この記事をまとめると
■V10エンジンを搭載した新車は現在2車種しか販売されていない
本当の絶滅危惧種! ぶっとい音とトルクでブン回したい中古激安の「V8エンジン」搭載車たち
■かつてF1がV10エンジンだったこともあり、その流れで搭載していたモデルがある
■日本車ではLFAがV10エンジンを搭載しており、そのスペックは驚異的だった
スポーツカー好きの憧れ「V10」は何がそんなにいいのか
クルマの電動化トレンドにおいて、マルチシリンダー(多気筒)エンジンの絶滅が危惧されている。一般にマルチシリンダーというと8気筒以上を指しているが、なかでも消滅間近といえるのがV型10気筒エンジンだろう。
かつてF1のレギュレーションによってV10エンジンだけに規定されていた時期(2000年~2005年)があった影響で、V10こそスポーツエンジンの象徴というイメージが強い世代もいるかもしれないが、すでに市販車においてV10は絶滅寸前だ。
事実、いま新車で購入できるV10エンジンの乗用車は、ランボルギーニ・ウラカンとアウディR8しかない。この2モデルが、基本アーキテクチャーを共有する兄弟車であることを考えれば、V10スポーツカーが風前の灯火であることは実感できるはずだ。
ちなみに、主要スペックとメーカー希望小売価格を並べてみると次のようになっている。 アウディR8 メーカー希望小売価格:3138万円 全長:4430mm 全幅:1940mm 全高:1240mm ホイールベース:2650mm 総排気量:5204cc 最高出力:456kW(620馬力)/8000rpm 最大トルク:580Nm(59.1kg-m)/6600rpm 駆動方式:4WD ランボルギーニ・ウラカンEVO RWD メーカー希望小売価格:2653万9635円 全長:4520mm 全幅:1933mm 全高:1165mm ホイールベース:2620mm 総排気量:5204cc 最高出力:449kW(610馬力)/8000rpm 最大トルク:560Nm/6500rpm 駆動方式:RWD ランボルギーニ・ウラカンについては複数のバリエーションがあるが、いずれにしても総排気量から同じ系統のエンジンを積んでいることがわかるはずだ。
R8とウラカンが搭載するV10エンジンの特徴は、この時代にNA(自然吸気)となっていて、排気量からすると圧倒的に高回転までまわる点といえるが、V型エンジンのデザインとして注目したいのはバンク角が90度になっていることだ。
バンク角というのは左右に分かれたシリンダーが、どのような角度でつながっているのかというレイアウトを示す数字で、セオリーとしてはV6の場合は120度、V8では90度、V10では72度、V12では60度とするとされている。気筒数でバンク角の数字を掛け算すると720になると覚えておけばいい。このセオリーに則った設計であれば、左右の燃焼間隔が等しくなりスムースにまわることが期待できる。
ただし、バンク角を狭めていくと、バンク内側に置くべき部品のスペースが確保しづらくなる。また、重心を低くするにはバンク角は広いほうが有利という見方もあり、じつはアウディ、ランボルギーニの採用した90度というバンク角は、量産V10エンジンとしてはポピュラーだったりするのだ。
V10の採用は当時のF1参戦のブランディングも兼ねていた
たとえば、現行型ではV8ターボエンジンを積むBMW M5だが、かつてはV10を積んでいた。
2004年にデビューしたBMW M5は5リッターV10NAエンジンを搭載した。冒頭でも記したように、F1がV10レギュレーションだったことをブランディングに利用したこともあったが、それまでにM5が、直列6気筒、V型8気筒とモデルチェンジごとに進化した流れを受けたという面も否めない。
もっとも、次のモデルチェンジではダウンサイジングターボ・トレンドの影響を受けたのか4.4リッター V8ターボとなってしまった。したがってBMWのスポーツV10を味わえる貴重なモデルであることは間違いない。また、同じエンジンは同時期にラインアップされていた2ドアクーペボディのM6にも載せられている。
そのBMWの至宝ともいえるV10エンジンのスペックは、以下の通り。 総排気量:4999cc 最高出力:373kW(507馬力)/7750rpm 最大トルク:520Nm/6100rpm
ちなみに、現行型のM5 Competitionに積まれるV8ターボのスペックは、次のようになっている。
総排気量:4394cc 最高出力:460kW(625馬力)/6000rpm 最大トルク:750Nm/1800-5860rpm パワーやトルクの数字だけを見ると最新の過給エンジンが優位だが、高回転域までカーンとまわすことがスポーツエンジンの楽しみ方と信じているユーザーにとっては、かつて積まれていたV10エンジンのほうが魅力的に感じるかもしれない。
そんなF1直系、高回転といったキーワードを、より純粋に突き詰めたV10エンジンを積んだスポーツカーといえば、日本の自動車史上に燦然と輝くスーパースポーツ「レクサスLFA」を忘れるわけにはいかない。
車両の発売こそ2010年だったが、開発のスタートは2003年頃と言われている。当時、トヨタはF1にコンストラクターとして参戦しており、レギュレーションに合わせてV10エンジンを積んでいた。レクサスの最高峰スポーツカーであるLFAに相応しいエンジン形式は、おのずとV10になったことはうなずける。
V6エンジン並みの重量、V8エンジンと同等のコンパクトさをテーマに開発された完全専用設計のV10エンジンのスペックは以下の通り、バンク角はセオリー通りの72度となっている。 総排気量:4805cc 最高出力:412kW(560馬力)/8700rpm 最大トルク:480Nm/7000rpm 驚くのは、最高出力の発生回転が8700rpmとなっていること。国産の量産エンジンとしては、レブリミット9000rpmを誇ったホンダS2000(前期型)のF20Cエンジンが知られているが、それでも最高出力の発生回転は8300rpmだった。こうして比べてみると、LFAの8700rpmというのが、どれほど“非常識”に高回転なのか理解できるだろう。
また、72度というバンク角はエンジンの搭載位置が高くなってしまうというネガもあるが、そこはドライサンプ化することで解決している。オイルパンを廃し、そのぶん低く搭載できるようにしていたという点においても、半端ないこだわりが感じられるV10エンジンだ。
それはさておき、販売終了から10年以上を経てもレクサスの公式サイトにはLFAのページが残っている(https://lexus.jp/models/lfa/)。その事実だけでも、レクサス(トヨタ)にとって特別な存在であることを感じてしまう。
最後に、紹介するV10搭載マシンが2003年に誕生したポルシェ・カレラGTだ。ドライサンプ式のエンジンを専用に開発。カーボンボディのミッドシップに搭載するという設計は、ロードゴーイング・レーシングカーと呼びたくなるものだが、もちろん公道走行用スポーツカーとして作られている。
カレラGTのV10 エンジンにおいてユニークなのは、バンク角が68度となっていること。そのエンジンはもともとル・マン24時間レース参戦用に開発されたものといわれ、公道仕様にするときにボアアップにより排気量を増やしたといわれる。スペックは以下のとおり。 総排気量:5733cc 最高出力:612馬力/8000rpm 最大トルク:590Nm/5750rpm 排気量を感じさせない高回転ぶりは、10気筒というマルチシリンダーならでは。まさにレーシングユニット直系であることを感じさせる。ただし、カレラGTのエンジンマウントは快適性なども考慮したフローティング式で、レーシングマシンのようにリジッドで積まれていることはなかった。そのため、サスペンションもカーボン製のサブフレームから生えるという設計で、ポルシェらしいスーパースポーツとして生み出されたことが理解できる。
こうして、2000年代に生まれたV10エンジンのスポーツカーを見ると、当時のF1がレギュレーションでV10エンジンを積んでおり、V10こそスポーツエンジンの正しい姿というマーケティングがしやすかった時代背景を感じさせる。
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