コロナ禍以降、クルマの販売が変化を見せている。メーカーオプションがセット化されたり、ディーラーオプションへの移行が進んでいるのだ。クルマ選びの楽しみともいえるオプション選びの最前線を取材してみた!
文/小林敦志、写真/トヨタ、Adobestock
オプションの華「カーナビ」も消える? クルマのオプション事情がスゴイことになっていた!
■プリウスUは運転支援装置が後付けできる
トヨタ プリウスにKINTO専用グレードとして設定された「U」グレード
新車購入において多くの人にとって楽しみのひとつが、「オプション選び」だろう。
おさらいをしておくと、オプションにはメーカーの生産工場で完成車生産時にしか装着できない「メーカーオプション」と、メーカー系正規ディーラーで装着ができ、後付けも可能となる「ディーラーオプション」が存在する。
メーカーオプションは、デバイスなどメカニカルなものが多く納車後の後付けは不可能なのに対し、ディーラーオプションは納車後も随時欲しくなると装着可能なものといままでは説明してきたのだが……。
2023年1月に5代目となる現行トヨタ・プリウスが発売された。それと同時にトヨタの個人向けカーリースプランである“KINTO”において、KINTO専用グレードとして1.8Lの「U」というグレードが設定された。
そしてこのグレードでは、本来メーカーオプションに相当する「ブラインドスポットモニター」「パノラミックビューモニター」「ステアリングヒーター」の後付けが可能となっているのが話題となった。
またダイハツでは、タントやムーヴキャンバスなどに、予防安全機能となる「ブラインドスポットモニター」がディーラーオプションとして設定されており、後付けが可能となっている。
新車購入時には「いらないかな」と思っていたものの、使っているうちに「やっぱり選んでおけばよかった」となることもあるだろう。またメーカーオプションの設定は作業工程が増えるといった都合から、当該車種の生産コスト全体をアップさせる要因にもなる。
そのため最近ではバラバラに設定するのではなく、いくつかのメーカーオプションをひとまとめに集約した“セットオプション”というものが一般的にもなってきている。メーカーオプション的なものまで後付け可能とする動きは、生産コストを抑える効果も狙っているように見える。
■メーカーオプションのディーラーオプション化が進む?
かつてのディーラーオプションの「花形」といえばカーオーディオ。現在ではカーナビがその位置にある(beeboys@AdobeStock)
輸入車ではメーカーオプションの設定そのものが少ないなか、日本車のように受注生産(注文を受けてから生産する)が大原則ではなく、日本向けに割り当てられた生産済みの「ストック車両」販売がメインとなるので、「メーカーオプションを選んで発注する」という概念はほとんど存在しない。
ストック車両の多くはすでにメーカーオプションが装着されているケースが多く、ボディカラーだけでなく、オプション装着内容(多いか少ないかなど)も見ながら、購入希望車種を絞り込むことになる。
日本車に話を戻すと、今後はデバイス系のメーカーオプションを中心に「ディーラーオプション化」が進んでいくかもしれない。
かつて日本がバブル経済といわれたころは、多くのクルマはエアコンとオーディオがまだディーラーオプション設定となっていた。
ただ、エアコンもオーディオもすでに当時は「マストアイテム」だったので、ディーラーは新車販売だけでなく、ディーラーオプションの販売及び取り付けでも大きな利益を得ていた。
その後エアコンは標準装備が当たり前となったが、オーディオはカーナビへと進化を遂げ、ディーラーオプションの「花形」となっていたのだが、ここのところはトヨタでいえば「ディスプレイオーディオ」と表現されるものの普及もあり、風向きが随分変わってきた。
コネクティッド社会が進み、コネクティッドシステムが標準化されれば、カーナビのディーラー装着というものはますます限定的となっていくだろう。
事実、コネクティッドシステムの普及に積極的なトヨタやマツダなどでは、ディーラー店頭におけるカーナビ機器の装着はほぼなくなっている(トヨタではカーナビ機能の追加設定ではなく、コネクティッドサービスのひとつになろうとしている)。
その後釜として、安全運転支援デバイスなどを中心とした、“メーカーオプションの一部後付け化”というものが進んでいくのかもしれない。
■ディーラーオプションをディーラー外で取り付ける場合も
オプション装備における自動車ディーラーの役割も日々変化している(Prostock-studio@AdobeStock)
一方のディーラーオプションでも新しい動きが出てきている。新車ディーラーはセールスマンやメカニックなどを多く雇用する“労働集約型産業”と言っていいだろう。
そのような新車ディーラーでは、コロナ禍が落ち着きを見せはじめたころより発生した、半導体不足など世界的なサプライチェーンの混乱などによる新車の長期的な納期遅延が、経営を大きく揺るがせた。
新車販売の世界において販売実績としてカウントできるのは、新規登録(軽自動車なら届け出)が完了する必要がある。つまり、ナンバープレートが取れて初めて販売実績として計上できるのである。
しかし、新車の受注はもらえるものの、いつまでたっても納車ができなければ販売実績として計上することはできない。このような動きがディーラーの経営をじわじわと圧迫したとされている。
そんなディーラーにとって最大のコストは人件費であるが、セールスマンもメカニックも人員不足が深刻で、とてもではないが「人減らし」などはできない。
そのため、メーカーから搬入された新車の最終検査や、フロアマットやサイドバイザーといったディーラーオプションを装着する部門の廃止や規模縮小を行うディーラーもあると聞いている。
中には、各店舗のメカニックがフロアマットやサイドバイザーなどのディーラーオプションを装着しているところもあるようだ。ただメカニックは日々持ち込まれる点検・整備車両への作業に日々追われており、そのうえでディーラーオプション装着を行うことは過度の負担に繋がる。
別の話では、メーカーの生産工場で完成車がラインオフされると、近くにディーラーオプション装着を行う工場があり、そこで一括してフロアマットなども敷いて各ディーラーへ完成車を出荷するというメーカーもあるらしい。
このケースでは働き手不足対策という側面も大きく作用しているようだが、工賃収入が大きいボディコーティングだけは店舗に届いてから作業を行うことになっているとも聞いた。
■簡易な装備品はユーザー自身が取り付ける流れに?
オプションの定番「フロアマット」は、アメリカでは標準装備。新車のラゲッジなどに積まれたマットを購入者が自らがフロアに敷く。日本でも「自分で敷く」時代が来る!?(Aleksandr Kondratov@AdobeStock)
アメリカでは、フロアマットは標準装備が当たり前となっている。ディーラーで新車を購入してトランクやラゲッジルームを開けるとビニール袋に入ったフロアマットが積んであり、それを購入者自らがフロアに敷くようだ。
筆者としては、比較的短時間で取り付けでき、作業も簡単なディーラーオプションは、将来的にはアメリカのように納車時には車両に積んであり、自分で装着するような時代がくるのではないかと考えている(もちろん有償でディーラーに装着を頼むことはできるだろう)。
取り付けが簡単とはいえ、リアのナンバーフレームを登録車に装着するような場合は、ナンバー封印前に作業する必要があるので、このようなものは引き続き納車前に装着されるようになるものと考えられる。
新車価格におけるディーラー利益がここのところの物価上昇でどんどん減ってきている。
そもそも「新車を売っても儲けは少ない」と言われていたのだが、それはディーラーオプションでも同じ。用品そのものを売った利益よりも、それによる作業工賃を重視していろいろ商談時に勧めてきたりするのである。
とくに前述したボディコーティングはその最右翼といっていいだろう(施工価格の大半は工賃となる)。前述したダイハツの後付けブラインドスポットモニターの取り付け工賃も約1.5万円となっており、「おいしい用品」といっていいだろう。
最近はほとんど見られなくなったが、過去には「安く上げてくれ」という顧客に対してこんなことが行われることもあった。新車商談をしているとディーラーオプションを正式な注文書には計上せず、欄外に手書きで別払い扱いとして計上したり、名刺に裏書きするなどして現金払いとするのだ。
このような場合は、ディーラーを正式に通さず、メーカー純正ではない汎用マットなどが用意されたり、カーナビなどを社割(社員割引き)で購入し(あるいは汎用品)、メカニックにバイト代を払うなどして非正規な取り付けを行っていたようだ。
「安くあがればいい」という人もいるかもしれないが、こうした手法だと取り付け作業に関する保証が受けられないなどのリスクがあることも覚えておいて欲しい。
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みんなのコメント
端的にわかりやすくまとめてほしい。