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BEVでもマニュアル操作が楽しめるってマジ!? 水素技術も超進化……先行技術説明会で見えたトヨタ「脱炭素戦略」の中身

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BEVでもマニュアル操作が楽しめるってマジ!? 水素技術も超進化……先行技術説明会で見えたトヨタ「脱炭素戦略」の中身

 これまでは開発中の車両はもちろん、技術の一部さえも外部には公開せず、「ちゃんとやってます」、「商品を見て」という姿勢だったトヨタ。「トヨタは世界に遅れをとっているのでは?」と言われすぎたからか、2023年6月、トヨタ東富士研究所で先行技術説明会を実施。開発中の技術を一気に披露した!

※本稿は2023年6月のものです
文/桃田健史、写真/トヨタ
初出:『ベストカー』2023年7月26日号

BEVでもマニュアル操作が楽しめるってマジ!? 水素技術も超進化……先行技術説明会で見えたトヨタ「脱炭素戦略」の中身

■見えてきたトヨタのBEV&バッテリー戦略

ついに「2027~2028年頃に市販のメドが立った」(byトヨタ関係者)という全固体電池

 なんと、開発中の次世代バッテリー5種類を一挙公開。しかも、これらが5年以内に次々と量産にチャレンジするという。

 直近カタログモデルのBEVは、「bZ4X」、レクサス「RZ」、小型モビリティ「C+pod」や「C+walkシリーズ」にとどまっており、そのほか中国市場向け「bZ3」などが登場しているが、トヨタBEVの販売台数はまだ数万台レベル。

 これを、「2030年目標の年間350万台までもっていく」というトヨタ幹部の言葉に、これまでメディアもユーザーも疑問や不安があったと思う。そんなモヤモヤした気持ちが今回、一気に吹き消された感じだ。

 まず驚いたのは、車体構造の抜本的な転換だ。なんとボディをアルミ鋳造とし、車体全体を前・中・後の3分割で製造するまったく新しい工法を採用する。これを「ギガキャスト(キャスティング=鋳造)」と呼ぶ。

 今回は車体後部の展示があり、現在の工法であるプレスして部品を切り出し、それを溶接して作る場合、部品点数は86点で33工程ある。これが鋳造になるので、1部品1工程となる。

 トヨタ創業以来、車体構造の転換でここまで劇的に変化したことは過去になかったのではないだろうか。それほどまでに衝撃的な技術展開だ。

先行技術説明会では「試乗パート」もあり、水素トラックや商用小型EV、タイのピックアップBEVなど次世代技術車がずらりと揃えられた

 次に新開発バッテリーについてだが、足元では2つの手法をとる。

 ひとつは、「パフォーマンス版」(2026年量産)で、現行bZ4X用バッテリーと比較して満充電での航続距離は2倍に増える。さらに、コストは20%減で、急速充電についても現在の30分間と比較して3分の2となる20分を実現できるという。正極にはコバルト・ニッケル・マンガンを使う三元系だ。

 もうひとつが、リン酸鉄を正極に使う「普及版」で、bZ4X用バッテリー比で航続距離は20%増にとどまり、急速充電の性能は変わらないが、コストは40%減となりBEV新車価格を抑える効果が期待される。こちらは、2026~2028年の量産を目指す。

 さらに、2027~2028年メドで、パフォーマンス版より航続距離が10%増・コスト10%減の仕様の量産も計画している。

 そして、次世代バッテリーの本命と目されている全固体電池についても市販のメドが立ち、前述の「パフォーマンス版」と比較して、航続距離50%増、急速充電10分間で2027~2028年の量産を目指す。

 こうしたBEV新技術と次世代バッテリー多様化により、2030年・BEV販売数年間350万台をターゲットにBEVモデルが加速する。

■もうひとつの柱「水素」の可能性は

水素エンジンを搭載したレクサス LXは(実験車とはいえ)白ナンバーを取得。完成度が高かった

 国内ではスーパー耐久シリーズへの参戦マシンで今年から、液体水素を使用。さらに、先のル・マン24時間では主催者のACO(仏西部自動車クラブ)が公表した水素燃料車の参加承諾を受けるかたちで、トヨタが将来の参戦を見越した「GR H2 Racing Concept」を世界初公開したばかりだ。

 そうした表向きの活動を支える、トヨタの最新水素技術が今回、明らかになった。「水素カンパニー」を設立するそうで、また、水素燃料車ではレクサス「LX」水素車に試乗したが、低回転域ではまだトルクが細い印象があるものの、中回転以降の吹け上がり感がとてもよいことが確認できた。

 さらに驚いたのは、「マルチ水素タンク」だ。気体水素のタンクといえば、円筒型が常識化している。その場合、水素タンクの搭載位置が車体後部や後席下などに限定されてしまうことが課題だ。

 マルチ水素タンクでは、例えばBEV用バッテリーの形に近い「平型」や、四駆の内燃機関車向けにプロペラシャフトを跨いで搭載する「鞍型」の試作品が初公開された。

 これにより乗用車のBEVやハイブリッド車と、FCEVや水素燃料車との車体の共通化も可能となる。

 そのうえで、2030年の燃料電池市場の見通しとしてグローバルで年間5兆円という業界予測を示している。このうちトヨタへのオファーは年間10万台を見込むという。内訳としては小型商用車が約5割、大型トラックが約3割と想定する。

■「極超音速技術」がクルマに!?

三菱重工と共同開発中の、ロケットの極超音速空力技術を応用した新たな空気抵抗削減技術も一部公開された

 展示品の中に、風洞実験で使う飛行機の模型があった。「ついにトヨタも航空産業に本格参入か?」と思ったが、実はこれ、極超音速技術を使って「薄い空気の膜」を作ることでクルマの吸気抵抗を大きく下げるための実験機器だった。

 三菱重工との宇宙技術に係わる共同研究の一環だという。展示品では、飛行機の主翼の3カ所に特殊な表面加工を施していた。開発担当者は「手で触って形状が違うと判断できる」というが、その部分は企業機密として非公開で、具体的な形状を確認することはできなかった。

 また、主翼など一部ではなく主翼全体の表面を加工することも当然考慮されてるという。

 航空業界では欧米での規定によって今後、SAF(持続可能な航空燃料)の使用が必須となりそうだ。あわせて、燃費改善も大きな課題であるため、機体の空気抵抗の低減に向けた技術開発が進んでいるところだ。

 そこにトヨタは着眼し、次世代車技術と航空機技術の協業を強化させる。

■クルマのための「アリーンOS」

クルマ屋(トヨタ)が作るOS「アリーン」のデモも実施。対話型でナビやGPSと連動。車両の「メーター内」も制御可能なところがミソ

 車載OS(オペレーティング・システム)「アリーン」についても紹介があった。

 そもそもアリーンは、トヨタ・デンソー・アイシンが共同出資して設立したトヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)で議論が深まったもの。

 一般的にOSといえば、スマートフォンやパーソナルコンピュータでは、アンドロイドOS、iOS、Windowsなどがあるが、車載OSについてはアンドロイドOSがこれまでシェアを拡大してきた。

 そうしたなかで独フォルクスワーゲングループやトヨタなど大手自動車メーカーは車載OSに関して、IT大手と連携するも自ら普及に向け主導権を得るべく新しい発想を模索してきたという経緯がある。

 今回、アリーンにはさまざまな側面があることが改めてわかった。具体的には、ソフトウエアにおけるツールであり、また開発に対してはグローバル向けにわかりやすい形態のSDK(ソフトウエア・デベロップメント・キット)を公開。

 さらにはユーザーが直接クルマのIT技術に触れるUI(ユーザー・インターフェイス)という位置付けでもあるのだ。

 今回のデモとしては次世代音声認識を英語で紹介したが、開発担当者は「日本語での対応も英語と遜色ないレベル」と説明する。

 アリーンは2025年量産予定の次期グローバルBEVを皮切りにトヨタやレクサスで標準装備化される。

■「EVをマニュアルで」って……本気?

MT的運転操作を楽しめるBEVに試乗。MT車の運転操作を再現し、不適切な操作を行うと不快なエンジン音を響かせるなど芸が細かい。内燃機関の愉しみがなくなる分、「操る愉しみ」を味わうということか?

 最新BEVなのにMT仕様。乗車前にそう聞いてもピンと来なかったが、乗ったら心底驚いた。6速MTシフトレバーにクラッチペダル。坂道発進で故意にクラッチを一気につなぐと、見事にエンスト(を演出)してみせた。

 また、時速40kmで6速だと模擬エンジン音がボーボーと響き、アクセルレスポンスが鈍る(という演出)。そして「渋滞時はこのボタンで(リアル)BEVに戻ります」という。ここまで徹底していると、もうギミックではなく逸品だ。

■まとめ:トヨタは遅れていたのか?

今回の技術説明会を企画、牽引したトヨタ商品担当中嶋副社長。ぜひまた開催してください!!

 トヨタ東富士研究所で、朝から晩までてんこ盛りの内容。「(情報過多で)頭とおなかがいっぱい」というよりも、スパルタ教育で「頭の中がスッキリ」した。

 トヨタはこれまで豊田章男氏(現会長)が日本自動車工業会を代表する立場も兼ねたうえで、「カーボンニュートラルに向けた(パワートレーンの)道筋はいくつもある」とし、一部メディアからの「トヨタは世界のEVシフトに乗り遅れているのでは?」という声に真っ向から反論してきた。

 トヨタとしては「マルチパスウェイ」を掲げてきたそうした流れを「継承」し、さらに「進化」させると佐藤恒治社長率いるトヨタ新体制は過去数カ月の間、各種会見の場で繰り返し説明してきた。

 その「継承と進化」の中身を今回、ここまでオープンにし、そして各領域でかなり短い達成期間を掲げた。見方を変えると、トヨタにとってまさに今「まったなし」の状況だと言える。自動車産業界の先が見えないなか、トヨタが大勝負に出た。

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みんなのコメント

51件
  • 「ごっこ」だったらいらないかなぁ…
    電気モーターの「出足のトルクはいいが高速域の電費は悪い」を補正するために変速ギアつけるならわかるけど。
  • ただのデジタルギミック
    ゲームと同じ
    ただ人を跳ねれば死ぬところは違う
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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