歴史と伝統に裏打ちされたアストンマーティンDB11AMR とDBSスーパーレッジェーラ ヴォランテの2台に試乗して、その世界感に迫ってみた。(Motor Magazine 2020年7月号より)
DB11 AMRはスパルタンなイメージがあるものの・・・
1947年、経営難に陥っていたアストンマーティンに救いの手を差し伸べたのがデイビッド・ブラウンだった。実業家のブラウンは巨額の投資によってアストンマーティンの生産設備を拡充し、技術的な進化を促進させた。さらにモータースポーツ活動を推進し、ハイパフォーマンスモデルの充実を図ったのも彼の功績。そして新たに開発したモデルに、ブラウンは自分のイニシャルである「DB」の2文字を捧げたのだ。
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これ以降、アストンマーティンは一気に躍進。世界的に知名度が高まり、販売は上向きになってモータースポーツでも多くの成功を収めた。そしてその絶頂期を象徴するモデルとして今も名高いのがDB5である。そう、1964年製作の映画007「ゴールドフィンガー」で名優ショーン・コネリーが操ったボンドカーこそがDB5であり、現代につながるアストンマーティンの名声を決定づけたモデルとして語り継がれている。
一般にスポーツカーメーカーとして認知されているアストンマーティンだが、私は彼らの主力は、「グランドツアラー」であると捉えている。その思いは、2020年初頭にオリジナルのDB5をイギリスのシルバーストーンサーキットで走らせたとき、確信に変わった。
なにしろ足まわりは快適性重視の設定で驚くほどソフト。粛々と回るエンジンは低回転域でたっぷりとしたトルクを生み出すうえ、レザーとウッドに囲まれたインテリアはゴージャスのひと言。「これは背の低いロールスロイスだ」と私は感じ入ったものである。
DBの歴史は72年にブラウンがアストンマーティンの経営権を手放したことでいったん途切れるが、フォード傘下にあった91年にその復活が決定。93年デビューのDB7で栄光に満ちた歴史が再スタートを切ることになった。以来、DBシリーズはアストンマーティンの屋台骨として君臨してきた。それは現行モデルのDB11とDBSスーパーレッジェーラについても同様である。
DB11は2016年にV12モデルが誕生。続いてコンバーチブルのヴォランテ、V8ときて、ここで紹介するDB11AMRがデビューした。なお、AMRの登場によって、標準仕様のV12モデルは生産を終了。このためV12エンジンを積むDB11はAMRのみとなった。
AMRは「アストンマーティンレーシング」の頭文字で、本来は世界耐久選手権(WEC)に参戦するワークスチームの略称である。そう聞くとかなりスパルタンなモデルをイメージされるかもしれないが、足まわり関連の変更はダンパーの減衰率をピストンスピードの遅い領域のみ高めたほか、フロントのスタビライザーをわずかに太くし、リアサブフレームを固定するゴムブッシュの硬度をやや高めたに過ぎない。いずれもファインチューニングの範囲だ。
おかげで乗り心地をほとんど犠牲にすることなく、ハンドルを通じて感じられるフロントの接地感が改善されたほか、不整路におけるボディの無駄な動きが格段に減った。とはいえ、DBシリーズ本来のグランドツアラー性は健在で、高速道路では優れた直進性を発揮し、乗り心地も高い車速域の方がむしろ快適に感じられる。唯一の弱点はロードノイズが大きいことだが、これも目を瞑れる範囲といえなくもない。
つまり、AMRの名前を与えられたからといってグランドツアラーを辞めてしまったわけではなく、「ワインディングロードを駆け抜ける楽しさを強化したグランドツアラー」に生まれ変わったと言える。伝統は守られたのだ。
DBSスーパーレッジェーラはハイパワーでもリニアな特性
続いてDBSスーパーレッジェーラヴォランテに試乗する。DBSの名はかつて2度登場したことがあるが、いずれも既存のDBモデルの上位版と位置づけられていた。2018年にリリースされた現行型の3代目DBSもまた、DB11の高性能版として捉えることができる。
ボディはDB11で採用されたボンデッドアルミニウム工法を採用。ただし、ボディパネルをカーボン製としての軽量化を図った。イタリアのカロッツェリアであるトゥーリングが編み出した軽量ボディ構造「スーパーレッジェーラ」の名を引き継ぐ所以である。
エンジンはどちらも5.2L V12ツインターボながら、DBSはAMRをも上回る725psを発生。最大トルクは900Nmに達する。この結果、0→100km/h加速は3.4秒、最高速度は338km/hに到達。これは、AMRをそれぞれ0.3秒と5km/h凌ぐスペックである。
ワインディングロードでも、DBSとAMRではクルマの動きに明確な違いがある。 先ほどDBSはDB11より軽いと申し上げたが、それはクーペモデル同士を比較した場合。今回の試乗車は同じDBSでも最後に「ヴォランテ」がつくコンバーチブルモデルなので、車重はむしろAMRより100近くも重い1863kgとなる。それでもDBSヴォランテの方が、AMRよりも格段に機敏な走りを示したのだ。
その理由のひとつは標準のDB11よりも車高を下げ、サスペンションジオメオリーを見直すとともに、タイヤサイズを幅、径ともに拡大したことにある。結果としてAMRよりもクルマの動きがよりソリッドで、レスポンス良くコントロールできるようになった。
パワーアップされたエンジンもDBSヴォランテの軽快感を強調している。いや、厳密にはパワーアップというよりもリニアリティとレスポンスの向上が効いている。コーナーの立ち上がりで加速する際、AMRでは4000rpmくらいからターボゾーンに入るのか、急激にトルクが立ち上がって驚かされることがあるが、DBSヴォランテはアクセルペダルを踏み込んだ量とエンジンが生み出すトルクの関係が常に一定で、よりパワフルにもかかわらず扱いやすい。このチューニングはAMRにも採り入れて欲しいところだ。
これはエンジン特性とも関係することだが、AMRは前述のとおりコーナー出口でパワーが急に立ち上がり、ややもするとテールがアウト側に流れ出す傾向が見られるのだが、DBSヴォランテで同じことをしてもリアがスライドする気配はなく、逆に力強く押し出される感触が得られる。これはDBSヴォランテのリアタイヤがAMRよりも大きい(295/30R20→305/30R21)ことに加え、DBSヴォランテの機械式LSDがAMRよりも強力なトラクションを生み出してくれるためだろう(AMRはブレーキ制御でLSD効果を生み出すタイプ)。
そして高速道路ではAMRよりも角がとれた乗り心地を示し、ロードノイズも静か。ロングクルージングはAMRよりも安楽だ。こう書くとDBSヴォランテがすべての面でAMRを上回っているように思われるかもしれないが、ある意味でAMRの方が刺激は強く、よりスポーティとも説明できる。そのことが端的に表現されているのがエキゾーストサウンドで、AMRは中低音成分が強めのレーシングエンジンに近い音色となるのに対し、DBSヴォランテはジェットエンジンを思わせる金属的な響きを聞かせる。
スーパースポーツカーとは違い両車の本質はグランドツアラー
ここまで2台のアストンマーティンについてワインディングロードでの印象を紹介してきたが、冒頭でも述べたとおり、DBシリーズの本質はあくまでもグランドツアラーにある。
その点はアストンマーティン自身も認めており、AMRは「大陸横断も可能なグランドツーリング性能」を備えると説明しているほか、DBSはグランドツアラーを超える「スーパーGT」と呼んでいる。一方でワインディングロードでのアジリティでいえば2台とも純粋なスーパースポーツカーには一歩及ばないというのが偽らざるところだ。
では、アストンマーティンはスポーツカーをリリースしないのかといえば、そんなことはない。すでにフロントエンジンのヴァンテージが発売されているほか、ヴァルキリー、ヴァルハラ、ヴァンキッシュというアストンマーティン初の「ミッドシップ3兄弟」が間もなくデビューする。初のSUVであるDBXの誕生を含め、モデルラインナップを拡充するアストンマーティンの今後がますます楽しみといえるだろう。(文:大谷達也)
■アストンマーティンDB11AMR主要諸元
●全長×全幅×全高=4750×1950×1290mm
●ホイールベース=2805mm
●車両重量=1765kg
●エンジン= V12DOHCツインターボ
●総排気量=5204cc
●最高出力=639ps/6500rpm
●最大トルク=700Nm/5000rpm
●駆動方式=FR
●トランスミッション=8速AT
●車両価格(税込)=2770万円
■アストンマーティンDBSスーパーレッジェーラ ヴォランテ主要諸元
●全長×全幅×全高=4715×1970×1295mm
●ホイールベース=2805mm
●車両重量=1863kg
●エンジン= V12DOHCツインターボ
●総排気量=5204cc
●最高出力=725ps/6500rpm
●最大トルク=900Nm/5000rpm
●駆動方式=FR
●トランスミッション=8速AT
●車両価格(税込)=3801万円5400円
[ アルバム : アストンマーティンDB11 & DBS はオリジナルサイトでご覧ください ]
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