チャレンジし続けたホンダ、その影で沢山の失敗も……
ホンダというのは面白いメーカーだ。例えば自動車メーカーとなるためにモータースポーツの最高峰であるF1に参戦して勝利を挙げたかと思えば、大ヒットした軽自動車のマーケットを捨てて小型車への専念や地球的に大問題だった排ガス規制に対応するCVCCエンジンを開発。さらに、当時まだ強豪メーカーではなかったのに日本車メーカーで初となる北米で工場生産を開始するなど、その経営はチャレンジングであった。
まさに「走るラブホ」だった「S-MX」! メーカー自ら「恋愛仕様」と謳う「究極の車中泊カー」だった
ほかにも有名なところでは、商売目的ではないであろう二足歩行ロボットのアシモを作ったかと思えば(障害者向けの補助機器として現在は実用化されている)、無謀と言われた個人向け航空機のホンダジェットで大成功を遂げるなど、とにもかくにも話題性に事欠かないメーカーだ。
そんなホンダだから空振りも多々あるのだが、こと4輪でくくるとその例に当てはまるのがひと世代で終わってしまったロゴが思い起こされる。
大成功を納めたシティの後継モデルとしてロゴがデビュー
以前紹介した初代シティの登場は1981年。時代を先取りしたコンセプトと奇抜なTVコマーシャルで、ホンダは一躍老若男女の憧れの的となったが、2代目は1986年から1993年で販売が終了。初代シティは背が高くてターボもあって、エボリューション的なブルドックもあり、話題が満載だった。
2代目はなんとワイド&ローのフォルムで走りの質は高いものの、初代のイメージが強く「これがシティ?」と揶揄されながらも、モータースポーツでは長きに渡って大活躍。この2代目の成功が、ホンダのコンパクトカー(リッターカークラス)の入口を作り出したとも言える。そして、空白期間を経て1996年に3代目が登場するのかと思われるなかで、その後継車として登場したのがロゴだ。
5つのテーマを掲げて「ちょうど良い」を訴求
1996年10月に登場したロゴは、「テーマ1/キュービック・パッケージ(広く、快適に、使いやすく)」、「テーマ2/スマート・カジュアル・デザイン(ホンダならではの洗練)」、「テーマ3/ハーフスロットル高性能(常用域で実感できるハイパフォーマンス)」を掲げる。さらに「テーマ4/クラストップ水準の安全性(アクティブ&パッシブ トータル・セーフティ)」、「テーマ5/省資源・環境対応(多くの人が乗るクルマとして果すべきテーマ)」と、この時代の多くのユーザーが乗るクルマとして果たすべきテーマが重要なコンセプトだった。
そのロゴは初代シティの現代的解釈と呼べるようなスタイリングで、まさに「キュービック・パッケージ」にピッタリのスタイリング。いささか無個性で力強さやスポーティなイメージは持ちにくいが、それゆえに毎日一緒にいても飽きのこない、日常に溶け込む柔らかさを感じさせるものだった。
車名となるロゴの由来は、ラテン語のLOGOS(言葉・意味・理性)から名付けられたのだが、開発コンセプトは「ちょうど良さ」。3ドア・5ドアとも全長3750mm×全幅1645mm×全高1490mm、ホイールベース2360mmのコンパクトなボディサイズで、室内高を高めたことでのちのフィットにつながるような、クラスを超えた広い室内を実現していた。
全方向の良視界と高めのヒップポイントによる広い視界と、国内専用モデルであることから180cm以上の長身ドライバーのことをあまり考慮せず、逆に150cm代の小柄な人にも対応するシート設定と操作機能を日本国内向けとしたことで、幅広いユーザーにちょうど良いことを求めた。
小柄な人でも乗りやすいこだわりのパッケージングを採用
また、ドアが半分開く状態での乗降性の良さは、サイドシルの段差を少なくして小柄な人でも無理なく乗り降りできる構成としている。さらに、助手席が大きくスライドするウォークイン機構も採用して、後席へのアクセスも良いものとしていた。
ボディも高効率衝撃吸収を追求したもので、フロントにはストレート・サイドフレームを採用。リヤもサイドシルとリヤフレームを結合してスティフナーを配置することで、後端からつぶれて衝撃を分散・吸収する構造としていた。運転席用エアバッグ(助手席はオプション)と調整式シートベルトは標準装備され、当時のコンパクトカーとしては格段に高い安全性能を確保している。
コンパクトカーながらラゲッジには8.5インチのゴルフバッグを2個積むことができ、大開口テールゲートは可倒式後席、テールゲート連動のリヤシェルフ(目隠し)、傷防止リヤパネル・プロテクターもあって、積載性にも優れていた。下端にはテールゲート・プルハンドルを設けて、ハッチ外側のボディを触らずに閉められるように配慮。こうした欧州車ではお馴染みの装備を備えており、ここも小柄な人でも手が届きやすいから設計としていた。
エントリーモデルのコンパクトカーながら上質さは妥協せず
インテリアは広い視界を優先。それでいながらも全面高熱線吸収UVカットガラスと、操作性に優れたダイヤル式エアコンで快適性を確保。メーターもタコメーターを廃止し、シンプル表記ながらシフトポジション表示を加えることで、初めてのマイカーという方への使い勝手を追求した。オーディオは1DINサイズながら、音声案内機能が付いた操作系最優先のポップアップ式カーナビゲーションも設定。ナビ使用時にもオーディオが使いやすいよう、ナビ画面の運転席側にオーディオ関連のスイッチを備えており、高機能なエントリー・ベーシックモデルとして、高い機能性を誇っていた。
シートやドアライニングにもファブリックが用いられてカジュアルな雰囲気が演出されたほか、ドア下部にはあえてボディカラーを見せることで、ロゴならではのセンスを醸し出した。近年のコンパクトカーもボディ同色をインテリアにあしらっているので、ロゴのセンスはいち早かったといえるかもしれない。
シート自体も乗降性に配慮しながらも立体的な面形状でホールド性を確保したほか、着座位置を変えられるハイト・アジャスターを装備して、小柄な方でも適切なドライビング・ポジションが取れるようにしていた。
グローブボックスはA4サイズの書類(カセットテープなら32本)が収まるサイズで、ボックス内には車検証用のドキュメント・ポケットを装備。ほかに複数の「ドリンクホルダーやティッシュボックスが収まるポケットなど、現在にも通じる収納性を持っていた。
スペックこそ平凡ながらエンジン屋らしい技術を投入
エンジンはホンダが「ハーフスロットル高性能」と呼ぶ1.3LのD13B型SOHCを搭載。これはホンダらしいレスポンスの良い高回転域の伸びやパワフルさこそなかったが、とにかく市街地で不満がないことを目指して開発された。それゆえカタログ数値は最高出力66ps/5000rpm、最大トルク11.3kg-m/2500rpmと平凡にとどまる。しかし豊かな低中速トルクを確保するためセンタープラグの2バルブ式を採用。
吸入混合気の流速を上げて燃焼室内に渦を起こすことで、燃焼を安定させてトルクを向上。最大トルクの90%をわずか1300rpmで発揮させることで、必要十分な力を得ながらできるだけ排ガスを少なくできるように設計されていた。そのほか、鍛造クランクシャフトやバルブタイミングの適正化、従来は鋳鉄製であった排気マニホールドをステンレスのプレス成形としたことで、振動や早期の触媒の活性化で排ガス性能を向上させるなど、地味ながら実力が高いエンジンなのだ。
トランスミッションはCVT&AT、MTの3タイプを設定
トランスミッションは当時ではまだ一般的な5速MTと高容量トルクコンバーターのロックアップ機構付き3速AT(以下、AT)、そして現在主流であるCVTのホンダ・マルチ・マチック(以下HMM)を設定。このCVTは湿式多板クラッチの採用により、トルクコンバーターATのようなクリープ現象を発生させ、駐車の際や渋滞ではATと同じ操作感覚で扱えることでHMMの普及を広めた。
当時、カタログ燃費をさほど重要視していない時代だったが、10・15モード燃費は5速MTが19.8km/L、3速ATが17.2km/L、HMMは18.0km/Lと優れた数値を叩き出した。また、HMMにはいち早くモード切り替えスイッチがステアリングに付き、燃費モードのDRIVEとスポーティなSPORTが備わっていた。
サスペンションはフロントがストラット式で後輪には車軸式を採用。ボディサイズは5ナンバーサイズながら全幅1645mmに設計され、フロント1425mm、リヤ1400mmはそれぞれワイドで、大型バンプストップラバーを採用。エンジンマウントはこのクラスには奢った液体封入式3点マウントとしたことで、騒音振動にも優れており、ボディには多くの消音材が用いられるなど、ホンダが久しぶりに投入するコンパクトカー(ホンダの呼称はタウンカー)には魅力があふれていた。
また、Sキットと呼ばれるスタイリッシュ仕様がHMM仕様の一部に設定された。センターアンテナやフルカラードバンパー、175/70R13タイヤ&アルミホイールなどが備わり、3ドア、5ドアの「G」「L」グレードにはLSDがオプション装着できるなど(5速MT車は除く)、スポーティな走りも期待できる仕様となっていた。
力作となるはずだったが販売台数は思いのほか伸びず……
1996年発売のロゴは3ドアが10月発売、5ドアが11月発売の全店舗取り扱い車種であり、シティ以来のコンパクトカーゆえに力が入ったモデルだったと思う。1997年には助手席エアバッグも標準装備の特別仕様車「ラシック」を販売し、1998年には、福祉車両の助手席回転シートや車いす収納装置を備えた介護車を設定。
1998年末にはマイナーチェンジで、サスペンションのセッティングの見直しやボディ構造を含めた多くの安全装備の標準装備化などが図り魅力を向上させた。4WD仕様やスポーツタイプ「TS」という91ps/6300rpm、11.6kg-m/4800rpm仕様の16バルブ・エンジンモデルも発売。同時にインテリアも改良が施された。
モデル末期の1999年には特別仕様車の「スポルティック」が登場。2000年にもマイナーチェンジが行われて、新しいフロントマスクやインテリアのメタリックセンターパネル、本革巻きステアリング、ローダウン仕様のサスペンションなどの改良がなされた。
ところが、おそらくロゴはホンダが望むほどの販売台数を達成できなかった。それは1998年に派生モデルといえるハイト系の「キャパ」とSUVの「HR-V」が登場したからであろうし、何より走りがイマイチだったのも理由かもしれない。ホンダがタウンカーとカテゴライズしていたのだから、中高速域の話をするのは的外れかもしれないが、首都高で流れに乗って走る際はなんとも心もとない印象。もうすぐ21世紀になろうというのに、この走りでは……。後年、スポーティな仕様が追加されて改善されるも、発売当初は高速走行を苦手としていた。
また、チープな表現で悔しいのだが「オーラ」がなかったのもヒットにつながらなかった理由のひとつと言える。クルマに乗り込む前の普段は意識しない高揚感や、運転しているときに気持ちよさと満足感が足りなかったのかもしれない。
使いやすく用途が広い4人乗りハッチバックボディのEVをリース販売
もっとも、1997年にはこのロゴをベースとしたようなモデルの「EV Plus」をリース販売した。長年にわたり排ガス性能で世界をリードしてきたホンダだが、ニッケル水素電池を搭載した専用設計のEVを登場させたことは驚きのニュースとなった。日本や北米の安全基準をクリアした安全性をもつ。当時は最先端のプロジェクター式ヘッドライトの採用や、BEV必須のエアコンとなるだろうヒートポンプ式エアコンなど、基礎研究のモデルとして大活躍。
ロゴの販売終了後にフィットが登場したのはご存じの通り。画期的なセンタータンクレイアウトで大ヒットモデルとなるのである。ホンダは転んでもただで起きないのか、それとも計算づくなのか、わからないことだらけながら、ホンダなら何か新しいことをやってくれるのではないかと、やはり期待してしまう。
■ホンダ・ロゴ 3ドアL(GA3型、CVTモデル)主要諸元
◯全長×全幅×全高:3750mm×1645mm×1490mm(Sキット1525mm)
◯ホイールベース:2360mm
◯トレッド 前/後:1425mm/1400mm
◯車両重量:850kg(Sキット860kg)
◯乗車定員:5名
◯最小回転半径:4.6m(Sキット4.8m)
◯室内長×室内幅×室内高:1705mm×1330mm×1205mm
◯エンジン: D13B型 直列4気筒SOHC8バルブ
◯総排気量:1343cc
◯最高出力:66ps/5000rpm
◯最大トルク:11.3kg-m/2500rpm
◯サスペンション 前/後:ストラット式/車軸式
◯ブレーキ 前/後:ディスク/LTドラム
◯タイヤサイズ 前後:155SR13(Sキット175/70R13)
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みんなのコメント
普通に「フルスイング」→「空振り三振」の方がしっくりくる。