♪寂しい夜はごはんだ、寂しい夜はつまみがない、寂しい夜は歯が痛い。寂しい夜は暗い暗い暗い~は、シャ乱Qの曲(『いいわけ』)であるけれど、今回試乗したのは“シャ乱Q”ではなく“シャラン2”だった。シャランにもゴルフ同様、TDI搭載モデルが2019年10月1日にくわわった。
2代目シャランは2010年に発表され、日本市場には翌2011年2月に上陸している。2015年のマイナーチェンジを受けて、1.4リッターTSIエンジンは10Nmのトルクアップと、プリクラッシュブレーキシステムなど安全装備の充実が図られているものの、基本構成は変わっていない。
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ほとんど10年選手の3列7人乗り、リアがスライド・ドアの大型ミニバンである。
1995年に登場した初代シャランはフォードとの共同開発で15年ものモデルライフを誇っているから、シャラン2もこのままもうちょっといくかもしれない。
【主要諸元(TDIハイライン)】全長×全幅×全高:4855mm×1910mm×1765mm、ホイールベース:2920mm、車両重量:1900kg、乗車定員:7名、エンジン:1968cc直列4気筒DOHCディーゼルターボ(177ps/3500~4000rpm、380Nm/1750~3250rpm)、トランスミッション:7AT、駆動方式:FWD、タイヤサイズ:225/50R17、価格:529万6000円(OP含まず)。新たに設定された2.0リッター直列4気筒ディーゼル・エンジン「TDIユニット」は、最高出力150ps、最大トルク340Nmのゴルフ、ティグアン用とも、最高出力190ps、最大トルク400Nmのパサート用とも異なるチューンの最高出力177ps /3500~4000rpm、最大トルク380Nm/1750~3250rpmを発揮する。
全長4855×全幅1910×全高1765mmという小山のようなでっかさで、駆動方式はFWD(前輪駆動)。車重はなんと1900kgもある。大人がちゃんと乗れる立派なシートを7脚も積んでいるのだから、いたしかたない。グレードは1番高いハイラインのみで、シート表皮はアルカンターラ&レザーが標準となる。
TDIハイラインのみ、純正ナビゲーションは標準装備(そのほかはオプション)。シート表皮はアルカンターラ×レザーのコンビタイプ。オプションでフルレザー仕様も選べる。フロントシートはリクライニングおよびランバーサポートのみ電動調整式。スライドや高さ調整は手動である。なかなか贅沢な仕様ではあるけれど、一見してそう見えないのは、シンプルなインストゥルメント・パネルが理由かもしれない。
とりわけ、デジタルメーターとタッチパネルを標準装備する「ゴルフTDIハイライン マイスター」から乗り換えた筆者の目には、いかにも古臭く見える。でも、しばらくして馴染んでくると、リアルの機械式メーターと同じくリアルの機械式スイッチ類を見ると、これこそ自動車というもんである、と思い直す。
メーターパネルはアナログタイプ。センターにあるインフォメーション・ディスプレイはモノクロである。いかにもドイツ車っぽいミニバンTDIエンジンをスタートさせると、ガラガラ、ディーゼル音が聞こえてくる。シャランTDIは働くクルマである。昔のフォルクスワーゲンはこうだったよなぁ、と思ったりもする。どのフォルクスワーゲン? 1980年代の「ゴルフII」とか、ガソリン・エンジンでもブルブル振動していた。それはエンジン・マウントがしっかりしているからだ、と教わった。
シャランTDIに話を戻すと、停止からの発進加速はものすごく遅い。アクセル・ペダルをガバチョと踏みつけるとなおさらそう感じる。ターボが2000rpmあたりからグワッと立ち上がる。380Nmという大トルクを誇るとはいえ、車重に比して極低速トルクが細いのは、排気量が1968ccしかないのだから、これまたいたしかたない。
WLTCモードの燃費は14.0km/L。シャランはTDIのほか、ガソリンターボ・エンジン(1.4リッター直列4気筒)搭載グレード「TSI」も選べる。こちらのスペックは最高出力150ps/5000~6000rpm、最大トルク250Nm/1500~3500rpm。搭載するエンジンは1968cc直列4気筒DOHCディーゼルターボ(177ps/3500~4000rpm、380Nm/1750~3250rpm)。排ガス浄化に、アドブルー(尿素水溶液)を使う。トランスミッションはデュアル・クラッチ・タイプの7AT。で、これはこういうもんである。と身体が覚えてしまうと、これはこれでいかにもドイツ製の荷車に乗っている感があって、なかなかケッコウである。こういう、といっても読者諸兄には想像していただくほかないわけですけれど、石でできたような武骨な運転感覚と乗車感覚は、設計年次がちょっと古めなこともあって、なおさら味わい深いように思われる。
でもって、一旦スピードに乗ってしまうと、いままでバラバラだった石くれたちがキューっと集まって一体となり、スムーズネスとスタビリティの塊となって疾走する。タイヤは225/50R17のコンチプレミアムコンタクトで、やや硬めの乗り心地もまた、いかにもドイツ車っぽい。ホイールベースは2920mmもあるから、凸凹の悪路でも大船に乗っているかのようなゆったり感がある。スライドドアなのに、ボディの剛性感はリッパなドイツ車のそれだ。
リアのスライド・ドアは、左右ともに電動開閉式。ドアハンドルまたはセンターコンソールにあるスウィッチで操作する。タイヤサイズは225/50R17。気になる価格ステアリングはぶらぶらで、中心付近はそうとう鈍い。でも、7人の乗りのミニバンである。ドイツのひとはホントに7人乗せてアウトバーンをブッ飛ばすだろう。それにはこういう、ダルなステアリングのほうが安定感と安心感につながる。こんな小山のようなクルマでステアリングがシャープだったらタイヘンだ。これはこれで正しい。
安全第一のハンドリングに、おとな7人が乗れる、いかにも道具然としたミニバンに加わったディーゼルは、武骨なその道具性をいっそう際立たせていて、魅力が増している。
ステアリングホイールはパドルシフト付き。2列目シートは3席個別にスライド&リクライニング出来る。3列目シートも個別にスライド&リクライニング出来る。3列目シート使用時のラゲッジルーム容量は300リッター。テールゲートは電動開閉式。2列目、3列目のバックレストをすべて格納すると、ラゲッジルームは2297リッターに拡大する。さらに、助手席バックレストを前倒しすれば、長さ約2.95mの長尺物も積める。もし、問題があるとしたら、ラグジュアリー仕様のハイラインしか設定がないことだろう。車両価格が529万6000円もするのだ。最も安いガソリンのシャランはTSIトレンドラインの368万円である。布張りのショボい仕様が、400万円を切る価格であれば、山小屋風のお宿の送迎用とかによいのではないか、と思ったけれど、筆者が思いつくようなことは輸入元のかたがたも真剣に検討しておられるでしょうから、できない理由があるのでしょう。
いずれにせよ、こんなにでかいミニバンを個人で購入するひとはアウトドアの達人であるに違いなく、それがシャランTDIを違いのわかる男前にしているのではあるまいか。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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