この記事をまとめると
■トヨタJPNタクシーは2017年に登場したタクシー専用車
ガソリンや軽油よりも安いのになぜ? タクシーに採用されるLPガス車が乗用車に広まらないワケ
■東京ではよく見かけるが、全国的には思うように普及していない
■JPNタクシーの厳しい現状について解説したい
スロープの利便性向上に苦戦を強いられている
2017年10月にデビューした、トヨタJPNタクシー。LPガスハイブリッドエンジンを搭載した、MPV(多用途車)スタイルのタクシー専用車だ。車両価格はデビュー時に「高い」といった声も多く聞かれたが、複数回の改良を経て、直近2021年5月の改良でさらに上昇。上級グレードの匠は、登場時から6万4800円アップの、356万4000円となっている。
東京23区内だけで見れば、通りを走るタクシーはJPNタクシーばかりだが、東京隣接県、つまり神奈川、千葉、埼玉県では、JPNタクシーを見かける機会は、相変わらず少ない。全国的の主要都市を見ても、極端に少ない所もあれば、東京並みに走っている所もあり、普及状況はバラバラといっていいだろう。
度重なる改良を経ても、車いすで乗降するためのスロープの設置に対しての利便性向上は足踏み状態にも見える。そもそも“ロンドン式”ともいわれる、サイドドアからの車いす利用者の乗降は日本の道路環境に適していないとされているが(ロンドンと異なり、ほとんどの通りにはガードレールなどが設置されている)、これは改良レベルでは抜本的に改めることは不可能となっているので、せめてスロープ設置の利便性向上には取り組みを続けてもらいたいところである(ロンドン式の採用にあたっては、トヨタにおいて採用の可否が判断できなかったという話も聞いている)。
そもそも、デビュー時から車両価格が高く、東京都内の大手や準大手タクシー事業者以外は新車での導入が厳しいだろうという声が大きかった。そのため、東京などの都市部で使われた車両が代替えなどで放出され、それを地方のタクシー会社が中古車として買うことで、全国的にJPNタクシーの普及を図ろうとしているという情報もあった。大手や準大手でも、“買い取り”でのJPNタクシー導入には二の足を踏むような空気も流れていたようで、地域によってはタクシー車両としては想定外のリーズアップ時の残価設定をして、月々のリース料金をかなり安く抑え、導入を勧めているといった話も聞いたことがある。
コロナ禍前には、東京23区を営業区域(武蔵野市、三鷹市も含む)とするタクシーの年間走行距離は約10万kmともいわれていたが、コロナ禍となり、走行距離も一気に伸び悩んだ。そのため、何もなければデビュー時に導入されたJPNタクシーはそろそろ、本来ならば走行距離が40万kmを超えて代替え時期を迎えるのだが、走行距離が伸び悩むほど十分稼働していないこともあり、延期されているというのである。
そんなこともあるのか、東京隣接県であっても車両の代替え車両については、JPNよりも価格が安いこともあるが、都内で使われた走行距離が少なめのクラウン コンフォートやクラウンセダンがメインとなっている。なかには、ストックしておいて今後もクラウンセダンへ入れ替えるようにしている事業者もあるそうだ。
そのため、コンディションの良いクラウンコンフォートやクラウンセダンの相場上昇が続いているようだ。地方部ではLPガススタンドの廃業が深刻なこともあり、プリウス(2代目や3代目が多い)をメインとしたハイブリッド車へ入れ替える事業者も多くなっている。場所によってはタクシー車両のほとんどがハイブリッド車というところも珍しくない。
コロナウイルスの蔓延が大きく影響
「そもそも都市部の事業者の車庫では立体駐車場が多いのですが、JPNタクシーは立体駐車場に入りません。ベース車両のシエンタはプライベートカーとして開発されていることもあり、マンションなどの立体駐車場の利用も多いので、立体駐車場に入ります。さらに、LPガスも使えるように改造しても、ガソリンタンクも残るので、ハイブリッドなら“トリプルハイブリッド”になります。もろもろタクシー車両としての改造を施しても、JPNタクシーより数十万円も安上がりとなるので人気が高いです」とは業界事情通。日産ではノートとセレナをタクシー車両としてプッシュしているとのことである。
コロナ禍のいまでは、事業者の多くでは、稼働台数を保有台数の半分ほどに抑えて営業を続けている。しかし、それでも首都圏などでは緊急事態宣言がほぼ1年を通じて発出されており、飲食店の営業自粛など行動自粛要請が続いているため、稼ぎが激減しているのが実状。稼働台数が少ないので、当然各運転士の出番も少なめとなっている。
それでもすでに年金を受け取っている高齢運転士は雇用調整助成金の支給もあるのと、新型コロナウイルスへの感染も怖いとのことで休むケースも多いと聞く。そのなか長引くコロナ禍、デルタ株のまん延などもあり、離職する運転士も後を絶たないとのこと。コロナ禍前では、離職しても、ほかのタクシー会社へ再就職したり、トラックドライバーになるなど、ステアリングを握る仕事を続けるケースが一般的であったが、コロナ禍では、旅客、貨物に関係なく運送業から離れるひとが多いとのことだ。
JPNタクシーは前席と後席の間の空間が広すぎるため、新型コロナウイルス感染拡大予防策としての間仕切りのための透明ビニールなどの設置に消極的な事業者も目立つ(クラウン系のタクシーでも感染予防策への取り組みには温度差がある)。このあたりもWITHコロナ時代を見据え、改良などでニューヨークのようにナイフも通さないように鉄板の入ったもので完全に仕切らないまでも、根本的な対策をメーカーとして提案すべきではないかとも考える。細かいところでは車内換気が推奨されているのだから、運転席側後部ドアの窓ガラスも埋め込みではなく開閉タイプにして欲しいところである。
デビュー直後から、全国のタクシー事業者のなかには、さまざまな理由から“アンチJPNタクシー派”も目立ち、そのような地域では都市の大きさに対し、JPNタクシーを見かける機会が極端に少ないことが多い。
そしてJPNタクシーの普及に弾みがつく原動力になるともいわれていた、東京2020(オリンピック&パラリンピック)も、なんとか開催にはこぎつけたものの、海外からの観客どころか、国内の観客もほとんどの会場で入れない“無観客開催”となりアテが外れてしまった。
シエンタベースなので、ガソリンハイブリッドを搭載した、“民生版”のようなものを出したとしても、積載スペースも後席をそのままにすれば、荷室も含めた全体の使い勝手はクラウンコンフォートとたいして変わらないなど、突出した使い勝手の良さも少ない。背が高く、上級グレードならばサーキュレーターがついているので、酷暑の時には涼しい風がきやすいこと、後席足もと空間が広いので、それほど大きくないスーツケースなら後席に持ち込めること程度が「便利だ」と感じることとなっている。
燃費性能が大幅に向上したことは一見すると大きなメリットにも見えるが、東京都内ではLPガススタンドの利用が減り、需要が多いとされる都心近くのスタンドも廃業しており、燃費の良さを無条件でメリットと呼んでいいかは微妙なところとなっている。
現行シエンタは2015年にデビューしているので、そろそろフルモデルチェンジしてもおかしくない時期に差し掛かっている。現行モデルは日本だけでなくASEAN各国で大ヒットしている。次期型もそのようなASEAN市場の動きを加味し、タクシー車両としての利便性を意識したわけではなくても、結果的にタクシーとしてより使いやすくなってしまう可能性は高い。JPNタクシーは今後どのように浮上しようとしているのか、ニューノーマル時代となっても厳しい環境が続きそうである。
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みんなのコメント
いつも登場する脳内事情通。
君のお友達の錦糸町のN澤君は会社潰したしね。ひょっとしてN澤君にネタ提供してもらってるの?