イタリアンデザインが特徴的だったコンパーノ
ダイハツは、1907年(明治40年)に創業した歴史あるメーカーだ。
不便だがそれがいい! コペンの「クラシックカー」スタイルがおしゃれすぎる
発動機製造株式会社として誕生し、1951年にダイハツ工業と社名変更している。大阪にある発動機製造という会社であることから、大阪の大と、発動機の発から、ダイハツとなった。エンジン製造から、クルマの製造をはじめるとき、まず3輪車から手を付けた。1957年には、有名なミゼットを発売している。
コンパーノベルリーナという小型4輪車は、1964年に誕生した。その前年に、コンパーノバンという商用車を発売している。商用車とはいいながら、外観の造形はコーチビルダーであるイタリアのアルフレッド・ヴィニャーレの手によるもの。
ベルリーナという車名も、イタリア語でセダンを意味している。そのように、60年代前半にダイハツが手掛けたクルマは、ドイツでもなくイギリスでもなく、情熱と芸術にすぐれたイタリアの血統を採り入れ、洒落ていたのであった。
室内も、ステアリングに3本スポークを用いるなどして、スポーティな装いである。
ガソリンエンジンは直列4気筒の排気量755ccで、最高出力は41馬力。これに4速フルシンクロの変速機を組み合わせている。シンクロメッシュ機構は、変速の際にギア比とエンジン回転を合わせる機能を持ち、運転者が自らエンジン回転を調整しなくても容易に変速を行えるようにする仕組みだ。
今日では何気なくシフトアップやダウンを行えているのも、シンクロメッシュ機構があるおかげであり、1960年代当初は、シンクロメッシュ機構が次第に広がりつつある時期と重なる。しかし必ずしもすべての変速段にシンクロメッシュが採り入れられていたわけではない。したがって、運転者がエンジンを空吹かししたり、クラッチの接続を丁寧に行ったりしながら、慎重に変速操作を行った。
自在な運転操作を実現しようとしたダイハツの思いが、シンクロメッシュ機構をすべての変速段で採用したことからも伝わってくる。
1965年にはオープンモデルが追加された
ベルリーナ発売の翌65年には、オープンカーのスパイダーが誕生した。幌付きのオープンカーだ。
日産にダットサン・フェアレディというオープンカーがあったが、そのころはまだオープンカーは珍しい存在だった。そもそも、スバル360や、日産サニー、トヨタ・カローラが当所ゆするような時代には、自家用車を持つことさえまだ広がっていなかったのだ。
搭載されるガソリンエンジンは高圧縮比とすることで、65馬力にまで改良され、最高速度は時速145kmに達したという。67年になると、ベルリーナGTが加わり、このガソリンエンジンには燃料噴射が採用され、最高出力こそ65馬力のままだが、最大トルクがあがった。エンジン技術へのこだわりは、創業がエンジン製造であったためだろう。
そのうえで、イタリアの造形を採り入れるなど、当時ダイハツ工業はなかなか洒落た自動車メーカーであったといえる。
また、スポーツキットの設定をしたり、レースに出場したり、走行性能の向上に意欲的なメーカーであった。P3と呼ばれた試作車は、66年の第3回日本グランプリでクラス優勝し、総合でも7位になっている。さらに68年の日本グランプリにはミッドシップのP5というレーシングカーを投入し、やはりクラス優勝を果たした。
60年代半ばまでのダイハツ工業は、イタリアデザインと高性能という特色を備えた自動車メーカーだった。
しかし、67年にトヨタと業務提携を結び、2016年にはトヨタの完全子会社となる。コンパーノの価格は、セダンのベルリーナが57.8万円で、日野コンテッサの58.5万円に近く、サニーの46万円、カローラの49.5万円に比べ、割高だった。
そうした価格面では大手との業務提携もやむを得なかっただろう。ダイハツと日野が、ともにトヨタ傘下となるのも奇遇といえる。オープンカーのコンパーノスパイダーは、69.5万円の高値だった。
コンパーノに話を戻せば、それは私が小学生のころであり、もちろん、その記憶はある。だが、子供心にはイタリアデザインを理解するだけの感性がまだ備わっていなかったようだ。60年代半ばに発売された日産サニーや、トヨタ・カローラのほうが親しみがあり、また憧れもしたのであった。
その点においては、トヨタや日産はやはり大衆車メーカーとして多くの人の心を巧みに掴む手法に優れていたといえるかもしれない。日産サニーの命名に際しては、一般から車名を公募することも行っている。身近さや分かりやすさでは、軍配が上がる。
しかしいまとなっては歳もとり、コンパーノのなんともいえぬ独創性と、簡素な造形のなかに潜む美しさに心を打たれる。それは、余計な装飾にたよらない、形そのものが生み出す美というものだろう。人生を楽しみ喜ぶイタリア人の生きざまが造形にも表れる。
残念ながら、運転をする機会はまだ得られていない。目にする機会も限られる。1960年代に青年であったなら、おおいに憧れた一台ではなかったか。
ダイハツの造形への意欲は、今日もなお、コペンやミライース、あるいはトコットやムーヴキャンバスなどから伝わってくる気がする。
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