環境に優しく渋滞解消はホント?
text:AUTOCAR UK(Move Electric)
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translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)
どう考えても、電動キックボード(eスクーター)は矛盾している。基本的には子どもの乗り物だが、パワーを上げれば驚異的なスピードを出すことができる。脆弱だが危険、静かだが致命的、一部の人には愛されるが多くの人には嘲笑される。
英国では、違法でありながら好ましいという二面性を持っている。個人所有の電動キックボードを公共の場に持ち出すことはできないが、政府の試験運用により、英国内の約30の地域で、社会的にバランスのとれた交通手段としてキックボードをレンタルすることができるようになった。
ロンドン交通局が許可したメーカーは、Lime、Tier、Dottの3社。この3社の中では、Limeが一番のヒット商品を生み出している。Limeは、自転車のレンタルで創業し、電動バイクに移行した米サンフランシスコの会社で、現在はロンドン、ニューヨーク、パリなど世界の130都市で事業を展開している。
ベルリンに拠点を置くTierは、パリをはじめとする100都市で事業を展開しているが、Limeとは逆の道を歩んでいる。Dottは、自転車シェアリング会社Ofo出身の2人がアムステルダムで設立した会社で、3社の中では最も規模が小さく、キックボードのみで20都市をカバーしている。
6月の時点で、ロンドンの行政区でこのトライアルに参加しているのは、5つ(イーリング、ハマースミス・アンド・フラム、ケンジントン・アンド・チェルシー、リッチモンド)だけだ。7月にはシティ・オブ・ロンドン、ランベス、サザーク、ウェストミンスターが参加する予定。
電動キックボードの借り方
18歳以上でスマートフォンを持っている人。そして英国では自動車に分類されるため、運転免許証が必要だ。
まず、上記3社のアプリをダウンロードし、免許証、銀行情報、本人確認用の写真をアップロードする。認証されると、ルールや安全に関する簡単なトレーニングが始まる。
1つの事業者にこだわるのもいいが、その事業者のキックボードがすべて借りられていたり、必要なときにアプリが動作しなかったりすると、ロンドンの街中で泣きを見ることになる。
実際、記者が試乗した日には、記者と忠実なカメラマンであるスティーブがアプリの信頼性の低さに悩まされた。記者は3社のアプリをダウンロードしていたが、当日はTierもLimeも動作しなかった。
それは記者個人が無能だったからかもしれないが、スティーブも同様にアプリを起動できなかったので、消去法でDottが選ばれた。
QRコードをスキャンして、ビープ音を聞けば、キックボードは準備完了。3社のキックボードはそれぞれ微妙な違いがあるが、英国の法律では前後のライト点灯が義務付けられている。
クロスバーには、インジケーター(ウィンカー)ボタン、明るい日には見えにくいスピードメーター、そしてマシン好きの人にはおなじみの「Go」ボタンなどがある。スロットルは、バイクのようなツイスト式ではなく、このGoボタンを押し続けなければならないのが特徴だ。
携帯電話をホルダーに差し込み、車体をひと押しすれば、道路に出ることができる。思ったほど軽くはないので、下り傾斜を上手く使うと発進しやすいだろう。
大都市ロンドンを走る
加速は適度に速く、モーターからは想像以上に高い音が出るが、それは好奇心旺盛な人々の注目を集めてライダーをかっこよく見せるためのものではない。クールかどうかは見る人による。
駐車場から出たばかりのDottは、早くもリッチモンド・ヒルに続く狭い脇道を登るという苦行に直面したが、元気に音を立てて進んでいった。坂の上の交通量の多い道路に入るころには、それなりの速度が出てきていた。
乗り心地はそこそこいい。道路の継ぎ目や側溝への落ち込みには無縁ではないが、12インチのタイヤは段差をよく吸収してくれる。
サイクリングスタイルで走行中に遭遇する問題としては、自動車のサイドミラーへの接触(高そうなポルシェが愚かにも近づいてきたことがあった)や、駐車しているクルマを避けて交通の流れに乗ることなどがある。
後者については、ハンドルバーの両端に取り付けられたウインカーが、昼間はほとんど見えないことが問題となる。さらに、自動キャンセル機能になれた自動車ドライバーにとっては、ウィンカーの消し忘れという恥ずかしい問題もつきまとう。このあたりはバイクとも少し似ている点かもしれない。
リッチモンド・ヒルにある電動キックボード用の駐車場に到着すると、別行動をしていた20代のジョージアとエドが戸惑いと焦りの表情を浮かべていた。
2人はブダペストでLimeをレンタルしたことがあり、電動キックボードの使用経験はあるものの、免許証のアップロードや自撮り写真の認証といった作業に手間取り、2台のTierのロックを解除するのに「30分」も格闘していたのだ。
ジョージアは「5点満点中2点だね」と言い、エドは「最悪だよ」と反論した。しかし、認証が終わると、彼らは晴れやかな表情で通りを走り去っていった。
走行禁止エリアも多数
ジョージアとエドがリッチモンドのダウンタウンに向かっている間、スティーブと記者の計画は頓挫していた。リッチモンド・パークで試乗したかったのだが、この公園では電動キックボードを禁止している。
「スクーターのスピードと静かさは、歩行者に受け入れがたいリスクをもたらし」、「緑地の平和と雰囲気を損なう」可能性があるからだ。
静かに走るものがどのように平和を損なうのかという疑問はさておき、公園がサイクリストと自動車で溢れない限り、電動キックボードの禁止は妥当だろう。
公園への入場は拒否され、わたし達は代わりに急勾配のスター・アンド・ガーター・ヒルを下った。
ロンドン交通局が設けた20km/hの速度制限を突破しそうになると、リミッターが作動し、クルーズコントロールと同じように減速した。
リッチモンドでは、速度はさらに20km/hの62.5%(12.5km/h)に制限されており、特に急いでいるわけでもないので、記者はしばしばキックボードを停めて自動車に追い越されるのを選んだ。狭い道路では渋滞を引き起こす可能性がある。また、追い越しのチャンスがあっても、20km/hの速度制限に阻まれてしまう。
電動キックボードが登場したからといって、道路がより調和的になるわけではないが、今回のテストでは、他の道路利用者がほぼ一様に配慮してくれたことは言うまでもない。しかし、まだ世間に浸透していないためか、ドライバーとの不愉快な交流が2度あった。
1つは、無作法な男が個人で電動キックボードを使用した場合の罰則を指して「6点減点!」と叫んだこと、もう1つはバスの運転手が誤ってわたし達に歩道を走れと主張したことだ。
電動キックボードのレンタル料
スター・アンド・ガーター・ヒルのふもとにあるピーターシャムは、昔から悪名高いボトルネックを抱える美しい村だ。1966年、建築評論家のイアン・ネアンは、「大都市ロンドンには殺人的な交通渋滞があるが、ここは最も残酷な交通渋滞の1つに違いない。バイパスが必要不可欠であり、村が残っているのは奇跡である」と評した。
バイパスが村を潰すことはなかった。リッチモンド・パークを突っ切ったり、テムズ川を暗渠化したり、ジョージ・ギルバート・スコット卿からブランジェリーナまで著名人を魅了してきた高級住宅地を消滅させたりしなければならなかったからだ。わたし達は、タイミングよくバスが乗客を拾うために停車して道路を塞いだことに助けられ、それほど混乱を招くことなく村を通過することができました。ロンドン交通局との偶然の連帯だ。
近くにあるパークリーズ・エステートは、グレード2に指定されたモダニズム建築の一例だが、わたし達は見えないフェンスに引っかかってしまった。途中で、リッチモンド区から試験運用に参加していないキングストン区に、目に見えない形で切り替わるのだ。
当該区域に入ったかどうかは、携帯電話に立ち入り禁止の通知が表示され、キックボードの電源が徐々に落ちていくことでわかる。
来た道を戻り、ハムコモンの横を通り、リバーサイド・ドライブの優美な放物線に沿って静かに走った。1960年代の建築物とまばらな交通量が、新しい交通手段に相応しい宇宙時代の興奮を与える。閑散とした道路をほぼ無音で移動し、服装はシルバースーツという、SFのユートピアで約束されていたものだ。
借りてから1時間以上が経過した頃には、Goボタンを押し続けることによる静的負荷で右手の親指が痛くなっていた。実際のところ、スクーターは長時間借りられるようには設計されていないので、すぐに料金がかさむ。1回のレンタルにつき1ポンド(約150円)のアクティベーションチャージの後、DottやTierでは1分ごとに0.15ポンド(約23円)、Limeでは0.16ポンド(約26円)かかる。1時間で10ポンド(約1500円)、25分で5ポンド(約760円)必要ということだ。
電動キックボード VS 急な坂道
スター・アンド・ガーター・ヒルは、1.5kmで40mの割合で登っていく。しかし、丘のふもとにある信号機に捕まってしまい、疲労したDottは、スタートしてもなかなかスピードに乗らなかった。
そこで、左に折れてA307を等高線に沿って進み、静かなナイチンゲールレーンに右折して再挑戦することにした。150mで12mの割合で登っていく最初の坂道では、Dottは安定した走りを見せ、歩行者の見物人を楽しませた。
しかし、100mで14m登るキツい勾配に差し掛かると、歩くペースよりも遅くなり、記者はキックボードを停めて自動車を通す必要があると感じた。当然ながら、Dottは坂の途中からはなかなか走り出せなかった。
しかし、交通革命をあきらめることはできない。勢いをつけてスタートし、子供たちが急な坂道で自転車を走らせるときに使うような蛇行を繰り返して、二足歩行の謙虚な馬は徐々に、そして勇敢に丘を登っていった。
水平に広がる丘の上のドライブコースに入ると、記者の携帯電話にはDottのバッテリー切れの通知が届き、駐車場を探す間は約13.6km/hに速度が制限されることが告げられた。十分だと思った。Dottはよく頑張ったし、休息に値する。
ゆっくりと、しかし勝利の汽笛を鳴らしながら駐車場に滑り込んだ記者は、キックボードを降りてVRコードをスキャンし、アプリに提案された通り写真を撮って、無傷であることを証明すると、すぐに終了の通知が送られてきた。
電動キックボード体験記(結論)
電動キックボードは普及するのだろうか?世界の多くの都市で人気を博しているので、ある程度は普及していくと思われる。保守的な英国では慎重な姿勢を示しているが、しかし、電動キックボードが一体誰に向けられた乗り物なのかを理解するのは少し難しい。
1時間で10ポンド(約1500円)、25分で5ポンド(約760円)と、決して安い通勤手段とは言えないし、制限速度も20km/hで特に速いわけでもない。車道に限定され、ほとんどの公園では侵入が禁止されているため、レジャーとしてもあまり適していない。
法律上の混乱やセットアップの煩わしさを考えると、都市交通を改善し、気候変動を食い止めるという期待に応えるためには、再考が必要になるかもしれない。だが、何か大きなことが起こりそうな予感は確かにある。
現在、英国で行われている電動キックボードの試験区域は画像の通りだ。
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みんなのコメント
この「嘲笑される」という部分が非常に大事。
何故、嘲笑されるのか? それは無法者に愛されるからだ。電動キックボードの走行で道交法を守っている人間がどれだけいるのか? ほぼいない。しかも無保険。
そんな迷惑なモノを公道上に走らせてはいけない。社会に迷惑しか掛けない。
普及させるのではなく、取り締まるべきモノだ。
話は逸れるけど200馬力近い二輪車を認めてるのも不思議。