ホンダは2021年2月19日に社長人事を発表した。4月1日付けで専務取締役の三部敏宏氏が代表取締役社長に就任する。気になるのは、2030年~2035年にかけて、純ガソリン車の新車販売を禁止し、電動化時代に向けて、ホンダはどう対応するのかということ。
そのなかで一番気になっているのは、我ら庶民の足、軽自動車の電動化がどうなるのか? もちろん、軽自動車も電動化の対象だ。
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国内新車販売4年連続NO.1、軽自動車販売6年連続NO.1のN-BOXはいまだマイルドHVどころか、フルHVも搭載していない。そのほかのホンダの軽もHVは用意されていないのだ。ホンダの新車販売台数全体に占める軽自動車の割合は50%を超えるのにだ。
そこで、ホンダの軽自動車の電動化は今後どうなるのか? 日本で一番売れているN-BOXのHVやEVが出るのはいつになるのか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカー編集部 ベストカーweb編集部 ホンダ
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三部新社長のもと、ホンダの電動化は今後どうなっていくのか?
4月1日付けでホンダの代表取締役社長に就任する三部敏宏氏(写真左)と現社長の八郷隆弘氏(写真右)
ホンダは2021年2月に、三部敏宏氏を代表取締役社長とする人事を発表した。社長交代会見において、三部敏宏氏は「2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みを具体化し加速させる」と述べている。
ホンダは2020年7月に、中国のCATLと包括的なアライアンス契約を提携して、電動車に使われるバッテリーの共同開発、CATLからホンダに向けたバッテリー安定供給などの協業を発表した。この協業を推進したのは、当時ホンダの専務取締役 ものづくり担当取締役を務めていた三部敏宏氏であった。
またホンダは、GM(ゼネラルモーターズ)とも協業を行い、2018年からバッテリーモジュール開発などに取り組み、GMのグローバルEVプラットフォームをベースにした電気自動車の共同開発も行う。ホンダとGMは、2車種の電気自動車を共同開発する予定だ。
今までホンダは、OEM車などを含めて、ほかの自動車メーカーとはほとんど提携しなかった。ホンダならではの独創性の高い商品開発を重視してきたが、今後は環境性能の向上を目的にした電動化に加えて、自動運転、通信機能を使った各種の事業にも取り組まなければならない。メーカーの負担が大きく、ほかのメーカーも多角的な提携に乗り出している。
電気自動車では、開発や製造がシンプルになるという見方もされるが、実際は逆だ。衝突安全ボディ、サスペンション、内外装、各種の安全/快適装備などは従来の車両と同等以上の内容が求められ、そこにエンジンやトランスミッションの代わりに電動機能を加えることになるからだ。
特に内燃機関の燃料タンクは液体を蓄える容器だが、電気を蓄えるバッテリーは、制御を含めて複雑かつ高コストだ。電気自動車の開発には膨大な投資が必要で、タイミング的に自動運転、通信機能の開発とも重なっているから、他社との提携が不可欠になる。
そしてホンダとしては、協業で開発された共通のバッテリー、モーター、制御システム、プラットフォームなどを使って量産効果によるコスト低減を実施しながら、独特な個性化された商品を生み出すことになる。
今でも共通のプラットフォームを使って、セダン、SUV、スポーティカーを開発することは普通に行われている。従って協業と商品の個性化は両立できると思われるが、供給体制を整えておかないと、生産の滞りが生じたりする。
ホンダの場合、ユーザーにとって気になるのは、N-BOXやN-WGNといった軽自動車の行方だろう。ホンダは2020年にN-BOXを20万台近く販売しており、国内の最多販売車種になった。この販売台数は、2020年に国内で売られたホンダ車の32%に達する。N-WGNなどを加えた軽自動車全体になると50%を超える。
地方在住者の重要な足、軽が電動化によって高騰し買えなくなる!?
日本でいま一番売れている軽自動車、N-BOX。売れ筋グレードLのWLTCモード燃費は21.2km/L。今のままでは、2030年燃費基準の達成目標(約27.8km/L)に届かない
今のホンダにとって軽自動車は一番の売れ筋カテゴリーだが、2030年度燃費基準に対応すべくフルハイブリッドや電気自動車になると、価格が大幅に高まる。
軽自動車は、価格、税額、燃料代などが安いため、公共の交通機関を利用しにくい地域では、買い物や通勤に欠かせない移動手段になっている。年金で生活する高齢者が、軽自動車を使って買い物や通院をしていることを考えると、ライフラインともいえる。
つまり軽自動車はカテゴリー自体に福祉車両の性格が伴い、公共性も高い。ハイブリッドや電気自動車になって価格が高まると、移動の自由、さらには生活権まで奪われるユーザーが生じかねない。軽自動車については、2030年度燃費基準に対応しながら、価格の上昇を抑えることが求められている。
2030年度燃費基準は、2020年度と同様、CAFE(企業別平均燃費方式)によって判断される。そのために燃費の優れた車種を大量に販売すれば、燃費の悪いクルマを少し売ってもカバーできるが、燃費数値は2020年度に比べると大幅に引き上げられる。
例えば現行N-BOXで売れ筋になる標準ボディのLは、車両重量が900kgでWLTCモード燃費は21.2km/L(JC08モード燃費は27km/L)だ。従来の2020年度燃費基準では、900kgの車両重量に相当するJC08モード燃費が23.7km/Lだったから、27km/LのN-BOX・Lは十分にクリアできていた。
ところが2030年度燃費基準では、900kgの車両重量に相当するのは、WLTCモード燃費で27.8km/L前後だ。計測方法がWLTCモードに変わり、さらに燃費基準の数値も引き上げられる。N-BOX・LのWLTCモード燃費は前述の21.2km/Lだから、燃費数値を31%向上させねばならない。
低価格で採用できる環境技術としては、マイルドハイブリッドがある。モーター機能付き発電機を搭載して、減速時の発電/エンジン駆動の支援/アイドリングストップ後の再始動を行い、発電された電気は小さなリチウムイオンバッテリーなどに蓄える方式だ。
このシステムは軽自動車に幅広く使われるが、燃費数値の向上率は低い。例えばワゴンRの場合、NAエンジンのWLTCモード燃費は24.4km/Lで、マイルドハイブリッドは25.2km/Lだ。3%の燃費向上だから、N-BOX・Lが2030年度燃費基準を達成するために必要な31%には遠くおよばない。N-BOXにマイルドハイブリッドシステムを加えただけでは、2030年度燃費基準をクリアするのは困難だ。
それならフルハイブリッドシステムならどうか。フィットのホームでNAエンジンとハイブリッドのe:HEVを比べると、後者の数値は43%向上している。ヤリスでは1.5LNAエンジンとハイブリッドを比べると、G同士の比較でハイブリッドのWLTCモード燃費は67%向上する。
N-BOXのフルHVが登場する?
フルハイブリッド搭載車の価格設定は、割高感が生じない水準にとどめることが望ましい。軽自動車の場合、ユーザーにとって妥当といえるハイブリッド車とガソリン車の価格差は20万円前後だろう
したがってN-BOXにフルハイブリッドを搭載すると、2030年度燃費基準を達成できる。同様のことがほかの軽自動車にも当てはまる。この時に問題になるのが価格だ。コンパクトカーは価格競争が激しいので、ホンダフィットホームでは、NAエンジンとハイブリッドの価格差をほかの車種に比べて小さく抑えた。それでも34万9800円の上乗せだ。ヤリスGは37万4000円になる。
このように今のところ、NAエンジンとフルハイブリッドの価格差は最小でも約35万円だ。N-BOX・Lの価格は155万9800円だから、35万円を加えると191万円に達する。比率に換算すると22%の値上げだ。
エアロパーツや派手な外観を備えない標準ボディのベーシックなN-BOXが190万円を超えると、割高感が生じてしまう。売れ行きが下がってコストの低減も困難になり、さらに価格が高まったり、高品質の維持が難しくなることも考えられる。
先に述べた通り、軽自動車にはライフラインや福祉車両の性格が伴うため、価格が上昇すると軽自動車の社会的な使命を果たせない心配も生じる。
そこでハイブリッド化によってどの程度の価格上昇なら耐えられるかといえば、軽自動車の場合は20万円前後が上限だ。N-BOX・Lの価格は155万9800円だから、20万円を加えると約176万円になる。N-BOX・Lの4WDは、13万3100円の上乗せで169万2900円だから、これよりも少し高い程度に収まる。
またN-BOX・Lターボは、19万9100円高まって175万8900円だ。Lターボにはサイド&カーテンエアバッグ、右側スライドドアの電動機能なども加わるから、ターボの正味価格は実質9万円に収まる。それでもフルハイブリッドを20万円の上乗せで設定できれば、2030年度燃費基準を達成できて、販売面の悪影響もどうにか抑えられる。軽自動車の使命も果たせる。
スズキの電動化戦略はどうなる?
ホンダとともに岐路に立たされているスズキ。2030年度の燃費基準をクリアするためには、現在のマイルドハイブリッドに代わる低コストのフルハイブリッド開発、もしくは資本提携先のトヨタのハイブリッドシステムを搭載するなどの対策が必要
ただし35万円前後のフルハイブリッドを20万円で装着するには、さまざまな工夫が求められる。まずはフルハイブリッドシステムのコスト低減だ。スズキの鈴木俊宏社長は「2025年までに電動化技術を整える」としており、現在のマイルドハイブリッドを進化させて、環境/燃費性能をフルハイブリッドに近付けることも考えられる。
そして今のスズキはトヨタと提携しており、トヨタの完全子会社になるダイハツとも間接的な繋がりを持つ。そうなると新たに軽自動車用ハイブリッドシステムを開発して、スズキとダイハツで共用することも考えられる。
かつてマツダがトヨタのハイブリッドシステム(THSII)を導入して、自社製のエンジンに装着してアクセラに搭載したことがあった。この時は相当な技術的困難が伴ったが、低コストのハイブリッドシステムを共通化することは不可能ではない。そこにホンダが加わることも考えられる。そうなれば20万円の上乗せで2030年度燃費基準をクリアすることも可能かも知れない。
エンジンやトランスミッションなどの効率向上も重要だ。エンジン排気量を800cc前後まで拡大させると、環境/燃費性能が向上して、2030年度燃費基準への対応もしやすくなる。ただし増税とセットにされたらユーザーのメリットが大幅に下がるので、税金の据え置きが大前提だ。
燃費基準の見直しも必要ではないか
燃費基準の見直しも求められる。現状の燃費基準は、車両重量と燃費数値を単純に組み合わせただけだ。そのために環境性能を向上させる王道ともいえる軽量化の努力は、まったく報われていない。
例えばN-BOXの車両重量を100kg軽くして800kgに抑えて燃費を向上させても、同程度のワゴンRと同列で判断されるだけだ。軽量化した分だけ、燃費基準の数値も引き上げられてしまう。900kgの車両重量に相当する2030年度燃費基準は、前述の通りWLTCモード燃費で27.8km/L前後だが、800kgに軽くすれば28.5km/Lが課せられてしまう。
これではメーカーも抜本的な軽量化に踏み切れない。車体の容量で判断するなど、N-BOXを軽量化して環境/燃費性能を向上させたことが、2030年度燃費基準の達成で評価される仕組みが求められる。
以上のように2030年度燃費基準にN-BOXのような軽自動車を対応させるには、さまざまな制度の見直しが必要で、それは環境問題に対する取り組み方を検証することにもつながる。
好機と捉えて、燃費基準の仕組みなどをあるべき内容に刷新させたい。この時には第一線で開発に取り組む開発者の意見を重視すべきだ。それを今後4~5年間で達成しないと軽自動車の将来も危うい。
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国内車の軽、議論がそちらに向く。