トヨタ GRヤリス 「新型ではなくあえて「進化型」と名乗る意欲作」の専門家レビュー ※掲載内容は執筆日時点の情報です。

西村 直人
西村 直人(著者の記事一覧
交通コメンテーター
評価

5

デザイン
4
走行性能
5
乗り心地
3
積載性
2
燃費
4
価格
4

新型ではなくあえて「進化型」と名乗る意欲作

2024.1.29

年式
2020年7月〜モデル
総評
コストパフォーマンスを度外視したかのような作り込み。これこそモータースポーツ直系のGRならではの策。コンパクトカーであるヤリスをベースにしながらも、実際は一クラス上のカローラのプラットフォームをボディ後半に活用しながら専用デザインの外板を開発した。また、アウターパネルの多くにアルミ素材を用い軽量化を実現。パワーユニットはWRCをはじめ大活躍の直列1.6L 3気筒ターボユニットだ。進化型では8速ATも加わった。
満足している点
進化型ではエンジンも進化させた。GRカローラのモリゾウエディションと同じスペックが与えられ、さらにインテリアも大幅に変更された。わかりやすく乗りやすくなり、レースフィールドでもタイムが出しやすくなった。また、走る喜びの裾野を広げたいという願いから、8速AT「GR-DAT」を加えた。DATはS耐やラリーフィールドで耐久信頼性を確保した上で、一般道路や高速道路での使いやすさも考慮し設計した。
不満な点
車両そのものは生粋のスポーツモデルであるし、万人受けするような商品性ではないので不満は少ない。しかし、昨今の生産事情や部品調達関連を鑑みると致し方ないことながら、欲しいときに欲しい人がスムースに購入できない。これが最大の不満だ。不満を少しでも解消するために、たとえば納車待ち、商談待ちの方々を対象としたエンタメ策を提案したい。欲しいと思っている方々の熱量を下げないためにも。
デザイン

4

実車は相当高いまとまり感がある。とくにリヤフェンダーの張り出し具合は市販車(生産台数は限られるが)としては異例のデザイン。進化型ではさらにドライビングポジションを25mm低くして、同時にルームミラーの位置をフロントガラス上部へ移動した。そしてセンタークラスターの上端を50mm下げている。これにより前方視界がものすごく拡大した。こうした機能性もさることながら、各部のデザイン性も高められた。
走行性能

5

5点満点の尺度は速さはもちろんのこと、楽しいこと、そして8速ATによるイージードライブを両立していることにある。従来型は雨のサーキットと公道で、進化型においてもやはり雨のサーキットで走らせたが、進化型は6速MT/8速ATともに緊張感が大きく薄れ、代わりに楽しさが倍増した。これは前後駆動力配分の見直し、そして前後スプリング&ダンパーの特性変更が大きく効いている。
乗り心地

3

たとえばクラウンセダンのような快適性能は持ち合わせていない。でも、引き締められたボディとしっかり受け止めるスプリングとダンパー、そしてサスペンションの各アームやブッシュ類によって、角のとれた芯のある乗り味が味わえる。言葉で表現するにはとても難しいのだが、どんなに強いドンという入力も一発でいなすという感覚が近いか。無駄や余分な動きがないし、なにより目線の上下動が少ないので疲れない。
積載性

2

見ての通りコンパクトカーであることからラゲッジルームに余裕は感じられない。それでも後席を利用した状態で174Lを確保した。分割可倒式の後席を折りたためばタイヤ4本(GRヤリスが装着するタイヤサイズ225/40R18)も搭載可能だ。車内では、小さいながらも各部に収納スペースが設けられている。進化型ではインパネ以外にもいくつか車内デザインが変更され、使い勝手が高められた。
燃費

4

サーキットで全開走行すれば、いくら1.6Lターボといえども大食いだ。しかし公道で、しかもおとなしく走らせていると驚くほど燃費数値が伸びる。従来型における筆者の実測値で、都市部の激しい渋滞路を1時間ほど走行した状態で13km/L台、郊外の空いた道路で17km/L台、高速道路を80km/hで巡航させて18km/L台を記録した。新型はトルク特性に優れていることから、これよりも数%伸びるはずだ。
価格

4

従来型の価格だが、標準モデルとなるRZが396万円、RZ“ハイパフォーマンス”が456万円。そしてFFモデルで直列3気筒1.5LエンジンのRSが265万円だ。進化型の価格は執筆時点で発表されていないが、おそらく10%程度の値上げがあることだろう。もっとも変更点から考えれば妥当だと考える。各種性能をソフトウェアアップデートで向上させるプログラムも安価に設定されている。
西村 直人
西村 直人
交通コメンテーター
WRカーやF1、MotoGPマシンのサーキット走行をこなし、4&2輪のアマチュアレースにも参戦。物流や環境に関する取材を多数。大型商用車の開発業務も担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。自動運転技術の研修会(公的/教育/民間)における講師を継続。警視庁の安全運転管理者法定講習における講師。近著は「2020年、人工知能は車を運転するのか」(インプレス刊)。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員日本自動車ジャーナリスト協会会員
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