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池沢早人師に訊くスーパーカーブームのウラ側「第11回 特別対談2:“潮来のオックス”と新旧フェラーリを語る」

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池沢早人師に訊くスーパーカーブームのウラ側「第11回 特別対談2:“潮来のオックス”と新旧フェラーリを語る」

池沢早人師 × 関根英輔

フェラーリと言えばV型12気筒ミッドシップだった

池沢早人師に訊くスーパーカーブームのウラ側「第11回 特別対談2:“潮来のオックス”と新旧フェラーリを語る」

自動車漫画の草分け的存在である『サーキットの狼』。その影響はデビューから44年を経た今もなお自動車ファンに大きな影響を与え続けている。

今回は同作品でも大きな役割を果たし、スーパーカーの頂点を極めるフェラーリについて語っていただく。もちろん、語り部は池沢早人師先生と、前回に引き続き作中にも登場する“潮来のオックス”こと関根英輔さん。どんな話が飛び出すのだろうか・・・・。

日本でフェラーリの名前を知らしめた 365BB/512BB

富士スピードウェイでの走行会で出逢い、44年の長きに渡り交流を深めてきた池沢先生と関根さん。共に日本におけるスーパーカー文化を牽引してきた立役者である。

池沢先生は『サーキットの狼』という作品を生み出し、関根さんはその作品に大きな影響を与えたフィクサーであり、スーパーカーコレクターとしても名を馳せる。そんな2人にとって新旧フェラーリはどんな存在なのだろうか?

池沢早人師(以下、池沢):フェラーリが存在していなければ、ボクは『サーキットの狼』を描いていなかったと思う。それほど、ボクにとってフェラーリは大きなもの。作中ではロータス・ヨーロッパが主人公ではあるものの、フェラーリはバイプレイヤー以上の存在感を発揮してくれた。

関根英輔(以下、関根):池沢君にとってロータス・ヨーロッパが代名詞になっているけど、プライベートでは数多くのフェラーリに乗っていることはあまり知られていないよね。でも、最初に手に入れたディーノ246GTは大失敗だったけど(笑)。

池沢:あいたたた・・・それ言います? あのディーノにはホント、随分勉強させてもらった(笑)。でも、当時のフェラーリ・オーナーは大小の差はあるけど、みんな試行錯誤して乗っていたよね。それほど生産精度に差があったってこと。まぁ、それはフェラーリだけではないけど、個体差が大きかったのは事実だと思う。

関根:確かに当時のフェラーリはアタリとハズレが明確だった。特に中古車の場合、今みたいにしっかりとメンテナンスできる所が少なかったから、調子を崩しているクルマがほとんどだったよね。

池沢:ボクが乗っていたディーノはエンジンを乗せ換えたりして、最終的には新車価格よりも高くなってしまった(笑)。その後に中古で手に入れた365BBは調子良かったねぇ。その影響もあって1978年にシーサイドモーターから新車で512BBを買うことになったんだけど、365BBも512BBも個性があって楽しいクルマだった。関根さんも365BBに乗ってたよね?

関根:当時はランボルギーニ・ミウラとフェラーリ365BBを手に入れて、毎日乗り比べて楽しんでいた。とにかくスタイルがカッコ良くてね。見ているだけで惚れぼれしちゃたった。その後、512BBi乗り換えたんだけど、パンチこそないもののキャブレターからインジェクションに変更されたおかげで運転が楽になった。

池沢:ボクも最後は512BBiに乗り換えたんだけど、どうしてもキャブ時代のモデルの楽しさが忘れられなくて・・・。個人的には完調ならばキャブモデルの方が豪快さがあって好きだなぁ(笑)。

関根:ミッドシップの12気筒フェラーリが市販車として確立したのは365BB、512BBからだと思う。特にキャブレターからインジェクションに変更したことで、少ないなりにも量産車としての精度は上がったからね。

池沢:512BBはエンジン始動にも手順があってレーシングカーみたいだった。まさに一種の「儀式」だったね。他の人に運転させると調子が悪くなることも多かった。特別感はあったけど、近代のクルマとしては完成されていなかったと思う。

関根:BBとBBiはスタイルこそ同じだけど、クルマとしては大きく進化した。「フェラーリの12気筒は気難しい」というイメージはインジェクションの採用で大きく変わったと思う。

池沢:クルマとしての完成度というか、近代自動車へと進化を遂げたのは512BBiからだね。その集大成と言うか、デザイン的にも大きく踏み出したターニングポイントが1984年にデビューしたフェラーリ・テスタロッサ。フェラーリのフラッグシップとして512BBiの座を受け継いでくれた。

テスタロッサのデビューは衝撃的だった!

池沢:フェラーリを新旧で分けるのなら、ボクはテスタロッサからだと思う。V型12気筒のエンジンは512BBiから引き継いだものだけど、4バルブ化することで性能は飛躍的にアップしたし、ボディ両サイドのフィンなどデザイン的にチャンレンジングだった。

関根:テスタロッサは大きな分岐点だよね。甲高いエンジン音も素晴らしいしパワーも十分。乗っていて楽しいクルマだし、スタイリングも新しい時代を予感させてくれた。でも、そこにはスーパーカーとしての「無駄」がたくさんあるのが嬉しいよね。全ての自動車が無駄を排除して効率を優先しているようだけど、スーパーカーには「無駄」が必要だと思う。

池沢:確かにそうだよね。車幅が2メートル近く(編注:1980mm)もあるクルマって凄いよね。走っている後ろ姿を見ると車線を目一杯に使っている(笑)。個人的にも1987年モデルを手に入れて1991年までの4年間ほど乗っていたけど、初期のテスタロッサはとても楽しいクルマだった。4バルブ化された12気筒エンジンは高回転まで回るんだけど、トルクが太いから思ったよりも乗りやすいんだよね。

関根:それに、誰が見ても「テスタロッサ」というスタイルがいい。所有する楽しさというか、満足感は他のクルマでは絶対に味わえない。クルマに興味が無い人でも走っていると振り返ってくれるからね(笑)。そう言えば、池沢君の乗っていたテスタロッサは良い音がしてたよねぇ?

池沢:そうそう、ボクのクルマはケーニッヒ製のマフラーに交換していたから(笑)。音も良かったけどパワーも出ていた。雑誌の企画で最高速を試したら広報車では255km/hしか出なかったけど、マフラーを交換したボクのテスタロッサは288km/hを記録したんだよ。当時、テスターを担当した中谷明彦さんは「まだ余裕があったから、もう少し記録が伸びるはず」と言っていた。友人の紹介で某スポーツ選手に売ることになったんだけど、クルマ本体は売るけど「マフラーは売らない」ってマフラーだけ手元に残したり(笑)。

関根:テスタロッサはエポックメイキングなクルマだったことは間違いない。その後、モデルチャンジをして512TRという名前で1994年まで生産され、最終進化版の512Mが1996年まで作られたしね。

池沢:結局、基本的なスタイルを保ちながら12年間も作り続けられたのはすごいこと。でも、これがミッドシップレイアウトの12気筒フェラーリとしては最後になってしまったのは悲しい。

関根:そうだね、スーパーカー世代にとって「フェラーリ=12気筒ミッドシップ」が憧れだったからね。そう考えると、フェラーリを新旧で区切るのならテスタロッサ・シリーズが旧き良き時代の最後を飾る記念すべきモデルになるのかもしれない。

池沢:エンツォ・フェラーリやラ フェラーリはV12ミッドシップだけど、いわゆるスペチアーレで文字通り特殊なモデル。スーパーカーブームを支えた365/512BBの血筋は512Mで途絶えてしまったのかもしれない。今の812スーパーファストはFRだし、GTC4ルッソはV12エンジンを載せていてもフロントエンジンの4WD。ミッドシップは全てV8になってしまったのは時代なのかなぁ・・・(涙)。

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)

PHOTO/降旗俊明(Toshiaki FURIHATA)

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