バブル期には、いまでは考えられないほど個性的な車が登場した。軽自動車の分野でも、バブル期に開発されたスポーツカーが、90年代初頭に相次いで発売された。
それが“平成のABC”と呼ばれるオートザムAZ-1、ホンダ・ビート、そしてスズキ・カプチーノの3台だ。業界の自主規制で、軽自動車の最高出力が64㎰に抑えられる中で、メーカー各社は、“尖った”モデルの開発で競うしかなかったのだ。
3車種の中で、最も実用性が高かったのがホンダ・ビートで、販売台数も最も多かった。一方、最も実用性に乏しかったモデルがAZ-1で、乗降用ドアに当時の軽自動車として唯一ガルウイングを採用した。AZ-1は話題性に富んでいたが、販売面では苦戦し総生産台数は4409台にとどまった。ミニカーの世界でも、当時、既存メーカーがモデル化することはなかった。
しかし、あまりに強い個性と希少性によって、1994年の生産終了直後から実車にプレミア価格がついていて、人気は高かった。その人気が30年も経って、ミニカーの世界にもブームを巻き起こしている。
最初にAZ-1をモデル化したのは、希少車のモデル化を得意とするエブロだったが、この何年かで、ホットワークス、国産名車の43分の1スケールと24分の1スケール、そしてマッチボックスのレギュラーシリーズにまで登場した。ミニカーといえるか微妙だが、ガチャガチャでもモデル化されている。
いずれのモデルも出来栄え自体はとてもいいのだが、ボクはやはり最初に登場したエブロのモデルがいちばん好きだ。全体のバランスがいいのと、ホイールの造形がボクの好みだからだ。
エブロ(正式社名はエムエムビー)は、1999年に自社独自のモデルカーを企画・販売する会社として創業した。製造自体は外注で行うファブレスメーカーだが、製品へのこだわりは強く、高品質なモデルを数多くリリースした。とくにレーシングカーの細かい造形やプリントでは群を抜く力を発揮し、コレクターの強い支持を得ていた。
それが今年3月に経営破綻した。原因は、新型コロナでイベントが開催できず、売上不振による資金繰りの行き詰まりだったとされる。コレクターとしては、断腸の思いだが、エブロの残した数多くのモデルが消えることはない。
つまりAZ-1のモデルは、自動車史に輝く遺産を、これも遺産となってしまったミニカーメーカーが生み出したものなのだ。
もりながたくろう/もりながたくろう/1957年、東京都出身。東京大学経済学部卒業。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。個人のコレクションを展示する“博物館(B宝館)”を、埼玉県・新所沢で一般公開中(毎月第1土曜日開館)
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みんなのコメント
ビートでなくカプチーノでしょうね