四輪駆動の進化に貢献した傑作モデル
四輪駆動が一般的な自動車へ普及するには、短くない時間を要した。しかし近年は、車高を持ち上げたSUVへ人気が集まっているのはご存知の通り。
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そこで今回は、四輪駆動という技術の進化に貢献した傑作モデルの一部を、時系列で振り返ってみたい。やや英国車寄りだが。シリアスな軍用車両から高性能なスポーツカー、身近なファミリーカーまで、幅広いラインナップだという事実は興味深い。
1903年:スパイカー60HP
オランダ(ネザーランド)の自動車メーカー、スパイカーは、レースでの勝利を目的に、世界初となるガソリンエンジンを動力源とした四輪駆動車を開発した。今から120年前の1903年に。
四輪駆動という駆動方式が選ばれた理由は、パリからマドリードまでの荒れた路面に対処するため。しかし完成が間に合わず、目的のレースへは出場していない。
世界初となる四輪駆動システムは、リアへのドライブシャフトと同様に、トランスミッションの前側からフロントアクスルへ向けてドライブシャフトを追加し実現。エンジンは8.8Lという巨大なものが載っていた。
1904年にスパイカーは60HPを完成させ、英国ブラックプールで開催されたレースに参戦。バーミンガムで開かれた1906年のレースでは、優勝を掴んでいる。
1937年:メルセデス・ベンツG5
フォルクスワーゲン・キューベルワーゲンは、第二次大戦時に作られた小型の多目的車両として活躍したが、これは基本的に後輪駆動。四輪駆動を実戦に投入したのは、メルセデス・ベンツだった。
フォルクスワーゲンもリアエンジンで四輪駆動システムを試作しているが、量産には至っていない。メルセデス・ベンツは、一般的なエンジンとトランスミッションのレイアウトを採用し、実現しやすかったようだ。
コード番号W152と呼ばれるG5は、2.0Lの44psエンジンをフロントに搭載。5速MTを搭載するが、オフロード向けに1速のギア比は極端にローレシオになっていた。
終戦を迎えると、G5の多くは山岳救助任務に当てられた。30km/hまで利用可能な後輪操舵システムも備え、優れた機動性が高く評価されていた。
1938年:GAZ-61
ロシアの自動車メーカー、GAZ(ガズ)は、61という革新的な四輪駆動モデルを生み出した。オフロード向けのシャシーに、一般的な乗用車タイプのボディを組み合わせて。
大人5名が快適に移動できるだけでなく、過酷な悪路にも対応。ある程度の河川も横断できた。エンジンは3.5Lの6気筒で、最高出力は85ps。最高速度は106km/hと、当時としては不足ない動力性能も備えていた。
61は第二次大戦の終わりまで生産が続き、1945年に実用性を高めたGAZ-64へバトンタッチしている。クロスオーバーの先駆けのようなモデルだ。
1941年:ウイリスMB
オフローダーの代名詞といえる、ジープ。そのオリジナルの名称は、ウイリスMBという。第二次大戦時にはフォードもGPWという同モデルをライセンス生産し、機動的な移動手段として北米陸軍から厚い信頼を得ていた。
シンプルで走破性が高く、2.2L 4気筒エンジンはタフだった。戦争が終わると、農業を営む人々から愛された。
ウイリスMBの源流にあるのは、北米陸軍の要件に基づいて設計された、アメリカン・バンタム社による小型の偵察車両プロトタイプ。性能は優れていたが、同社には量産する能力がなく、ウイリスとフォードが開発を継承。伝説的な四輪駆動車が誕生したのだ。
1948年:ランドローバー・シリーズワン
ローバーの主任技術者だったモーリス・ウィルクス氏は、任務を終えたウイリスMBの走りに英国の農場で感銘を受けた。しかし、自国には後任になるモデルがないことへ気がついた。
そこで彼は、広大な畑や不整地に対応でき、一般道も走ることができる、農家向けの四輪駆動モデルの設計へ着手。果たして、完成したランドローバー・シリーズワンは、堅牢さからすぐに多くの支持を集めた。
当時は戦後需要でスチール材が不足しており、ボディにはアルミニウムを選ぶ必要があった。ところが、アルミは錆びにくく軽量。四輪駆動のランドローバーは軽く高耐久に仕上がり、過酷な悪路にもひるまない能力を備えるに至った。
1951年:トヨタ・ランドクルーザー
ランドローバーが英国で誕生した頃、日本でも新しい四輪駆動車の開発が進められていた。アメリカ軍が乗っていたウイリスMBのように、多くのニーズへ応えるべく。
日本政府の要求に応じ、国産の小型多目的車の開発へ挑んだトヨタは、ウイリスMBのパッケージングをお手本に選んだ。最初の量産仕様が完成したのは1951年。トヨタはジープBJと名付けるが、ウイリス側が異議を唱えランドクルーザーへ改名されている。
初代ランドクルーザーには、過酷なオフロードに対応するローレシオ・トランスファーは備わっていなかった。だが、地形に応じて四輪駆動か後輪駆動を切り替えられる点が特長といえた。
1953年、6気筒エンジンを3.4Lから3.9Lへ変更し、民生仕様の販売がスタート。それ以来、ランドクルーザーは世界中で重宝され、現在までに通算1000万台以上が生産されている。
1958年:オースチン・ジプシー
ランドローバーから遅れること10年、英国のオースチンも手頃な価格の四輪駆動モデル、ジプシーを開発した。当初から民間ユーザーをターゲットにしていた点が、ウイリスMBに影響を受け、軍用車両として活躍したオースチン・チャンプとは大きく異る。
エンジンは2.2Lで、ガソリンとディーゼルが提供された。アレックス・モールトン博士が開発した、ラバーコーン・スプリングのサスペンションを採用していたことも面白い。ランドローバーより、悪路でも速く快適な乗り心地を得ていた。
完成度は低くなかったが、オースチンを傘下に収めていたブリティッシュ・モーター・コーポレーションは、ランドローバーを傘下にするレイランド・モータースと合併。同じグループ内の競合モデルとして、ジプシーは廃盤に追い込まれてしまう。
この続きは中編にて。
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