あまりにも危険すぎる紀行文 1927年の記事を振り返る
4WD車が発明される以前に、人々はクルマで荒野を走ることはあったのだろうか?
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もちろん、あった。それが人間というものだ。1900年代初頭にはすでにそうしたエピソードが見られるが、筆者の想像力をかき立てたのは1927年の話である。
100年前の英国人女性になったつもりで想像してみてほしい。機械の知識も砂の上を走る経験もないまま、2人の幼い子供たちを連れて、武装した遊牧民が住むサハラ砂漠の大部分を、最高出力わずか15psのルノーの小型オープンカーで走ろうなどと思うだろうか?
もちろん、そんな人はいないだろう。しかし、クレア・シェリダンは違った。かのウィンストン・チャーチル卿の従妹で、ソ連の共産主義に傾倒したトラブルメーカーであり、世界中を飛び回り、作家であり芸術家でもあった人物だ。
クレア・シェリダンは当時のAUTOCAR誌への寄稿で、次のように書いている。
「わたしは、ありきたりのモーターツーリスト(自動車旅行者)ではありません。自分の種族が嫌いで、観光ルートから離れるのが大好きです」
「道路の不快さや危険性は、むしろわたしのモーターアドベンチャー(自動車冒険)への情熱をかき立てます。実際、新車を買うような経済的余裕のない人間にしては、わたしは軽率で無謀です」
「(アルジェリアの都市)ビスクラのガレージで、わたしは380km南の町ワルグラへ出発するつもりだと告げると、彼らは哀れむような笑みを浮かべました」
「しかし、わたしが思いとどまらないとわかると、彼らは考えられる限りのスペアパーツ、4本のインナーチューブ、2本のタイヤ、予備のホイールを1本持っていくよう助言してくれました。そのような余裕はありませんでしたが、2本のインナーチューブ、シャベル、そして現地の整備士を連れて行くことで同意しました」
15kmほど舗装道路を走った後、彼女は砂漠に入った。
「地表は硬く、隆起した白亜質の岩で構成されており、時速15kmという遅いスピードでもひどく揺さぶられました。車体はきしみ、がたつき、うなり始めたのです」
そして、この難所を乗り越えたとたん、シェリダンはクルマを砂丘にはまり込ませてしまった。車輪は空回りし、焦げたような臭いがたちこめ、タイヤがバーストした。ジャッキもフロアボードもガソリン缶も、拾い集めた雑草も、どれもトラクションを得るのに役立たなかった。
何度も襲い来るトラブル 強運と勇気
幸いにも近くをラクダの隊商が通りかかり、遊牧民たちがシェリダンの助けに駆けつけた。17人の男たちが1時間ほどかけてクルマを脱出させた。
しかし、気温が急激に下がると、もう1本のタイヤがパンクし、ジャッキも使えなくなった。整備士が頼りない月明かりの下で作業している中、シェリダンは思いを巡らせた。
「サハラ砂漠の夜は孤独で、静寂で、広大で、無愛想。そこにいる権利などないように感じられます」
幸いにも、整備士の修理がうまくいき、シェリダンは何とか砂丘を越えるところまで走らせることができた。
「あの夜、砂について多くを学びました。ためらったり、のんびりしたりせず、前を見て、たっぷりと時間をとって2速に入れ、全力で加速すること」
トゥーグラという町で、シェリダンは地元のカイド(kaid=地方官)に紹介された。そのカイドは、自身のスポーツタイプのプジョーでは、砂を防ぐ金属製のふたでエンジンを覆い、砂上でのグリップ力を高めるために「バルーンタイヤ」を装着していると説明した。
そこから彼女は100km離れたハジラという地のカイドの家に行き、一晩の厚いもてなしを受けた後、さらに200km離れたワルグラまで走った。
「道幅が広く、正しい方向に進んでいれば、どこを走ってもほとんど問題にはなりませんでした。あるとき、わたしは両手をハンドルから離し、頭上で大きく振りながら、思いっきりアクセルを踏みました。まるで子供みたいで、とても楽しかった」
ワルグラで一夜を過ごした後、トゥーグラに戻ろうとしたところ、シェリダンは「忌まわしい」向かい風に阻まれた。さらに、カイドの友人から、ビスクラへの帰路は来た道を戻るのではなく、「少し長いが、はるかに良い」鉄柱の標識があるフランス軍の道路を通るようにとの助言を受けた。
「それはわたしが経験した中で最もエキサイティングで不安な運転の1つでした。うまくいくかどうかはスピードにかかっており、ためらえば道に迷います」
「30km以上もこの苦行を続けた後、わたし達は素晴らしい道にたどり着いたのですが、正午にクルマを停めました。食事のためというよりは、(円錐)クラッチがひどく滑っていたので、それを何とかするためです。残りの道のりは、単調な恐ろしい悪夢だったと記憶しています」
後に判明したのだが、このコースを走る際はあらかじめフランス軍に報告し、ドライバーの登録とクルマの検査を行い、ガイドを付けることが義務付けられていた。
「もし故障していたら、わたし達は飢え死にしていたでしょう。食料や水の予備もなく、誰もわたし達のことを知りませんでしたから」とシェリダンは振り返る。
勇気と狂気は紙一重、とはよく言ったものだ。
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