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パリ・モーターショー2022 リポート前編──エコロジー✕デザインが生みだす興奮| Le Mondial de l’Auto

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パリ・モーターショー2022 リポート前編──エコロジー✕デザインが生みだす興奮| Le Mondial de l’Auto

パリ・モーターショー(パリサロン)が2022年10月17日から7日間にわたって催された。本来隔年であることに加えて2020年は新型コロナ禍で中止されたため、実に4年ぶりの開催となった。自動車を取り巻く環境が厳しさを増すフランスの状況を映し出した同ショーについて、イタリア在住のジャーナリスト、大矢アキオ氏がリポートする。

Le Mondial de l’Auto|パリ・モーターショー

世界で最もエキサイティングなショー 上海モーターショー リポート|Auto China 2017

クルマのあり方を見直す必要に迫られた都市と、新しい時代のモーターショー

パリ・モーターショー(パリサロン)が2022年10月17日から7日間にわたって催された。本来隔年であることに加えて2020年は新型コロナ禍で中止されたため、実に4年ぶりの開催となった。イタリア在住のジャーナリスト、大矢アキオ氏がリポートする。

Text & Photographs by Akio Lorenzo OYA Lorenzo OYA

「自動車嫌い」の街で

今回、主要メーカーによる大規模な出展は、ルノー・グループ各ブランド(ルノー、ダチア、アルピーヌ、モビリティサービスのモビライズ)、ステランティス・グループの一部ブランド(プジョー、DS、ジープ)にとどまった。いっぽうで、他の欧州・日韓などのメーカーは軒並み欠席を決めた。


かつてパリ・モーターショーといえば、自動車工場を解雇された従業員が集団でブースに乱入する事件がたびたび発生した。いっぽう今回は異なったかたちのマニフェステーションが開催直前に発生した。フランス各地の精油所従業員が賃上げ要求のストライキを決行したのだ。ガソリンスタンドは休業を余儀なくされ、かろうじて営業できた店には長い車列ができた。そのためショー期間中、テレビやラジオのニュースで最も聞かれるキーワードはフランス語で欠乏を意味する「ペニュリーpénurie」であった。

パリ・モーターショー2022 リポート前編──エコロジー✕デザインが生みだす興奮| Le Mondial de l’Autoプジョー408via Web Magazine OPENERS

そうした直近の事象以上に、近年フランスで自動車を取り巻く環境は厳しい。いや悲観的でさえある。パリなど大都市では、環境保護政策の名のもとディーゼルを中心に古い車両の平日昼間の進入禁止が段階的に強化されている。そうしたなか絵葉書の中にあるような、シトロエン「2CV」もちろん、1980年代のシトロエン「BX」やプジョー「205」の姿さえ、街の日常風景からとうに消えた。

そればかりか2014年以来2期にわたりパリ市政を率いるアンヌ・イダルゴ市長は、自家用車全体の使用抑制を目指している。例として駐車違反の反則金は、2018年にはエリアにより最高50ユーロだったものが、75ユーロにまで引き上げられた。


パリ・モーターショー2022 リポート前編──エコロジー✕デザインが生みだす興奮| Le Mondial de l’Autoジープ アベンジャーvia Web Magazine OPENERS

そうしたなか、今回のパリ・モーターショーでの展示車は、電動車もしくは水素燃料車が主役となった。

今回のショーにおけるスターのひとつ、アルピーヌ「アルペングロー・コンセプト」も700バールのタンク2基を内蔵した水素エンジン車である。

マクロン大統領はプレスデイに視察。フランス国内に自動車メーカーがBEV(バッテリーEV=電気自動車)生産を加速させていることを高く評価した。その彼は、ショー開幕数日前に出演したラジオ番組でBEVの購入補助金増額も示唆している。

パリ・モーターショー2022 リポート前編──エコロジー✕デザインが生みだす興奮| Le Mondial de l’Autoパリ・モーターショーに視察に訪れたマクロン大統領via Web Magazine OPENERS

参考までにルノーやステランティスのBEVはフランス市場で好調である。2022年1-8月の販売台数統計で、第1位はプジョー「e-208」の1万1979台、2位はフィアット「500e」、3位はルノーのサブブランドであるダチアの「スプリング」である。以下ルノー「ゾエ」、ルノー「トゥインゴ」と続き、他の欧州諸国で人気のテスラ「モデル3」が顔を出すのはようやく6位である。

今回のショーでもうひとつ特徴的だったのは、新興国ブランドの台頭だ。中国の「BYD」、長城汽車系のプレミアムブランド「ORA」「WEY」がフランス系ブランドに比肩するかそれ以上に立派なブースを構え、電動車をディスプレイした。また、前回2018年パリで世界デビューを飾ったベトナム「ヴィンファスト」もBEVのラインナップで欧州進出を宣言した。

こうした若いブランドのカーデザインに対する投資はすさまじい。たとえばBYDが2019年に中国深センに完成したグローバルデザインセンターでは外部コラボレーターを含む400名が働き、原寸クレイモデルをわずか5日で完成させる設備を備え、デザイン修正も通常1~2週間要していたものを24時間以内にこなす。

率いるのは、アルファ・ロメオ時代に「8Cコンペティツィオーネ」のデザイン開発を主導したヴォルフガング・エッガー氏だ。ベトナムのヴィンファストはカロッツェリアの名門「ピニンファリーナ」に加え、元ベルトーネ出身のロベルト・ピアッティ氏が主宰する「トリノデザイン」に協力を仰いでいる。

新時代のアレルギーを緩和できるデザイン

新時代のエネルギーを緩和できるデザイン

主要メーカーとともに、興味深いデザインを提示してくれたのは、数々のスタートアップ企業であった。主催者がブースを従来よりも細分化し、より出展しやすくしたことが功を奏している。

「オピウム」は、欧州耐久レース選手権のレーシングドライバー、オリビエ・ロンバールによって2019年に設立されたフランスのブランドで、すでにパリ証券取引所に上場している。彼らの「マキナ」は燃料電池車で、わずか3分の充填で1000kmの航続が可能という。価格は12万ユーロ(約1730万円)で、パリ出展を機に予約を開始した。生産開始は2025年を予定している。

パリ・モーターショー2022 リポート前編──エコロジー✕デザインが生みだす興奮| Le Mondial de l’Autoナミックスvia Web Magazine OPENERS

同じ燃料電池車でも異なるアプローチをみせたのは「ナミックス (NAMX)」である。アフリカ地域もテリトリーとする同名の多国籍企業によるもので、デザインは、パリを拠点とするフリーランスのプロダクトデザイナー、トマ・ドゥ・リュサック氏による。最大の特長は、固定燃料タンクのほか、1本24キログラムの水素燃料カートリッジ6本を装填できることだ。システムは衝突試験をクリアできる特許を取得済みという。

パリ・モーターショー2022 リポート前編──エコロジー✕デザインが生みだす興奮| Le Mondial de l’Autoナミックス・キャプストアとトマ・ドゥ・リュサック氏via Web Magazine OPENERS

車両自体はすでに2022年5月イタリアで発表したコンセプトモデルを発展させたものだが、ドゥ・リュッサック氏本人が今回新たな挑戦として筆者に説明してくれたのは「キャプストア」と名付けた装置である。

これは大量の水素燃料カートリッジを差し込めるコンテナだ。「そのまま大型トラックに搭載して、適宜カートリッジ交換の需要がある場所に運搬することもできます」とドゥ・リュサック氏はそのフレキシビリティを説明する。その外観は十分にスタイリッシュである。筆者が考えるに、秀逸なデザインは新しいエネルギーに対する人々のアレルギーを緩和する効果がある。

知的なショーのチャンス

知的なショーのチャンス

同様に興味深かったのは、欧州で「クアドリシクル」と呼ばれている軽便車の再定義である。従来このカテゴリーのパワーユニットは、500ccの汎用ディーゼルエンジンが最もポピュラーであった。

運転には原付き免許を要するが、以前は免許不要で運転できたため、フランスではそれを示す「サン・ペルミ」と呼ばれてきた。加えて、普通免許の更新が難しくなった高齢者や、交通違反などで免許停止中のドライバーの代替交通手段というイメージがつきまとっていた。

いっぽう今回のショーでは、そのサン・ペルミをBEV化し、より個性的かつ意味あるデザインにすることで、次世代モビリティの一選択肢とする試みが数々みられた。

スイスを本拠とし、イタリアで製作するマイクロモビリティ・システムズ社の自信作は、伝説の軽便車「イセッタ」を彷彿とさせるBEV「ミクロリーノ」だ。以前からコンセプトカーをジュネーブで展示しながら市場の反応を伺ってきた彼らが今回パリ参加を決意した背景を、幹部は「欧州内でフランスはサン・ペルミの重要な市場だから」と説明する。

パリ・モーターショー2022 リポート前編──エコロジー✕デザインが生みだす興奮| Le Mondial de l’Auto「イクシーヴィー」via Web Magazine OPENERS

イタリア・トリノでデザインされ、すでに中国で生産が開始されている「イクシーヴィー(XEV)」も、従来のサン・ペルミとは一線を画したモダンなスタイルをまとう。デザインを主導したのは中国メーカー「JAC」のトリノ・スタジオでシニア・デザイナーを務めていたイアン・グレイ氏と、同じくJAC出身のアドヴァ・ヨゲフ氏である。3Dプリンターを駆使することで複雑な形状を達成するとともに、カスタマイズの多様性も実現している。さらに今回は、カートリッジ式電池を搭載するバージョンも公開した。

パリ・モーターショー2022 リポート前編──エコロジー✕デザインが生みだす興奮| Le Mondial de l’Autoキロウ バニョールvia Web Magazine OPENERS

もうひとつの好例は、「キロウ(Kilow)」というスタートアップによる「バニョール(Bagnole:フランス語でオンボロ車)」である。Moins c’est mieux(少ないことは、より良いことだ)というキャッチコピーは、まさにモダニズム建築家ミース・ファン・デル・ローエが遺した「Less is more」に通じる。

もうひとつのコピー「もっと遅く、もっと短距離を」のとおり、満充電からの航続可能距離は70km(オプションで140km)、最高速度も80km/hにとどまる。フランス人のクルマ好きが好むフレーズが「plus vite , plus loin、 (より速く、より遠くへ)」への強烈なアンチテーゼであろう。

パリ・モーターショー2022 リポート前編──エコロジー✕デザインが生みだす興奮| Le Mondial de l’Autoキロウ バニョールvia Web Magazine OPENERS

価格は9999ユーロ(約146万円)からだ。デザイナーのレオ・ショワセル氏は1990年生まれ。「免許を取得して最初に運転したのは1994年のオリジナルMINIで、その後さまざまな車歴のなかでポルシェ911にも乗った」と振り返る。そして自動車メーカーのデザイナーを8年務めた。クルマとその世界を知った彼が達した、ひとつの境地なのである。

かくも意欲的なデザインの新作が数々並んだ背景には、冒頭のようにクルマのあり方を根本から見直す必要に迫られた都市があったのは明らかだ。そうした意味で今回のパリは、きらびやかなだけのコンセプトカー披露とは一線を画する、ある種知的なショーに生まれ変わるチャンスと興奮を秘めていた。

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