初代の素晴らしさが受け継がれた2代目
執筆:Matt Saunders(マット・ソーンダース)
<span>【画像】モデルチェンジ トヨタGR86 先代のGT86と比較 GRヤリスとGRスープラも 全91枚</span>
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)
なにか強い印象を残してくれる日本人には、独特な予兆のようなものがある。ステージ上でのパフォーマンスでもそうだ。そんな心の高ぶりを、日本車からも感じることがある。
これから筆者が試乗する、新しいクーペもそんな予兆を感じさせてくれた。トヨタは、そんな気持ちを「ワクドキ」と表現しているようだ。
日本は英国と同じように、スポーツカーを愛する貴重な島国だ。モデルチェンジしたトヨタGT86に乗って、改めて実感した。結論を先にいってしまうようだが、本当にワクドキなクルマだった。
トヨタは、初代GT86にも通じるドライビング体験を提供するべく、2代目となるGR86の生産をスタートさせている。開発に共同で携わった、スバルの太田工場で。2022年5月には、英国にも上陸してくる。
果たして英国や日本以外でも、新しいGR86は受け入れてもらえるだろうか。GT86は、商業的には成功したとはいえなかった。だが、それを覆すほどの価値が2代目にはある。幅広い改善が施された、新しい世代が誕生した。
ドライビングフィールに、初代との明確な違いはない。むしろ、素晴らしさがそのまま受け継がれている。以前より奥が深く、可能性の高いキャラクターを獲得している。
2代目モデルは、GTではなくGRを名乗る。GRスープラやGRヤリスのように、開発を主導したのが、Gazoo Racing(ガズー・レーシング)だからだ。
新開発の自然吸気2.4L水平対向ユニット
GT86のように、レイアウトはフロントエンジン・リアドライブで、2+2のコンパクトなクーペ。高回転域まで滑らかな自然吸気の水平対向4気筒エンジンを低いボンネット内に積み、手頃な価格で提供される。英国では、3万ポンド(約462万円)を切るらしい。
この水平対向エンジンは、新開発の2.4L。シリンダーの内径は、86という車名の由来になった86mmから、94mmへ広げられている。
従来のGT86の体験を振り返ると、必要としていたのは扱いやすい領域でのトルクだったと思う。だが水平対向エンジンは本体の全幅が広く、大きなトルクを得やすいピストンストロークの延長が難しい。
GT86だけでなくGR86で、フロント・サスペンションがダブルウイッシュボーン式ではなく、マクファーソンストラット式となった理由も、エンジンの幅にあるという。そこでトヨタは、ピストンの直径を広げる手段を選んだのだ。
エンジンの吸気バルブを広げ、バルブタイミングもチューニングしてある。その結果、従来の2.0Lユニットより速いクランクスピードを叶えただけでなく、最大トルクを20%ほど高めている。大きなトルクが得られる回転域も落とされている。
ドアを開き、低い位置の座面へ腰を下ろす。トヨタによれば、シートはコンパクトながら、充分な横方向のサポート性を確保するとともに、長距離時の快適性を高めたとしている。少し低くなったルーフラインへ合わせるように、座面の位置も低くなった。
素晴らしい音響と6速MTの感触
純粋で手頃なスポーツクーペだから、インテリア装材などへ強くこだわるドライバーは少ないだろう。今回試乗した欧州仕様のGR86は開発末期のプロトタイプで、ダッシュボードやドアパネルは完成状態ではなかった。それでも、特に不満を感じなかった。
フロントシート側には、高身長のドライバーでも快適に座れる空間がある。リアシート側には、子供か荷物を乗せられる。リア側は背もたれが折り畳め、スポーツカー基準では大きいといえる荷室を更に広げることができる。
ボンネットのラインが低く、ダッシュボードの上面ラインも低いから、運転席からの前方視界は極めて良好。後方視界は、流麗なルーフラインのクーペとしては平均水準。ミドシップのモデルよりは、もちろん良い。
新しい2.4Lエンジンを始動させる。GT86の2.0Lエンジンと同じように、静かにアイドリングを始める。中回転域まで回すと、印象がまったく異なることが見えてくる。
GR86の技術開発をリードしたハーウィグ・ディーネンス氏によれば、エンジン音のチューニングに加えて共鳴効果を利用し、より刺激的なボクサーエンジン・サウンドを生み出したという。スピーカーから聞こえる人工音ではない。
従来の2.0Lユニットよりメカニカルで、聴き応えのある音響を獲得している。ボリュームも大きく、生々しく、心に強く響いてくる。5000rpmから先では、何度も聞きたくなるような興奮も誘う。
6速MTのフィーリングも素晴らしい。手応えが丁度良く、しっかり決まった感触が手のひらに伝わってくる。駆動系がしっかり結びついているという、ポジティブな感覚すら得られる。
この続きは後編にて。
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