トヨタ・ハイエースと日産・キャラバン。ともに日本のビジネスを支えるクルマとして活躍している。車両スペックを比較しても、大きな差はない両者だが、その人気はハイエースが圧倒的に高い。本稿では、両者の明暗を分けたのは何なのかを考察していく。
文/佐々木亘、写真/TOYOTA、NISSAN
「ハイエース」ブランド強すぎる!! なぜここまでキャラバンとの明暗を分けたのか?
■ハイエースとキャラバンの違いはどこにある?
2004年に現行型ハイエースが登場した。モデルライフは19年を超えたが、商用車のなかでも大人気車種である。新型モデル登場に期待がふくらむ
現行型ハイエース(H200系)の登場は、2004年にまでさかのぼる。モデルライフは19年を超え、現行型にたどり着くまでに3度のマイナーチェンジと、数えきれないほどの一部改良を行ってきた。
対するキャラバンは2012年に現行型を登場させる。当時はNV350キャラバンという名前だったが、直近のマイナーチェンジで、車名はキャラバンに戻された。モデルライフは10年超となり、2度のマイナーチェンジと複数回の一部改良が行われている状況だ。
両者を人気の4ナンバーモデルで比較していこう。
ボディサイズはほぼ同じ。荷室は、キャラバンの方が4ナンバーバンクラスNo.1をうたう通り広くなっている。荷室長はハイエースが3000mmに対してキャラバンは3050mmと、数値では上を行く存在だ。
エンジンにガソリンとディーゼルを用意するのは両者共通。ガソリンエンジンは共に2.0Lエンジンだが、最高出力・最大トルク共にハイエースが上回る。燃費性能は最も良い数値で比較すると、WLTCモード燃費でハイエースが9.4km/L、キャラバンは8.5km/Lだ。
ディーゼルエンジンは、ハイエースが2.8Lでキャラバンは2.5Lとなる。最高出力はハイエースがわずかに上回るが、最大トルクでは370Nm(ハイエースは300Nm)を発生するキャラバンが圧倒した。燃費性能はWLTCモード燃費でハイエースが12.5km/L、キャラバンが11.3km/Lだ。
荷室容量が大きくトルクフルな走りができるキャラバンと、燃費性能で上回るハイエース。それぞれに特徴はあるが、カタログスペックで比較したときに、どちらかが圧倒的な優位に立っているとは言いにくい状況である。
■秘めたる価値を勝ちに変えられないキャラバンの苦悩
数字上の比較では、ほとんど差が見えなかった両者だが、数字に表れない部分に両者の差は歴然と残る。
特に大きいのはハイエースのネームバリューだ。ハイエースの人気は日本国内のみならず、海外でも高い。そのため、クタクタになるまで使い込まれた状態でも、ハイエースならしっかりと値段がつき、資産価値が残る。
これはクルマの良し悪しと言うよりも、ハイエースがブランド価値を高めたことで起こっている現象と言えるだろう。
長年かけて積み上げてきた、堅牢で整備しやすいという車両スペック以上の価値が、現在の人気と勝利につながっているのだ。
2012年に現行型キャラバンが登場。発売当時はNV350キャラバンという名前だった。ハイエースより早く安全装備を搭載し、運転席シートの改善を行った
こうしたブランド価値の醸成が、キャラバンはできていない。キャラバンは、ハイエースよりも早く予防安全パッケージングを搭載したし、近年の改良では運転席シートは長時間のドライブでも疲労を軽減する乗用車に近いシートに変えた。
セカンドシートに5:5分割可倒式を採用したモデルもある。しかしながら、こうした変化がキャラバンの評価に結び付いていないのだ。
キャラバンには、少なからずステレオタイプが存在すると筆者は思う。数値や目立たぬ仕様変更など、小手先による改良では、浸透しきったステレオタイプは拭いきれない。
過去から現在まで自身の価値を強固に積み上げてきたハイエースと、過去に植え付けられたステレオタイプから抜け出せないキャラバン。両者の差には、現在の姿ではなく過去から作り上げられたイメージが大きく影響しているのだろう。
■ユーザーの声と販売店の様子から見える勝敗の要因
ハイエースというブランド力は強い。さらに、ユーザーの熱意は高い。テレビ番組で「ハイエース芸人」が取り上げられるほどの大人気ぶりだ
ハイエースを選ぶユーザーに話を聞くと、ハイエースを選ぶ理由が明確に出てくる。そこには、スペックや装備といった実体として見えるものよりも、「ハイエースが好き」「ハイエースだから乗っている」という、ハイエースに対する強い思いを感じるのだ。
ハイエースは商用バンでありながら、趣味のクルマとしても認知されている。こうしたユーザーは、同じようなクルマがあったとしても、ハイエース以外を選ぶことはないのである。
モデルライフが長いクルマになればなるほど、クルマに宿った魂のようなものがユーザーを動かすだろう。先日、テレビ番組で放映されたのも「ハイエース芸人」であり、これが「キャラバン芸人」では成立しない理由が、両者の明暗を分けている部分なのではないか。
さらにハイエースは、名前の強さに加えて、トヨタ自身の仕掛けが非常に上手い。
長距離を走ることの多いハイエースだからこそ、燃費性能にはこだわるし、燃料タンクもキャラバンの65Lよりも5L多い70Lだ。微々たる差ではあるが、ハイエースの方が航続可能距離は長くなり、燃料を入れる回数も少なく済む。
こうした差を、大々的に宣伝するのではなく、主要諸元表の中にひっそりと仕込ませるのが、いかにもトヨタらしく、ユーザーの心を揺さぶるだろう。ブランドづくりという面で、一枚上手と言わざるを得ない。
■長距離運転への支援が新型に求められるポイント
モデルライフが長く、新型の登場が待たれる両者。筆者としては、長距離移動の多いキャブオーバーバンだからこそ、運転支援システムの搭載を必須にしてもらいたい。
トヨタにはプロアクティブドライビングアシスト、日産ではプロパイロットといういい技術がある。新型には、こうしたドライビングアシストシステムを是非搭載して欲しいし、最低でもレーダークルーズコントロールぐらいは標準装備をしてほしい。
キャラバンには、衝突被害軽減ブレーキのほかに、「インテリジェント アラウンドビューモニター」が搭載されている。もしプロパイロット2.0を搭載したら、どうなるだろうか
現行型では両者ともに衝突被害軽減ブレーキの搭載で止まっている状況。仮にハイエースより先に、キャラバンがプロパイロット2.0を搭載すれば、キャラバンに対するユーザーの見方も大きく変わり、先進性を売りにすることで、先述したステレオタイプも拭い去れる可能性があると思う。
まだしばらくはハイエース一強が続くと思うが、キャラバンがキャブオーバーバンの新しい形を提案し、自身の殻を破ったとき、新時代が始まるかもしれない。
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みんなのコメント
ただ、輩が乗るようになったので
白い目で見てしまう(メーカーや車自体は悪く無いよ)