7万ポンド(1050万円)で買える2台
執筆:Ben Barry(ベン・バリー)
【画像】マクラーレン12CとBMW M3 CSL 最新のアルトゥーラとM3、M4も 全105枚
撮影:Luc Lacey(リュク・レーシー)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)
クルマの価値は時代とともに変化する。BMW M3 CSLや、マクラーレン12Cであっても。取引価格が上昇するクルマもあれば、下降するクルマもある。その結果、今回の2台は同等の金額で手に入るようになった。
ガンメタリックのBMWは、2003年式のM3 CSL。新車当時、英国では5万8455ポンドの値段が付いていた。世界的な景気の悪化で一時は大幅に下落したが、2021年の例では、走行距離1万6000kmのCSLが7万3000ポンド(1095万円)で売れている。
メタリックオレンジのマクラーレンは12C(MP4-12C)。10年前のデビュー当時、英国では16万8500ポンドでディーラーに並んだ。
現在の中古車市場を見渡してみると、2万4000kmから6万4000kmくらいの走行距離で、7万ポンド(1050万円)前後の値段が付いている12Cが、執筆時に英国で7台も見つかった。
マクラーレンには、もっと高い価格で売られているものもある。BMWには、もっと手頃な価格が提示されているものもある。だが7万ポンド(1050万円)用意すれば、そこそこの状態と内容で悩むことができる。さあ、どちらが良いだろう。
ランニングコストは、12Cの方が遥かに多く掛かるはず。だが、経験豊かな専門ショップを見つけられれば、正規ディーラーより手頃な費用でメンテナンスを受けることも不可能ではない。
実際、英国にはそんなガレージが存在する。今回の2台を貸し出してくれた、シルバーストーン・サーキットのそばに構えるソーニー・モータースポーツも、その1社だ。
VX220と12Cとの意外な共通性
経営者のジョン・ソーンは、BMW M3のレースカー開発で評判を高めた人物。その後、ロータス・エリーゼの派生モデル、ヴォグゾールVX220(オペル・スピードスター)でブランドを転向した。
技術を認められ、ヴォグゾールはディーラーで手に負えないトラブル対応を、ソーニー・モータースポーツ社へ依頼していたほど。6年前に、マクラーレンをメインに事業をシフトしている。
ポルシェやフェラーリなどを専門とする独立系のガレージは、英国内に数か所あり、アフターサービスを受けられる。だがマクラーレンを得意とする場所は、それまで存在していなかった。結果、現在では一目置かれる存在だ。
ソーン自信も、ブリティッシュ・ツーリングカー選手権へ参戦した過去を持つ。ダカール・ラリーに向けて、ヤマハのファクトリー・マシンのシャシー制作を請け負ったこともあるという。
ここ6年ほどソーン自身が楽しんでいるのが、マクラーレン12C。詳しく理解するため、各部のメンテナンスを重ねている。当初は、VX220との関係性に驚かされたという。
「11名の技術者で12Cは設計されていますが、その内の9名はロータスでVX220の設計にも関与していました。使用している素材は異なります。しかし組み上げられている手法には、はっきり共通性を見ることができました」
ソーニー・モータースポーツ社の顧客リストには、現在350台のマクラーレンが登録されている。正規ディーラー以外で、英国ではマクラーレンの純正部品を最も購入している。年間30万ポンド(4500万円)が、部品代に費やされているらしい。
サービス費用は専門ガレージで抑えたい
主な作業の1つが、12Cでは簡単にずれてしまうサスペンションのジオメトリ調整。アッパーアームやロアーアーム、Zバーリンクなど、比較的単純な消耗部品の交換も多い。
しかし、インプットシャフトの不具合に関連するトランスミッションの故障という、聞くだけで恐ろしい内容もある。こんな手間の掛かりそうな修理こそ、ソーニー・モータースポーツ社の得意分野だ。
正規ディーラーへトランスミッション修理を依頼し、丸ごと交換だと判断されると、2万7000ポンド(405万円)も請求される可能性がある。ところが、ここならドライブシャフト・シールやベアリングなどを独自開発しており、ずっと安く直してくれる。
「世界中、どんなトランスミッションでも、7500ポンド(112万円)で修理が可能です」。とソーンが説明する。マクラーレンを諦めるオーナーの数も、少なくしてくれる。
ソーニー・モータースポーツ社は、1時間あたり税別で95ポンド(1万4000円)の定額サービス費用を設定している。平均的なメンテナンス費は、年間で1500ポンド(22万5000円)前後になるという。
予期しないトラブルに備えて、年間2850ポンド(43万円)で保証も付けてくれる。オーナーが、安心して毎晩眠れるように。スーパーカーの維持費として考えれば、法外なものではないだろう。
少し宣伝的になってしまったが、ソーンのマクラーレン12Cを運転させてもらった。素晴らしい血統を、つぶさに体験することができた。
12Cは純血統のスーパーカー
上方に持ち上がるディヘドラル・ドアを開き、カーボンファイバー・タブの分厚いサイドシルをまたぎ、低い位置のシートへ腰を下ろす。フロントガラスはワイドで、前方視界を遮るものはない。
スタートボタンを押し、ツインターボで過給される3.8L V8エンジンを目覚めさせる。エキゾチックさは、少し物足りない。でも、マクラーレンの象徴といえるサウンドだ。
ステアリングの反応は、尋常でないほどに繊細。潜在的に能力の高いクルマを、驚くほど身近な存在にしてくれている。レシオは、フェラーリ458よりスローで自然。感触も良い。マクラーレンの720Sよりも。
乗り心地も際立つ。路面の乱れを完璧に吸収し、意欲的なコーナリングを一切妨げることはない。
だが、ボディは低くワイド。フロントノーズが常に意識下にある。フロントタイヤに掛かる質量が、不足気味に思える。
マクラーレンは10年間で目覚ましい進歩を遂げたが、12Cは今でも恐ろしく速い。初期の12Cは、最高出力600ps、最大トルク61.1kg-mを発揮した。その後アップグレード・プログラムが提供され、625psへ引き上げられている。
記憶では、パワーデリバリーも滑らかになっていたように思う。3500rpm位まではターボラグが残っているが、それ以降はリアタイヤを空転させる勢いでパワーが放たれる。7000rpmまで怒涛の勢いだ。純血統のスーパーカーであることは間違いない。
BMWの隣に並べると、一層特別感が引き立つ。マクラーレンへ光が当たるように。
この続きは後編にて。
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みんなのコメント
その後のモデルはデザインがどんどんマンガチックな変な感じになっちゃったのが残念。