2009年、BMWのミドルサイズスポーツモデルであるZ4が7年振りとなるフルモデルチェンジを受けて登場した。大きなポイントはリトラクタブルハードトップの採用で、従来モデルはソフトトップの「ロードスター」と固定式ルーフの「クーペ」の2本立てだったが、新型はひとつにまとめられた。この方向転換はどのように受け入れられたのか。ここではスペインで行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年5月号より)
エモーションを喚起するオープンモデル
昨年(2008年)秋から世界規模で発生した経済恐慌で、各国の自動車市場は急激な落ち込みを見せ、復調の予想がつかない状況に陥っている。ところが、ドイツでは徐々にではあるが、何とか回復の兆しを見せ始めている。2月の新車登録台数が昨年の21.5%増になったのである。もっともこれはおよそ30万円の廃車奨励金によって、価格の安い小型車が昨年同期の2.5倍も売れたのが主な原因だ。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
しかし、この国には自動車ビジネスが立ち直ることができる事情がある。それはインフラなどもあるが、実はもっとも大事なのはエモーションという要素である。つまり排出ガス規制とか不景気とか、いろいろと大変なことはあるが、結局のところ自動車が好きだから買うのである。
そして、そのエモーションを喚起するのが、素晴らしいデザイン、ハイテクであり、クルマの種類で言えばスポーツカーやオープンモデルなのである。蛇足ながら人間輸送機と定義されるミニバンでは決してない。
とくにオープンモデル、すなわちロードスターとカブリオレは、リセッションにもかかわらず、毎年、微増を続けており、ドイツ国内では不況の直前は前年度比7%増であった。もちろん不況の影響で2008年こそ勢いが落ちたものの、2011年までには2008年の15万台から16万台へと6%増加すると見られている。
それゆえにドイツをはじめとする欧州メーカーは、最大のフォルクスワーゲンからボルボ、そしてサーブまでが、必ずオープンモデルをカタログに載せている。
反対に日本メーカーは、全ブランドを合わせてもわずか5モデル、韓国メーカーに至っては1台もない。ちなみにドイツで売られている5万ユーロ以下のオープンモデルは35車種もある。
欧州メーカーの中でも、とくにドイツのプレミアムブランドは凄い。今回紹介するBMWなどは、1シリーズ、3シリーズ、6シリーズ、そしてZ4と、4モデルもディーラーにオープンモデルを並べている。MINIも含めれば、それだけで日本の全メーカーに匹敵する。中でもZ4は2シーターロードスターということもあって、BMWブランドの象徴ともなっている。
メリットが多いリトラクタブルハードトップを新たに採用
さて、前置きが長くなったが、そのZ4が7年ぶりにフルモデルチェンジを受けた。ニューZ4の最大の変更点は、ルーフがキャンバスから金属製のリトラクタブルハードトップに変わったことである。
もちろん伝統的なロードスターの要素であるソフトトップが消えてしまうのは惜しいが、実は現在ドイツで販売されるオープンモデルのうち、リトラクタブルハードトップを装備している割合は59%と半数以上で、これがオープンモデルの増加を後押ししているのである。
ハードトップが好まれる理由はたくさんある。中でも高い耐候性、安全性、そして寿命の長さが選択要因となっている。マイナス要因はスタイルと重量増加くらいである。
ところがニューZ4はこの2つのネガを取り払った。まずカッコがいい。もともとキャビンの小さなロードスターゆえに、ルーフ自体をコンパクトにすることが可能だ。そのおかげでフェラーリ・カリフォルニアのようにトランクリッドが異様に盛り上がるのを防いでいる。
さらに2分割のルーフは軽量アルミ製で、このコンパクトで薄く強固なメタルルーフのおかげで、サイドウインドウは40%、そしてリアウインドウは52%拡大され、周辺視界は14%改善されたそうだ。
このルーフの変更にともなって、ボディは148mm延長され幅が9mm広がり、そして8mm低くなった。しかしホイールベースに変更はない。
一方、デザインは大きく変わっている。アメリカのBMWデザインワークスに属する女性デザイナー、ジュリアンネ・ブラシーが提案したエクステリアは、前作より完成度が高く、彫刻的で躍動感がある。とくに大きく広がったキドニーグリル、フェンダーサイドにまで回り込んだボンネット、そして6シリーズを彷彿とさせるリアエンドも、Z4が成長したことを物語っている。
そして同じく女性のナディア・アーマウトが担当したインテリアも、エクステリアに呼応して高い品質感を醸し出している。レポーターは中央の4個の空調ダイアルを見たときに、Z8を思い出した。
逞しく、高品質に成長し、さらに実用性も高くなった
スペイン、アリカンテの国際展示場に並んだ30台あまりのニューZ4は、ベージュメタリックのボディカラーを含めて、すべて同一仕様だった。sDrive35iと呼ばれるモデルで、搭載されるエンジンは306psの最高出力と400Nmの最大トルクを発生する3Lツインターボ直列6気筒。また組み合わされるトランスミッションは7速スポーツAT(デュアルクラッチ式)である。タイヤはフロントに225/35R19、リアに255/30R19のオプションサイズが装着されていた。
低いドライバーズシートに腰を落とし、シートとステアリングホイールをアジャストする。キャビンは確かに以前よりはゆったりしている。スペインの紺碧の空を楽しむためにもちろんトップを開けてスタートするが、開閉作業は20秒で完結する。
しかしオープン状態にするとトランク容量は310Lから180Lへとほぼ半減する。旧型では260Lと240Lで、そう大きくは変わらなかった。これがこの新しいシステムの唯一の弱点である。
またこのハードトップとシステムの重量だが、BMWのエンジニアはわずか30kgと語っていた。本体がアルミ製で2ピース構造なことが軽量化の決め手であるという。ちなみにボディが大きくなったこともあり、ニューZ4は旧Z4よりも合計で100kgほど重い。
それでも1600kgに対して306psだからパワーウエイトレシオは5.2kg/psと十分以上、スタートから100km/hに到達するには5.1秒、最高速は残念ながら250km/hでリミッターが介入する。
スタートはやや重厚な感じだ。とくに緩やかにアクセルペダルを踏み込むと、動き出してすぐに2速へシフトアップする。ゆえにスポーティな走りを好むドライバーはマニュアル操作をお勧めする。ただしアルミ製のパドルはやはり慣れを要する。どうして単純なパドルにしないのだろうか。
新たに採用されたドライビング・ダイナミック・コントロールによって、「ノーマル」、「スポーツ」、そして「スポーツプラス」と3段階のセッティングが可能になり、快適なドライブからサーキット走行まで広く楽しむことができるようになった。ただし「スポーツ」はスロットル、ステアリング、そしてトランスミッションの特性を変えるだけで、コーナーを攻めてゆくとDTC(スタビリティコントロール)はふつうに介入する。「スポーツ」と呼ぶのはちょっと大げさかもしれない。コーナーを楽しむ向きは「スポーツプラス」を選択すべきだが、DTCがオフになるので公道では慎重なドライブが望ましい。
ニューZ4は逞しく、そして高品質に成長した。またメタルトップの採用によって、実用性も大幅に改善された。それゆえこれまでのZ4より多くの支持者を得るに違いない。
この日テストしたトップバージョンのsDrive35iの価格は6速MT仕様で4万7540ユーロ(税別)となる。ちなみに旧Z4でこのモデルに近い258psの30iは4万2900ユーロで、単純な比較では650ユーロ(約8万5000円)高となっている。
もし、新しいZ4がこの価格差で日本でも販売されれば、とくにまったく新しい35iは、メルセデスSLK350どころかSL350、あるいはボクスターとケイマンなどを候補に挙げて迷っているスポーツカーファンに衝撃を与えるに違いない。(文:木村好宏/写真:Kimura Office)
BMW Z4 sDrive35i 主要諸元
●全長×全幅×全高:4239×1790×1291mm
●ホイールベース:2979mm
●車両重量:1600<1580>kg
●エンジン:直6 DOHC ツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:225kW(306ps)/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300-5000rpm
●トランスミッション:7速DCT<6速MT>
●駆動方式:FR
●EU総合燃費:11.1<10.6>km/L
●タイヤサイズ:前225/45R17、後255/40R17
●最高速度:250km/h(リミッター)
●0→100km/h加速:5.1<5.2>秒
※EU準拠
[ アルバム : BMW Z4 sDrive35i はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
ディーラー以外の輸入車入庫を受け入れている整備工場があることが望ましいですが、憧れだった輸入車をお得に買って、充分な整備費をかけて大切に乗り潰すのも良いと思います。
3万キロ程毎日乗っています。2009年からずっとZ4です。その前はメルセデス300E24を新車から
18年、15万キロ乗りました。eクラスも満足でしたが、z4は本当にベストカーです。全てに
満足しています。これからもガソリン車が禁止されるまで乗って行きます。