毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの、市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
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しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はトヨタ キャバリエ(1996-2000)をご紹介します。
文/伊達軍曹 写真/TOYOTA
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■日米貿易摩擦の緩和 アメ車需要拡大を狙い登場したキャバリエ
日米間の自動車貿易不均衡による貿易摩擦の緩和を図るべく、トヨタがシボレー キャバリエを右ハンドル化するなどしたうえでGMからOEM調達し、日本で発売。
しかし特に魅力的な部分はないモデルであったため売れず、そのまま廃番となったDセグメントのセダンおよびクーペ。
それがトヨタ キャバリエです。
トヨタ キャバリエ(1996-2000)。
トヨタ キャバリエのベースとなったシボレー キャバリエ(3代目・1995-2005)。エムブレム以外外見上の違いはまったく見当たらない。なおシボレー キャバリエの系譜もこの3代目で一度途切れるが、2016年に4代目が登場。中国、次いでメキシコで現在も販売されている
日米自動車摩擦は、1970年代の石油危機の際にはすでに勃発していました。低燃費なホンダ シビックなどが大人気となった結果ビッグスリーの業績は悪化し、多くの従業員がリストラに追い込まれました。
そのためデトロイトでは日本車をハンマーで叩き潰すなどのパフォーマンスも行われたのです。
1980年には全米自動車労組(UAW)などが日本車の輸入制限を求めて米国際貿易委員会(ITC)に提訴しましたが、同年、日本の自動車生産は米国を抜いて世界一になってしまいました。
そのため日本政府と自動車業界は1981年、対米自動車輸出台数を制限する「自主規制」を導入することになり、自主規制は1993年度まで続きました。
自主規制を受け入れた日本車メーカーは米国での現地生産を加速しましたが、1990年前後には「米国で現地生産するクルマの米国製部品の調達量が少ない」と再びイチャモンを付けられる事態に。
そのため大統領選で再選を目指していた「パパ・ブッシュ」がビッグスリー首脳らと来日し、宮沢喜一首相(当時)との首脳会談を経て、日本車メーカーによる米国製部品購入の「努力目標」が設けられることになりました。
さらに1995年にはクリントン政権の米通商代表部代表が、日本市場の閉鎖性を理由に「レクサス」など日本製高級車13車種の輸入に100%の関税を課すと発表しました。
これに対して、当時の日本政府は世界貿易機関(WTO)に提訴する形で応戦したわけですが、そんな時代の流れのなかで1996年1月、トヨタから発売されたのが「トヨタ キャバリエ」でした。
こちらは2ドアクーペ
トヨタ キャバリエは――というかシボレー キャバリエを右ハンドル化したそのモデルは、サイズ的には当時のカムリ/ビスタに近い4ドアセダンおよび2ドアクーペでした。
具体的な寸法は4ドアセダンが全長4595mm×全幅1735mm×全高1395mmで、2ドアクーペは全長4600mm×全幅1740mm×全高1355mmです。
駆動方式はFFのみで、搭載エンジンはセダン、クーペともに最高出力150psの2.4L直4DOHCでした。
大人の事情というか「国家的な事情」により販売されることになったこの車に対して、トヨタはしっかりとプロモーション活動を展開。
CMに人気タレントの所ジョージさんを起用するなどして奮闘しましたが、それでも基本的にはさっぱり売れませんでした。
そのためトヨタは予定していた5年間の販売期間を前倒しし、2000年4月にキャバリエの販売終了を発表。
その後も在庫分の販売は少し続いたようですが、結論として「年間2万台」という目標販売台数にはまったく届かないまま、トヨタ版のキャバリエは歴史の闇へと消えていきました。
■セダン飽和状態のなか なぜキャバリエが投入されたのか?
トヨタ版のキャバリエがまったく売れないまま廃番となった理由。それは要するに「車としての魅力が乏しかったから」というひと言に尽きるでしょう。
トヨタはこの車に「181万円から」という戦略的な価格を設定し、前述のとおりプロモーションも頑張ったわけですが、とはいえ日本の多くのユーザーはキャバリエという車に魅力を見いだせませんでした。
当時の人々の心理は「極端に悪いわけじゃないんだけど、だからといって積極的に選びたくなる理由もない」といった感じだったでしょうか。
しかし、そんなことは――つまりキャバリエを右ハンドル&右ウインカー化して輸入し、プロモーションに力を入れたところで、大して売れはしないだろうということは、当のトヨタもよくわかっていただろうと推測されます。
内装。200万円以下ながら2.4L直列4気筒DOHCに専用チューニングを実施。足回りも日本向けにセッティングされたが、販売は振るわなかった
それではなぜ、トヨタはわざわざGM製キャバリエの日本仕様化に全面協力し、OEMではあるものの「自分のとこの車」として大々的に売り出し、広報活動やプロモーション活動も頑張ったのでしょうか?
……これは筆者の単なる推測ですが、トヨタは「我々が日本という国を背負っているのだ」という強い自覚がある企業だからこそ、火中の栗を拾いに行ったのです。
渋々だったかもしれませんが、結果的にはプライドを持って“汚れ役”を引き受けたのです。
本稿の冒頭付近で述べたような日米自動車貿易摩擦が長らく続き、もしもそれがさらにエスカレートしたら、日本という国家がちょっと大変なことになるかも――というときに、永田町方面からトヨタに依頼があったのか、トヨタが自発的に動いたのかは知りませんが、いずれにせよトヨタは「不満を爆発させそうな米国のガス抜きを行う」という役割を、見事にやりきりました。
単に少数を輸入してテキトーに売ってるふりをするのではなく、しっかりと予算を使い、大々的な輸入とプロモーションをしばらくの間は継続したのです。
そこまでやってもキャバリエというか米国車が売れないのであれば、それは日本の不公正な態度やシステムのせいではなく、「アメリカ車およびアメリカの自動車メーカー自身のせいである」ということが明白になります。そうなれば、米国も振り上げた拳を降ろさざるを得ません。
筆者は先ほどから勝手な推測だけでモノを言っていますが、おそらくはおおむね正しい推測なのではないかと思っています。
トヨタは、日本国および日本国民のためにキャバリエを輸入したのです。
あるいは、「アメ車をOEM化しても決して売れない」という前例を作るためにあえてトヨタがキャバリエを選び、飽和状態のセダンカテゴリーに投入した…と考えてみるのも面白いかもしれない(※GMとトヨタどちらがキャバリエ投入を決定したか、についての記録は確認できていない)
「その節は、本当は嫌なはずのことを粛々と行っていただき、誠にありがとうございました」
もしもどこかでトヨタ キャバリエの元関係者にお会いすることがあったなら、筆者はそう言いたいと思います。
■トヨタ キャバリエ 主要諸元
・全長×全幅×全高:4600mm×1740mm×1355mm
・ホイールベース:2645mm
・車重:1310kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、2392cc
・最高出力:150ps/6000rpm
・最大トルク:22.1kgm/4400rpm
・燃費:9.8km/L(10・15モード)
・価格:205万円(1996年式 2.4Z)
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みんなのコメント
ほんと、トヨタも災難だった。
デザインも悪く、機械の信頼性としても全く日本車に対抗できない酷い出来。
一番の被害者はこれをトヨタ車と勘違いして買ってしまった人だろう。
まあ、買った人のほとんどがクルマに興味無い人だから、クルマの出来の悪さに気が付いたかは不明だけど。