■なぜドアミラーをたたむのか?
「マナー」とは、ルールとして厳格化されたものではなく、人間関係や社会生活を円満・円滑に営むための作法といってよいでしょう。その内容は普遍的なものもあれば、時代とともに変わるものもあり、なかには地域ごとに異なるものもあります。
かつてはなかったものの、今では“マナー”として定着しつつある行為のひとつが、駐車場でドアミラーをたたむことではないでしょうか。
昨今、自宅外の駐車場で多くのクルマがドアミラーをたたんでいる光景は珍しいものではありません。しかし「これは必ずするべきなのか?」と感じたことがある人もいることでしょう。
たたむべき状況はまず、クルマの横を通るのがギリギリというほど狭い駐車場でしょう。これは誰かのことを思いやってというよりは、自分が楽に歩けるようにと考えればわかりやすいです。
そのため狭い駐車場では、通路を広くして自分が楽をするために、ドアミラーをたたむのが正解といえます。
しかし、広い駐車場までたたむべきかといえば、そうではありません。たたんでもたたまなくても大きな影響がなければ、必ずしもその必要はないでしょう。
ところで、ボタンを押すだけでたためる電動格納式ドアミラーを初めて設定した国産車はC32型の日産「ローレル」で、1984年のことでした。その後多くのクルマに波及し、今では軽自動車にも採用が広がっています。
さらに昨今は、ドアロックに応じて自動でドアミラーをたたむクルマも増えました。そういった親切装備の普及と、周りにあわせることを得意とする日本人の感覚とリンクし、ドアミラーをたたむ文化がマナー的に普及したようです。
駐車時にドアミラーを倒すことを周囲への配慮と考えている人も多いようですが、あくまでも「好意による配慮」なので、たたんでいないクルマがあるからといって腹を立てるのは筋違いです。
■クルマ側にもドアミラーをたたむメリットが
実は、ドアミラーをたたむことはクルマ側にもメリットがあると考えられます。
ドアミラーに通行人が接触するのを減らすことで、ドアミラーが傷付いたり破損したりするのを防ぐというものです。あくまでオーナー目線の考え方ですが、マナーというよりはこれを目的としてドアミラーをたたんでいる人もいることでしょう。
また、ドアロックに連動してドアミラーが自動的に折りたたまれるクルマも多く存在しています。ドアミラーがたたまれることによって、ロックされていることを確認しているドライバーも今では少なくないようです。
駐車時にドアミラーをたたむ文化はここ数年で急激に広まったように思われますが、もしかすると最大の理由は、このドアロックに連動して格納するドアミラーの普及かもしれません。
その機能が備わっていないクルマのオーナーにも、駐車時にミラーがたたまれているクルマを多く見ることによってたたむ行為が波及したというわけです。
ところで海外に目を向けると、駐車時にドアミラーをたたむという文化はほぼありません。
駐車場スペースが広いアメリカはもちろん、路上での縦列駐車が多いヨーロッパでもドアミラーをたたんでいるクルマはそう多くはないのです。
そこには、そもそもドアミラーが倒れるのは折りたたむためではなく歩行者と接触した際に衝撃を吸収するためであり、頻繁に動かすと壊れる要因になる(ことが多かった)という構造上の理由があります。
また、アメリカでもヨーロッパでも並列駐車する際に日本ほどバックで止めず、前から突っ込んで止めることが多いことも影響しているようです。その止め方だと、クルマの脇を通る際にドアミラーが張り出していても邪魔にはならないからです。
加えてアメリカや欧州では日本と違い、高級車以外は電動格納式ドアミラーの普及が遅かったという事情があります。たとえば、ポルシェに電動格納式ドアミラーが組み込まれたのは、991型の「911」が登場したわずか10年前のこと(それも標準採用ではなくオプション)。日本でも、手動式のドアミラーをたたむ人はかなり少ないのではないでしょうか。
話を日本に戻すと、ドアミラーをたたんで駐車している人のなかには、マナーと考えてやっている人もいることでしょう。しかし、ドアロック確認や他人に傷を付けられないためなど、単に思いやりだけではない事情があります。
ドアミラーをたたむ行為自体は総合的に考えるとやったほうがよいですが、とはいえ「マナーだから必ずやるべき」と強制する部類のものではないことも覚えておくとよいでしょう。
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