パラシュート投下できる小さな軍用車?
ミニ・モークの歴史は、少し長く複雑だ。1964年から1993年に合計6か国で生産され、少なくない派生モデルが誕生している。キットカーやレプリカも多い。そして、この歴史はまだ終わっていない。
【画像】こんなBEVならワクワク? エレクトリック・モーク 初代ミニ・マイナー 電動のミニたち 全131枚
「このモデルを守るため、相当な時間と予算を費やしています」。モーク・インターナショナル社の会長へ就任したばかりの、ニック・イングリッシュ氏が口にする。電動モークの出発準備が整う前に。
同社と、見た目がそっくりなクルマを製造する北米のモーク・アメリカ社は、最近まで裁判で揉めていた。モークというブランド名を誰が先に使用したのか、現在の所有権は誰にあるのか、複数の意見で対立していた。
だが少なくとも、1つの見解では一致していた。モークは、ホバークラフトやビーチバギーのような、一般名称ではないと。
BMC モーリス・ミニ・マイナーを設計したアレック・イシゴニス氏が、そのコンポーネントを利用して生み出したのが、オリジナルのミニ・モーク。生産数を増やし、ランドローバーの売り上げの一部を奪おうと考えたらしい。
飛行機からパラシュート投下できる小さな軍用車として、BMCはモークを英国軍にプレゼンテーション。しかし、最低地上高が低く前輪駆動で、悪路での走破性に課題があった。アイデアは評価されたが、正式採用には至らなかった。
アメリカ軍にも提案された。それは2基目のエンジンで四輪駆動化されていたが、まだ最低地上高が充分ではなかった。ジープを超える訴求力はなかった。
オリジナルより約300mm長い電動モーク
最終的に商用車扱いで発売されるが、英国の税務局は乗用車だと判断。購入税を低く抑えることは叶わなかった。それでもファッション性が高く、別荘用のセカンドカーとして一定の支持を集めた。
ミニ・モークはそれ以降、オースチン、レイランドとブランドを転々とし、オートバイ・メーカーだったイタリアのカジバ社が利権を買収。ところが、1992年に倒産してしまう。
時を経た2012年、中国の自動車メーカー、チェリーと、ジャガー・ランドローバーの合弁事業としてモーク・ブランドは復活する。それが、現在のモーク・インターナショナル社だ。
工業デザイナーのマイケル・ヤング氏によって、似た見た目を保ちつつ新たに設計され、2013年に生産が開始。チェリーによって、複数の市場へ投入された。2018年にはバッテリーEV仕様も登場。数回の改良を経て、今回試乗するクルマへ至っている。
今日の英国は天気が良い。短い人生を謳歌するのに、電動モークでひとときを過ごすのも悪くない。
全長は3325mm、全幅が1660mm、全高が1550mmとかなり小さいが、実はオリジナルのモークより約300mm長い。幅も広い。シャシーはスチール製スペースフレームで、ボンネット内には電動パワートレインの制御システムが載っている。
サスペンションは、前がマクファーソンストラット式で、後ろはトレーリングアーム式。車重は741kgあり、かつてより重いが、シンプルで軽いという本来のコンセプトは守られている。飛行機から落とすのは気が引けるものの、見るからに楽しそうだ。
最高出力44ps 知名度の高さに驚く
駆動用モーターの最高出力は44psで、最大トルクは13.2kg-m。カンバス製のソフトトップは簡単に巻き取れる。屋根付きのガレージは必要だろう。
シートは4つ。リア側には、チャイルドシート用のISOFIXマウントもある。フロントガラスにはヒーターが備わり、ダッシュボードのスイッチやステレオ、ライトなどのレバーは、ボート水準の防水性があるという。ステアリングホイールの位置は固定だ。
サイドパネルの蓋を開くと、充電ケーブルが隠れている。駆動用バッテリーの容量は10.5kWhで、航続距離は86km。急速充電はできないが、サマーハウスからビーチまでの往復はできるだろう。
ステアリングホイールの位置は低く、フロアにあるドライブ・ボタンを押して発進。歩行者へ接近を知らせるため、低速域ではヒュィーンという音が聞こえる。これが近づいてきても、驚く人は少なそうだが。
「モーク!」と、老若男女問わず声が上がる。大ヒットといえる販売数ではなかったのに、知名度の高さには驚かされる。
プロポーションはオリジナルに近い。初代ランドローバーのような道具感があり、親しみやすい。安心感があって好印象。街を走るクルマが全部これなら、あおり運転などは起きないかも。
アシストなしのステアリングは、ロックトゥロック2.75回転。ペダルの重み付けはちょうど良い。ブレーキは、フロントがディスクでリアはドラムだが、ABSはない。最高速度は80km/hだから、重装備はいらない。
運転はゴーカートのよう 誰もがきっと気に入る
カーブでは、凹凸で軽く弾むこともあるが、ボディロールは抑制されている。ステアリングはダイレクトで正確。ゴーカートを運転しているようで面白い。
サイドウォールの厚いタイヤは、英国ダバンティの165/65 R13。コイルスプリングと相まって、乗り心地は良い。ロールケージがシャシー剛性を高めている。
モーク・インターナショナルは、都市部や沿岸部なら、1度の充電で70kmから125kmくらいは走れると実証している。速度域の低い離島なら、恐らく達成できるのだろう。
島国といえども、英国のグレートブリテン島は小さくない。速度域は高めだから、
長くても80kmが良いところだと思う。速く走ると、フロントガラス横から巻き込む風が、顔へ盛大にぶつかる。ケータハムに付いている、ディフレクターが欲しい。
寒い冬場は、乗りたい気が失せるかもしれない。それでも、初夏に見るモークには強く惹かれてしまう。
同社は、2024年に500台の生産を予定しているが、注文処理は追いつかない状態だとか。英国価格は、3万5995ポンド(約684万円)から。2つのバリエーションから選べるが、特別な仕様も想定しているらしい。
急速充電はできない。最高速度は80km/hで、航続距離は80km。ドアもヒーターもない。安全性も低い。お値段は、フル装備のフォルクスワーゲン・ゴルフより高い。それでも、きっと誰もが気に入るように思う。もちろん、筆者も1台欲しい。
エレクトリック・モーク(英国仕様)のスペック
英国価格:3万5995ポンド(約684万円)
全長:3325mm
全幅:1660mm
全高:1550mm
最高速度:80km/h
0-100km/h加速:−秒
航続距離:80km
電費:8.2km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:741kg
パワートレイン:永久磁石同期モーター
駆動用バッテリー:10.5kWh(予想)
急速充電能力:−kW
最高出力:44ps
最大トルク:13.2kg-m
ギアボックス:1速リダクション(後輪駆動)
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みんなのコメント
無理して自家用車を買って、第三京浜を走ったような話が、まさにそれ。
上り坂で向かい風とかだと制限速度の80km/hすら出せなくなるという。