豊田章男社長「これでレースをやろう!」
「モータースポーツ活動についての発表・会見」があるというトヨタからの報せに、一体何事かと思ったら、その内容は驚くべきものだった。水素エンジンの技術開発に取り組み、その一環としてそれを搭載したレース用車両を、5月21~23日に開催される富士24時間レースに投入するというのだ。
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4月22日のその発表から約1週間後の4月28日。富士スピードウェイで行われた富士24時間の合同テストの場に、早速そのマシンの姿があった。豊田章男社長がファウンダーのルーキーレーシングに託された、カローラをベースとするそのマシンが、レーシングコースを走行したのだ。
そもそも水素エンジンは、市販前提ではない先行技術として開発が進められていたという。しかし、それを載せた車両を味見した豊田章男社長が「これでレースをやろう!」と言ったことで急転直下、物事が動き出した。ちなみに社長の試乗は昨年末の話で、実質4か月で開発が行われたのだという。
水素エンジンはGRヤリスの1.6Lターボがベース
水素エンジンは、同じ水素を用いるFCV(燃料電池自動車)とは違って、ガソリンの代わりに内燃エンジンに使って、水素を燃焼させる。中身は決して特殊なものではない。今回の水素エンジンは、じつはGRヤリスに積まれる直列3気筒1.6Lターボユニットのインジェクターやプラグ、燃料の取り回しなどを変更しただけのもの。高圧水素タンクはMIRAI譲りのもので、その意味ではこれまで培ってきた技術が、うまく活用されたマシンとなっている。
車両がカローラになったのは、乗用車のド真中のクルマで訴求したいという意図もあったというが、一番大きな理由は室内スペースの広さだろう。室内を見ると、後席が取り払われてロールケージが張り巡らされたその内側には、CFRP製のキャリアに固定された合計4本の高圧水素タンクが搭載されている。
万一のクラッシュの際に十分な安全性を保てるようにというこのレイアウトは、FIAとの協議なども経て決定されたという。そのほか、安全にまつわる要件も、すべてそうしたプロセスで決められた。水素エンジンのレーシングカーが走行するのは世界初のこと。FIAも非常に興味深くこのプロジェクトを見ているようである。
水素エンジンの性能・利点・弱点とは
さて、この水素エンジンは果たしてどんな性能を実現し、どんな利点があり、またどんな弱点、欠点があるのか。まずパワーとトルクについては、ほぼノーマルのGRヤリスと同等の数値を実現しているという。水素は例えばガソリンに比べて含有エネルギー量は大きくないが、一方で燃えやすく、燃焼速度が速いというメリットを持つ。高速燃焼が可能となれば、レスポンスはよくなり、トルクも出る。高回転化にも有利なはずだ。
一方、問題は燃え過ぎることで、下手をすると予期しないところで着火してしまう。この燃焼のタイミングをいかにコントロールするかが水素エンジンのキモなのだが、トヨタによれば長年培ってきた直噴技術が大いに生きているのだという。
ラップタイムは手元計測で1周2分4~5秒あたり。フィットなどが走るST5クラスの車両とほぼ同等というところで、車重がかさむことなども考えれば、決して悪くはないというところだ。
現状、最大の問題は燃費である。高圧水素タンクの容量は合計7.34kgで、MIRAIの5.6kgをも凌ぐ。しかしながら今回のマシン、連続周回数は12~13周程度だという。富士スピードウェイの全長は4.563kmだから、13周として約60kmしか走れないことになる。1kg当たり約8km。FCVのMIRAIは1kg当たりざっと100kmは走るというのに、だ。
もっとも、それは最初からわかっていることで、最初の会見で豊田章男社長は「ピットの耐久レースになりそうですね」と話していた。実際、24時間レースでは50回近くのピットストップが必要となりそう。参考までに、ST5クラスのデミオ ディーゼルはかつて、45Lの燃料タンクで約70周連続で周回していた。その差は大きい。
ちなみに今回のレースではパドックに移動式水素ステーションが設置され、こちらで充填が行われる。この辺りのレイアウト等々も、やはりFIAとの協議の上で決められたということだ。
燃費については、燃焼についての知見が蓄積されていけば、さらに伸びていくことは間違いない。実際、水素は燃えやすいということは、つまり燃料のリーン化がしやすい。ここはまだ開発の余地が大きいという。実際、レース本番までにも、まだまだ進化してきそうな気配である。
なぜ今、水素エンジン? モータースポーツに光を
それにしても、トヨタはなぜ水素エンジンを開発していて、しかもそれをレースに投入するのだろうか。ひとつには、自動車に突き詰められた目下最大の課題であるカーボンニュートラル達成のための、ひとつの可能性の提案という側面がある。すべてをEV化すればいいわけではなく、もっといろいろな可能性を考えてみてもいいのではないかという話だ。
それを実験室レベルに留めずレースで鍛えようというのは、ひとえに開発速度を高めるためと言っていい。実際、サーキットを走ることができ、24時間の耐久性も十分イケそうというレベルまで、たった4カ月で来れたのはレースという目標があったからに他ならない。
開発陣と話すと、皆この4カ月のことを大変だったと言うのだが、実際には顔は笑っている。きっとエンジニアとして燃えに燃える時間だったのだろう。そもそもTOYOTA GAZOO Racingはモータースポーツの開発サイクルの速さを市販車に持ち込むというテーマを掲げていたわけだが、今やそれはトヨタ全体の速度感になっていると言ってもいいのかもしれない。
さらに言えば、こうした車両の登場はモータースポーツの未来を明るく照らすものでもある。例えば近い将来、市販車のほとんどがEVになったとしたら、スーパー耐久のようなレースは成立できるだろうか? まして24時間レースなんて…。レース業界そのものが存在が難しくなるという可能性は、十分にある。
しかしこうしてカーボンニュートラルを実現しながら、エンジン技術での戦いを継続できるとなれば、モータースポーツの火を絶やさないで済む。豊田章男社長もとい、レーシングドライバー“モリゾウ”選手は、力を込めてそう言う。自動車のサステナビリティを本当の意味で考えるならば、いまクルマに関わる人すべてがハッピーでなければ。モータースポーツも、その大事な一要素だという豊田社長の哲学が、ここに貫かれているわけだ。
冒頭に記したように、レース本番は5月21~23日に開催される。そしてこのマシン、モリゾウ選手も乗り込む予定だという。未来を憂い、あるいは期待するクルマ好きは、可能ならばサーキットに足を運んで実際にこのクルマの走りを見てみてほしい。そしてエンジン音にも耳を傾けてみてほしいと思う。
おっと書き忘れていた。そう、この水素エンジンは内燃エンジンなので、当然サウンドがある。燃焼速度が速いのでガソリンエンジンよりもやや甲高い、いい音を響かせるのだ。
電動化の時代になったらエンジンの吹け上がりも、サウンドも、無縁になってしまうのか…と危惧しているクルマ好きは、きっと少なくないはず。しかし水素エンジンなら、それらを失うことはないのである。
まさにクルマを、ドライビングを、モータースポーツを愛する人すべてにとっての夢の第一歩。まだ本当に始まったばかりのプロジェクトだが、今後の進捗には大いに注目していきたい。
〈文=島下泰久〉
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みんなのコメント
個人的にはコレに尽きる。
電動モーターのレースにはソレはソレの面白さが有るだろうが、内燃機関による既存技術の延長の火は消さないで欲しい。
というのはちょっと飛躍がある気もします(笑)
やはり、EVは 必要な場面や用途では非常に適していると思いますが、
災害時の対応を含めて 電気一択にしてしまうのは相当のリスクがあります。
それに、バッテリー等の原材料から廃棄時まで トータルCO2発生量も考えると、
費用を掛けて内燃機関を新たなEVへ置き替えることが最善の方法とは言えません。
また EVはバッテリーやインバータが常に進化するため、リセールバリューの低下が
尋常ではないほど速く、家電製品と同じように買い替えることになってしまいます。
(それがEV業界側の狙いではありますが・・)
ユーザーの高額な資産はすぐに損なわれるし、廃棄物も恐ろしく増えるでしょう。
だから、水素や新型燃料などで既存の内燃機関を経済的に脱炭素化させることが
最も地球のためになるはずです。