この記事をまとめると
■スズキが次の10年を見据えた新技術群を発表
100年の間には冒険したクルマも! 「名車」だらけのスズキが生んだ「迷車」6台
■次世代アルトで100kg軽量化する開発がスタート
■48Vマイルドハイブリッドはあらゆる変速機に対応
非化石燃料による発電が75%超えない限りハイブリッドが有効
先日NHKで放映された「魔改造の夜」に、チームSズキ(隠し名になっていないスズキのワークス体制のエンジニア集団)が参戦したことが話題になった。電動マッサージ器25mドラッグレースでシンプルかつローコストに見える、いかにもスズキらしいマシンをもち込んだことを、番組視聴者がSNSで取り上げていたことは記憶に新しい。
チームSズキの活動は、おとなのお遊びといえるものだが、その活躍についてスズキの鈴木俊宏社長は「スズキらしいマシンづくりに感動しました」という。なぜなら、シンプルで機能的なメカづくりというのはスズキの掲げる行動理念のひとつである「小・少・軽・短・美(しょうしょうけいたんび)」を体現するものだからだという。
そんなアイスブレイクでスズキの「10年先を見据えた技術戦略発表会」は始まった。
同社の主な市場となっているのは、日本・インド・欧州(東欧)というのはよく知られているが、いずれの地域においてもCO2排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルは求められている。ただし、地域によって政策など状況は異なるため、モビリティのカーボンニュートラルに対する正解はひとつとはならない。
たとえばカーボンニュートラルなモビリティの象徴的存在であるBEV(電気自動車)についても非化石燃料発電の比率が75%を超えてこないとBEVの優位性は際立たない。つまり、太陽光や風力発電が普及する欧州であればBEVはカーボンニュートラルの最適解となり得ても、日本やインドでは完全BEVシフトは時期尚早となりかねないのだ。
交通事故を激減させる効果の期待されるADAS(先進運転支援システム)についても同様だ。日本や欧州では“使える機能”であっても、ある意味カオスのような渋滞が日常的となっているインドでは「街なかで機能をオフにするのが当たり前になっている」という。各地域にあったソリューションを提供することがグローバルな自動車メーカーには求められている。
さて、スズキが10年先を見据えた技術を具体的に紹介すると、以下の5つに大別できる。
(1) 軽くて安全な車体 (2) バッテリーリーンなBEV/HEV (3) 効率良いICE、CNF技術 (4) SDV(ソフトウェアデファインドビークル)ライト(right) (5) リサイクルしやすい易分解設計
スズキといえば、軽自動車やコンパクトカーなど軽くて小さなクルマづくりが得意なメーカーとして認識されているだろう。そもそも軽いクルマを生み出すことには長けている。たとえば、軽自動車のベーシックモデル「アルト」の車重は現行モデルで680kg~となっている。しかし、少しでも軽くすることができれば製造を含めたエネルギーの極少化につながるのも、また事実だ。
スズキが発表した次世代の軽量プラットフォーム(HEARTECT)では、そのアルトを100kg軽量にすることに挑むという。もちろん安全性能をないがしろにすることはなく、むしろ安全性能を高めつつ、大幅な軽量化を目指すのだという。
スズキというブランドで売るのだから、カーボンなどの高価な軽量パーツを多用する……という手段をとることは考えづらい。具体的なアプローチについては非公開情報ということだが、鈴木社長は「内装材を省いてみたらどうだろう」というアイディアを披露した。リサーチしていくと、鉄板の溶接個所を減らした一体成型の積極採用や、アルトであれば3ドアボディに回帰することも含めて考えていくべきだろう、という声もあった。
次世代アルトで目指す100kg軽量化というのは、丸目アルトワークスで知られる3代目アルトと同じ重量レベルともいえる。使わない機能を省くことで軽量化とローコストを実現するのであれば、3ドアボディの復活はあり得ない話ではない。その際には、電動化時代のアルトワークスも合わせて復活することを期待したい。
なぜなら、まだまだスズキはエンジン車の未来があると考えているからだ。たとえば日本市場においては2035年の段階でもハイブリッドカーが主流になるとスズキは予想している。
そうしたクルマ社会において、重要になるのは熱効率に優れたエンジンであり、スズキのクルマに期待されるのはローコストで省燃費に貢献するハイブリッドシステムだ。地域に合わせた開発としては、インドで進むCNF(カーボンニュートラル燃料)への対応もスズキのエンジン開発においては重要なテーマになっているという。
ある意味「ほぼ使われない」機能は省くという割り切った考え方
今回の技術発表会においては、スイフトに搭載される最大熱効率40%を実現した 3気筒「Z12E」型エンジンに48Vマイルドハイブリッドを組み合わせた「スーパーエネチャージ」のプロトタイプが展示されていた。
これまでスズキが採用しているハイブリッドシステムは12Vとなっているが、システム電圧を48Vへ高めることで、より電動領域を拡大することを目指しているという。また、48VのISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)をエンジンとトランスミッションの間に挟むという構造のため、あらゆるエンジンとトランスミッションに適応するというのも注目だ。
たとえば次期スイフトスポーツがあるとして、6速MTとマイルドハイブリッドを組み合わせることも可能となる。実際の商品企画として成立するかは別として、技術的にはエンジン縦置きの軽バンや軽トラ、ジムニーもマイルドハイブリッド化することが可能となる。
開発中の「スーパーエネチャージ」は、機構的にはマイルドハイブリッドだが、エンジンとの接続にクラッチを用いることで回生ブレーキによるエネルギー回収量を増やし、EV走行モードを拡大することが期待できるシステムだ。それでもスズキは「不必要なバッテリーを積むのは環境負荷も大きく、ユーザーへのコスト負担も大きくなる。必要最低限の搭載量にとどめる“バッテリーリーンな電動車”を目指す」とアナウンスしている。BEVについても、乗車人数を絞ったり、航続距離を割り切ったりすることで、手の届きやすいラインアップを展開すると理解できる。
ともすれば、クルマ好きはテクノロジーオリエンテッドなマインドになりがちで、世界初の先進技術に注目しがちだが、それがユーザーメリットになっているかは疑問もある。BEVにおいても、高出力モーターと大容量バッテリーを組み合わせた重厚長大なモデルが目立ってしまうが、こと普及フェイズになるとユーザーが真に求めるのはコストパフォーマンスに優れたモデルであることはいうまでもない。
最近のトレンドとなっている「SDV(ソフトウェアデファインドビークル)」についても、そうしたスズキの姿勢は一貫している。SDVといえば、OTA無線通信により機能アップデートできるような先進性を求めてしまうが、そのためにユーザーが負担しているコストは、表に見えない部分も含めて少なくない。
スズキの提案する「SDVライト」は、必要最小限のOTAアップデート機能にとどめ、整備工場でのアップデートも併用することでコストバランスを重視するのがポイントだ。ちなみに、SDVライトの“ライト”は軽い(light)という意味ではなく、適切な(right)という意味となっている。まさにスズキらしい電子アーキテクチャーといえるだろう。
最後に紹介するのは、ライフサイクル全体でのリサイクル性を考えた易分解設計だ。要は解体しやすく、素材ごとに部品を仕分けやすい設計思想を取り入れていくわけだ。
「小・少・軽・短・美」を理念とするスズキのモデルは、もともと原材料の使用量などは少なめだが、さらに積極的にリサイクルを進めることで、カーボンニュートラル社会への貢献度を上げようというアプローチは、けっして派手さはないが、持続可能な自動車社会につながるものとしておおいに注目したい。
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みんなのコメント
もぅ僕の36ワークスも16万キロで疲れてきておられます。笑