アウディはザウバーとの野心的なF1新規参戦を2026年にスタートさせる。それと同時に、他のモータースポーツカテゴリーでの歴史を捨て去ろうとしている。
アウディは比較的フォーミュラカーでの歴史は浅いが、F1プログラムに焦点を絞るべく、他のレースプログラムを全て終了する決断を下した。
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先日、アウディのカスタマーレーシング部門を率いてきたクリス・ラインケが、オーストリアの実業家でアマチュアドライバーのミハエル・ドッペルマイヤーに最後のR8 LMS GT3を引き渡した際のこの写真は、モータースポーツにおけるアウディの血統を現している。
写真の中央にはカーボンファイバーむき出しのR8 GT3が鎮座し、その後ろにはミュージアムに展示されているアウディのル・マン・プロトタイプやグループBのラリーカーも数多く写っていた。1930年代に当時アウトウニオンとして知られた同ブランドがグランプリレース(現在のF1)に投入した”シルバーアロー”を見つけるには、目を凝らす必要がある。アウディ・スポーツの何たるかを示す写真があるとすれば、これ以上のモノはないだろう。
だからこそ、アウディがGT3プログラムを徐々に縮小していくという決定は、アウディのみならず、広くモータースポーツ界にとっても、とりわけ悲しいことなのだ。
R8はGT3車両の中でも最も有名なマシンのひとつ。バサースト12時間やニュルブルクリンク24時間、スパ24時間など、主要な耐久レースで勝利を収めてきた。アウディは2009年以降、複数の世代に渡って310台のR8 GT3を生産。125のドライバーズタイトルと197のその他チャンピオンシップを制した。
アウディは2032年までR8 LMS GT3に技術サポートとスペアパーツを提供することを約束しているが、次の10年でこのマシンが活躍する姿を見ることは少なくなっていくだろう。
アウディはもはやカスタマーチームにファクトリーサポートを実施せず、ファクトリードライバーも2023年末に解散となった。2024年に登録が残っていた4名のアウディドライバーも、今年限りで契約が切れるため、R8 GT3を所有するドライバーは独自でドライバーを調達し、給料を支払う必要がある。
さらに、ライバルメーカーが投入する新型GT3車両やEvoバージョンを前に、R8 GT3が時代遅れとなるという問題もある。既存のGT3メーカーは徐々に、新型車両投入という選択肢を取ることになる。アウディと25年来の関係にあるアプト・スポーツラインでさえ、2025年のドイツツーリングカー選手権(DTM)に向けて、ランボルギーニ2台体制に切り替えることを余儀なくされた。少なくとも、プロシーンでは、R8 LMS GT3の時代は終わりつつある。
カスタマーレーシング部門は限られた予算で継続できたはず
「ひとつの時代の終わりだが、アウディにとって非常に重要な役割を果たすことができたのは、私としても名誉なことだった」
ラインケはドイツ紙Donaukurierにそう語った。
「私は以前、LMPプログラムのプロジェクトマネージャーとして、この名誉を得たことがある。それが終わった時、強いシンパシーを抱いていたからこそ、虚無感に襲われた」
アウディのカスタマーレーシング部門には、合計101人が働いていると言われている。アウディR8 LMS GT3の生産が終了した今、スタッフがどうなるかは不明だが、ラインケは競技を離れてモータースポーツ関連のプログラムを続けられることを願っている。
アウディがF1の魅力に引き寄せられた理由は簡単だ。同シリーズは今までないほどの成功を収めているからだ。しかし、このギャンブルに見合うだけの価値が疑問視されるのは、予想されるコストが圧倒的に高いからだ。
この5年間で、アウディはクラス1規定をベースとしたDTMから撤退し、フォーミュラEからも撤退。LMDhプログラムは幻となり、ダカールラリープログラムもわずか3年で消滅……そしてGT3車両の生産を終了した。
もちろん、これらの決断のいくつかはF1参戦という野望が打ち出される前に決まっていたことだが、短い間にあまりにも多くのカテゴリーから撤退してきたことに変わりはない。
GT4やTCRも含め、アウディのカスタマーレーシング部門は独立系チームにマシンやスペアパーツを販売することで直接収益を得ている。それを考えると、限られた投資で継続できたエリアのひとつだと言える。
もちろん、ある時点でアウディはR8 LMSに変わる後継GT3車両を投入する必要があっただろうし、そのためのベースモデルを市販車から見つける必要があったが、それも比較的限られた投資で乗り越えることができたハードルだ。結局のところ、R8のようなスーパーカーを軸にGT3マシンを作る必要はない。実際、ライバルメーカーのBMW M4のように、セダンからGT3車両を開発することもできたはずだ。
F1プログラムが順調に進んでいれば、アウディがF1に全ベットするという決断もまだ理解が得られたかもしれない。しかし直近の半年を見る限り、事態は順調とはいい難い。
アウディはドイツ・ノイブルクのファクトリーで次世代パワーユニットを開発。ザウバーを完全買収してF1に参戦する計画だったものの、ここへ来てカタール投資庁(QIA)に30%の株式を売却した。
シャシー側での進展が予想以上に遅かったことを受けて、アウディがテコ入れを実施したことは称賛に値する。しかし、アウディF1ワークスチームの記念すべき1号車がサーキットを走るまで1年あまり……外部から新たに資金を調達する必要があったというのは、同時に憂慮すべき兆候だ。
もうアウディに”逃げ場”はない
さらに懸念すべきは、アウディ首脳陣の混乱だ。ザウバー/アウディF1のアンドレアス・ザイドルCEOとアウディAGのオリバー・ホフマン取締役会長が権力闘争で解雇され、元フェラーリ代表のマッティア・ビノットと、現在レッドブルでスポーティングディレクターを務めるジョナサン・ウィートリーが陣営に加わることとなった。
ビノットはアウディのF1プログラムで最高執行責任者兼最高技術責任者を務め、ウィートリーはアウディのチーム代表を務めることになり、2026年に向けて陣営をベストな状態にするための大仕事へ挑む。
しかし、それは容易なことではない。アウディはニコ・ヒュルケンベルグのチームメイト探しに難航。最終的にはマクラーレン育成出身の新人、ガブリエル・ボルトレトを起用することになった。しかしフェラーリのカルロス・サインツJr.などスタードライバーを引き付けることができなかったという事実は、F1パドックにおいて2026年開幕時に順調な滑り出しを見せることができないプロジェクトだと見なされたことを示している。
アウディとしては、3度目の挑戦で総合優勝を果たしたダカールラリープログラムが励みになるかもしれない。2022年にRS Q e-tronで華々しくデビューを飾ったが、信頼性に難があり、強力なトヨタ・ハイラックスを相手に一矢報いることができず、2023年も後塵を拝した。
そのためアウディのダカールラリー部門は初心に戻ってマシン固有の弱点を修正。その努力が実り、2024年1月、カルロス・サインツSr.を擁して成功を手にした。
RS Q e-tronは技術的な驚異に他ならず、搭載されたパワートレインはDTMで開発された2.0リッターのターボエンジンにフォーミュラEで開発された電動モーターを組み合わせたモノだった。
DTM、フォーミュラE、ダカールで得た知識は計り知れないほど貴重なモノだが、F1用PUは白紙から作り上げる必要がある。アウディのモータースポーツ史上最大の挑戦になるだろう。ディーゼルエンジンを搭載したLMP1車両でさえ、F1マシンに搭載されるPUの複雑さには敵わない。
1ヵ月前までは、2026年に新規参戦する唯一のメーカー系チームとしてアウディに注目が集まっていた。しかしキャデラック/ゼネラルモーターズの参戦が決まったことで、その注目も二分。費用対効果が削がれてしまった。
アウディが全力を尽くして、いずれF1で実績を残す存在になると考えることはできる。しかし、すぐにプログラムが軌道に乗ると考えるのは愚かなことだ。
プログラム責任者のビノットとチーム代表のウィートリーが、チーム運営に自由を与えられ、アウディの取締役会から過度な干渉を受けることなく、洗練されたF1チームとして運営できるようになったとしても、レース勝利やタイトルに挑戦できるようになるまでには数年を要するだろう。
GT3のような既存のレースプログラムがあれば、アウディがF1で歯を食いしばる間、フォーカスを逸らすことができただろう。残念なことに、全てを投げ売ってF1という大舞台に立つアウディに、2026年以降逃げ場はどこにもない。
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