うめきたの成功、汐留の失敗
大赤字を抱えて、1987(昭和62)年に分割民営化された国鉄――。その資産の一部を引き継いだ清算事業団が所有した東京の汐留駅と大阪の梅田貨物駅は、一等地にもかかわらず長年開発が進まなかった。
【画像】「えぇぇぇぇ!」これが40年前の「汐留エリア」です! 画像で見る!(計12枚)
しかし、2000年代になってようやく動き出し、現在ではオフィスや商業施設、ホテルなどが立ち並んでいる。
ただし、梅田貨物駅を再開発して誕生したうめきた地区は、大阪駅周辺の新たなビジネス・商業・観光の中心として多くの人々が行き交っている一方で、汐留はテナントの撤退が相次ぎ、近年では
「都心のガラガラ施設」
として紹介されることが多くなっている。なぜこのような格差が生まれたのだろうか。本稿で詳しく解説する。
歴史的遺産の再生 汐留・梅田の格差
汐留と梅田は、どちらも19世紀から続く長い歴史を持つ駅である。汐留駅は、日本初の鉄道路線の起点である初代新橋駅として、1872(明治5)年に開業し、東海道線のターミナルとして、関東から関西、九州など西方への需要を支えた。しかし、1914(大正3)年に東京駅が開業した後、旅客ターミナルの機能を東京駅に譲り、汐留駅は貨物駅として再スタートを切る。
一方、梅田貨物駅は、1874年に大阪駅で貨物取扱が始まり、その後鉄道の利用増加にともない、旅客と貨物の機能を分ける必要が生じ、1928(昭和3)年に梅田駅として開業する。当初、梅田駅は大阪駅と同一駅だったが、1934年には設備増強が行われ、大阪駅での貨物扱いが廃止され、梅田駅は独立した。
汐留と梅田は、日本の経済や鉄道の発展とともに成長し、1959年には両駅間で初めてのコンテナ特急列車「たから」号が運行されるなど、貨物列車の歴史において欠かせない存在となる。
しかし、トラック輸送の台頭などにより、貨車単位での荷物輸送が衰退し、代わりにコンテナ輸送が主流となる。東海道新幹線の整備で汐留駅が手狭になり、1986年に廃止され、1987年に国鉄が民営化されると、梅田駅も廃止の方針となり、両駅の敷地は国鉄事業清算団に引き継がれることとなった。
東京と大阪の一等地に広大な敷地があり注目されたが、バブル景気の加熱により売却は延期され、その後、バブル崩壊なども影響し、汐留は数十年にわたって空き地のままとなり、梅田は縮小しながらも2010年代まで貨物駅の機能を保っていた。2000年代に入ると、ようやく両駅の再開発が始まり、汐留と梅田は大手企業が関わる大都市の一等地での大型プロジェクトとして注目され、大きな話題を呼んだ。
しかし、再開発が始まって20年以上が経過した現在、両者には大きな格差が生まれてしまった。なぜそのような格差が生まれたのか、両者の歴史を追ってみよう。
梅田貨物線地下化でアクセス向上
まず、梅田貨物駅、通称「うめきた」地区の再開発について簡単に説明しよう。同地区の再開発は、2002(平成14)年に都市再生緊急整備地域に指定され、事業が始まった。最初に、大阪駅に近いエリアから取り掛かり、2004年に都市計画が決定された後、都市再生機構(UR)が開発事業者の募集を開始。最終的に、オリックス不動産や三菱地所を中心に12業者が提案し、開発が進められた。
2013年には、企業や大学の研究開発施設や体験施設が入る「ナレッジキャピタル」や高級ホテル「インターコンチネンタル大阪」などを中心にした複合施設「グランフロント大阪」が開業。この施設は、独自性の高い体験施設の多さで注目され、開業から3年10か月で来場者数が2億人を突破し、非常に高い人気を集めた。この数字は六本木ヒルズよりも1年2か月早いもので、過去20年余りの間で有数の成功事例となった。2023年には累計来場者数が4.7億人に達し、今も勢いは衰えていない。
グランフロント大阪開業と同じ2013年に梅田貨物駅が正式に廃止され、その後、梅田貨物線の地下化や土地区画整備などが進められた。2023年2月13日には梅田貨物線が地下化され、3月18日には「大阪駅」が開業。これにより、従来大阪駅を通過していた「はるか」や「くろしお」が停車するようになり、関空や和歌山方面からのアクセスが向上した。また、おおさか東線も乗り入れるようになり、梅田エリアの活気がさらに増した。
さらに、うめきた2期「グラングリーン大阪」が2024年から順次オープン。JR大阪駅直結の大規模公園「うめきた公園」や、日本初進出のヒルトン系列最高級ブランドホテル「ウォルドーフ・アストリア」、都市型スパ「うめきた温泉 蓮」などが中心となり、商業施設やオフィスも整備された大型の街となっている。商業施設には、世界各地で観光案内雑誌を発行している「タイムアウト」の編集者が厳選したレストランやバーを集めたフードマーケット「タイムアウトマーケット大阪」などもあり、関西や日本初進出の施設が多く、早くも話題を呼んでいる。
一等地とは思えない閑散な街になってしまった汐留
一方、汐留の再開発は31haの敷地を11の街区に分け、それぞれの土地を売却して開発が進められた。地区全体は「汐留シオサイト」と名付けられ、2002(平成14)年までに開発が完了した。ヒルトンの上位ブランド「コンラッド」の日本初進出となった「コンラッド東京」をはじめ、各街区には共同通信社やANA、富士通、ソフトバンクなどの大企業が本社を構え、多くの社員が働く場所となった。
特に1街区A地区には電通の本社ビルと劇団四季の劇場を中心にした複合商業施設「カレッタ汐留」が設けられ、汐留シオサイトのなかでも幅広い来場者を想定した街づくりが進められている。また、汐留シオサイトは基本的に新橋駅の東側に立地しているが、西街区は唯一山手線の内側にあり、石畳が敷かれたイタリアの街並みを再現した「イタリア街」が広がっている。ここには日本中央競馬会(JRA)の場外馬券販売所「ウインズ汐留」なども立地している。
汐留は開業当初、東京の新名所として注目されたが、各街区ごとに分けられて開発されたため、街全体としての統一感が欠け、導線もわかりにくかった(詳細は後述)。その結果、客離れが起こり、開業から10年ほど経った2013年には「都市開発の失敗例」と評されるようになった。
衰退を加速させたのは、2020年に始まったコロナ禍だ。入居していた企業が次々とリモートワークに切り替え、オフィス来場者が激減。従業員を対象に営業していたレストランも次々と閉店した。特にA街区に本社ビルを所有していた電通は、従業員の2割ほどしか出勤しなくなり、2021年にはビルごと売却した。周辺のカレッタ汐留も、2023年にはマクドナルドなどを含む半数のテナントが撤退し、ゴーストタウン化が進んだ。
筆者(宮田直太郎、フリーライター)も2023年頃、日曜日にカレッタ汐留を訪れたが、全フロアのテナントが撤退して入れなくなっている階層があったり、周辺の銀座や新橋では空席の見当たらない午後4時頃のカフェに空席が見られたりするなど、都心の一等地とは思えない閑散ぶりに驚愕した。その後もカレッタ汐留の状況は変わらず、東急プラザ銀座や渋谷サクラステージと並び、都心の失敗した商業施設としてYouTubeなどに取り上げられ、カレッタならぬ「枯れた」汐留と呼ばれることが多くなった。
また、B地区にある汐留シティセンターは先進的な外装で注目を集め、多くの企業テナントを抱えていたが、コロナ禍の影響でリモートワークが進んだ結果、富士通が本社機能を撤退させるなど、他の街区でもオフィスを中心とした賑わいが失われつつある。
さらに、汐留の高層ビル群は東京湾に近く、海から東京都心に吹く風を遮ることでヒートアイランド現象を悪化させたという指摘もあり、周辺環境を悪化させた上でこの閑散ぶりでは問題視されるのは仕方ない。
汐留とうめきた。両者とも大都市の一等地に位置する巨大敷地の開発であり、駅直結であることも共通している。周辺には百貨店の旗艦店や大型ショッピングセンター、個性豊かな個人店が並ぶ日本屈指の繁華街が控えているという点も似ている。しかし、なぜこのような格差が生まれたのか。
筆者はその理由として以下の2点が大きく関わっていると考える。
・街としての一体感を統括する団体の権限
・歩行者目線での導線確保
この2点を踏まえて、うめきた(特に一期のグランフロント大阪)と汐留シオサイトを比較したい。
格差が生まれた理由「その1」
グランフロント大阪と汐留シオサイトのウェブサイトをスマートフォン画面で見た場合、後者はその対応が十分ではない設計になっている。
最大の違いは、街としての一体感を持つ開発があるかどうかだと、数多くの報道で指摘されている。うめきた一期のグランフロント大阪では、地域を大まかに三つに分けて入札対象とし、2012(平成24)年に街づくりを一元的に担当する「グランフロント大阪TMO」を設立した。再開発に参加した12社の意見を反映させ、統一感のある街づくりを実現した。このグランフロント大阪TMOは、現在もPR活動の中心となり、イベント情報などが頻繁に更新されている。
一方、汐留は十数個の街区で整備を行い、それぞれの街区ごとに個別に入札を実施した。「汐留地区街づくり連合協議会」を設立したが、これは法人形態ではなく、イベントプロモーションやメディア運営、梅田エリアのバス「UMEGLE」の運行なども行うグランフロント大阪TMOと比べると、取り組みが少ない。実際、グランフロント大阪と汐留地区街づくり連合協議会のウェブサイトを両方訪れると、後者は素人の筆者から見ても古いデザインで、スマートフォンにも十分に対応できていないことがわかる。これにより、街づくりに対する権限が低く、街としての一体化が進みにくかったことが感じ取れる。
その結果、汐留シオサイトは建物ごとに異なる設計となり、統一感に欠ける街になった。個々の建物は一流の設計者や施工者による優れたものだが、それらが集まった街として見ると、同じ高さなのに階数が異なるなど不自然な部分が目立つ。汐留の開発では、街づくりを一体的に行える権限の強い組織が不在だったため、グランフロント大阪のような設計が実現できなかったといえる。
格差が生まれた理由「その2」
統一感の有無は駅からの導線にも影響を与えた。汐留シオサイトへのアクセスは、新橋駅と汐留駅のふたつの駅から可能だが、最も利用される新橋駅からは長い地下街を歩かなければならない。地上から移動しようとすると、道路の横断歩道は限られており、街区を越えて移動するためには、まずどこかのビルに入って上層部のデッキを目指す手間がかかる。汐留駅は新橋駅より近いが、地下が深く、移動は非常に大変だ。
また、東京最大の繁華街である銀座も距離的には近いが、首都高や交通量の多い海岸通りが境界となっているため、地上を歩いて移動するのは難しく、途中で上り下りしながらアクセスする面倒な経路をたどらなければならない。車でのアクセスも、第一京浜や海岸通りといった交通量の多い道路に面しており、複雑な形状をした蓬莱橋交差点などがあるため、運転するのもなかなか大変な立地だ。
この動線の問題について、前述の汐留地区街づくり連合協議会のページを確認したが、新橋駅や汐留駅、浜松町駅、銀座エリアなどからのアクセス改善に関する提案はなかった。むしろ、アップダウンの多いデッキでの移動について
「歩行者と自動車の動線を分離した立体的な導線計画」
と特徴づけており、歩行者の視点が欠けているのではないかと思わせる記述だった。
一方、梅田はその複雑な地下街で“迷宮”とも呼ばれることで有名だ。実際、地図を頼りに歩いて、一番端まで来たと思っても、実際にはまだ道が続いていて、どこが出口かわからず困ったことがある人も多いだろう。しかし、新たに開発されたうめきた地区では、グランフロント大阪TMOがJR西日本、阪急、大阪メトロの5者とともに「梅田地区エリアマネジメント実践連絡会」を立ち上げ、梅田地区のエリアマネジメントに乗り出している。その中核のひとつには、歩道の拡張やサインの充実など、より歩きやすい街づくりを目指す「Walkable Umeda構想」があり、歩行者の利便性を重要な取り組みとして捉えている。
また、エリアマップの発行も定期的に行っており、うめきたエリアからJR大阪駅、阪急梅田駅、阪神梅田駅などの駅や、西梅田、茶屋町、ダイヤモンド地区といった梅田エリア全体を考慮した街づくりを進めている。そのため、大阪駅周辺に訪れた人々がうめきた地区にも回遊しやすい流れが作られ、多くの人々が訪れる施設ができたと思われる。
歩行者視点で築く汐留再開発
汐留もうめきたも、大都会の一等地だからこそ、大企業のオフィスや高級ホテル、話題性のあるレストランなど、特徴的な施設を誘致することには成功している。しかし、歩行者の動線や周辺地区とのつながりを意識した街づくりを行う主体の有無が、両者の成功を分けることになり、都市再開発における大きな教訓となっている。
そして、こんなことをいうのもおこがましいが、賑わいが消えつつある汐留は、各街区が危機感を持って取り組むべきではないか。例えば、街づくりを行う汐留地区街づくり連合協議会を強化し、グランフロント大阪のように
・街全体のPR
・新橋・銀座・日比谷・浜松町などからの導線改善に向けた行政との協力
が必要だろう。特に、大規模な再開発が決まった築地方面からの導線確保は、極めて重要な課題だ。賑わいを回復するチャンスでもあるだけに、歩行者の視点を取り入れた開発が進められるべきだ。
また、長期的には道路の地下化や建物の建て替えなどを考慮した「再再開発」に向けた取り組みも重要になるだろう。その際には、一部報道で見られた
「建物を壊して広場を作り、ヒートアイランド現象を解消する」
という案を本格的に検討するのも面白いのではないか。
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みんなのコメント
でも本当に同じようなものを目指して開発されたのだろうか。 そうとは到底思えないくらい異質な街。
ちょっと皮肉っぽい表現になるけど汐留は普通のビル街としか思ってなくてこの記事を読んで一体的な街だったっなって思い出したくらい。
実際に汐留は個別具体的な用事がなければ行かないけどうめきたは街そのものが訪れるモチベーションになる。
両方に住んだ者として「今日どこ行く?」のあとに「うめきた!」はあっても「汐留!」とはとはならない。
汐留をそう言った意味で賑わいある街にするのはこれだけ完成したものを一から作り直すくらいの勢いでないと難しいように思う。
うめきただって10年、20年と時が経てばどうなるかわからない。
同じ梅田エリアの茶屋町だってあんなに持て囃されてのに今では…なんだし。