛成派が反対派を上回り、かつ気候変動への対策が新政権の急務とされている今、アウトバーンの制限速度導入についてはこれからも議論の対象になっていくことでしょう。
■都市内部をすべて30km/hに制限する?
現在、ドイツの一般道の制限速度は「都市と都市の間は100km/h、都市の内部は50km/h、学校や老人ホーム、住宅密集地などでは30km/h」と決められています。しかし近年クローズアップされているのは、都市の内部を一律30km/hに制限した方がよいのではないか、という意見です。
30km/hに制限すれば人身事故が減り、環境への負荷もより低減できるのではないか、というのが提案側(主に緑の党の支持者)の主張です。これに対してADACは、制限速度を50km/hから30km/hにしてもCO2排出量がさほど変わらないことや、都市内部の人身事故は主に交差点で起きていることを指摘し、交差点や歩道・自転車道路を利用者にとってさらにわかりやすいデザインに変えることの方が重要だと主張しています。
しかし一方で、30km/h制限導入によって、多くの人が自家用車から自転車や公共交通機関の利用に切り替えた場合、環境への負荷低減は十分に期待できる、としています。気候変動への対策が急がれる中、こうした都市部の制限速度についても、今後議論が加速していくかもしれません。
■「気候変動対策」が今のキーワード
ここまで、アウトバーンと都市の内部の一般道、ふたつの制限速度の話題について取り上げてきました。どちらの件においても、キーワードとなっているのは「気候変動対策」。今回のドイツの新政権発足がきっかけとなって、自動車産業界も、インフラとしての自動車道路網も、今までとは異なる舵取りによって急速に変化していく、まさに過渡期にあると実感しています。今後もドイツ、ヨーロッパ、そして世界の流れを注視していきたいですね。それでは、また次回のドイツ現地レポでお会いしましょう!
[ライター/守屋健]
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今も昔も、ご都合主義かつ偽善的、矛盾だらけの欺瞞で、デタラメなこと甚だしい国家・国民性ですよ、ドイツ。。。