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“礼をつくす会社、礼をつくすクルマ”の観音開き──サターンが日本にあった時代を振り返る

掲載 更新 7
“礼をつくす会社、礼をつくすクルマ”の観音開き──サターンが日本にあった時代を振り返る

マツダの新型コンパクトSUV「MX-30」をテスト・ドライブした小川フミオが、かつて日本にも導入されたサターンを思い出した! そのワケは?

サターンも採用した観音開き

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マツダ「MX-30」の特徴といえば「フリースタイルドア」だ。後席へのドアは観音開きである。かつてマツダ「RX-8」で採用されたこのデザインを見ていて、日本でも販売されたユニークなスタイルの米・サターン「SC2クーペ」を思い出した。

MX-30は、マイルドハイブリッドに続き、2月にEVモデルを発表し、完成度の高さを印象づけた。EVエディションでは、ルーフの前後長をあえて短めにしてクーペ的なキャビンのデザインをつくり、パーソナル感を強く打ち出しているのも特徴だ。

デザインを担当したマツダの伊藤祐貴氏は「乗降性も確保しつつ、塊感のあるモダンなデザインを実現する方法」として、フリースタイルドアの採用を思いついた、と述べている。

このドアで思い出したのが1999年に日本で発売された米サターンのSC2クーペだ。全長4.6mのボディに1.9リッター・エンジンを搭載した2ドアのクーペに見えるのだけれど、ボディの左サイドにだけ、フロントドアの後ろに、小さなドアが設けられていた。それが後ろヒンジで、前から開くセンター・オープン式だった。いま見てもユニークな設計で、なかなかよい。

先進的だったサターン

サターンとはそもそも、親会社ゼネラルモーターズで当時CEOだったロジャー・スミス氏が、日本車に流れている若い購買者層の眼を向けさせるべく、1982年に新規プロジェクトとしてスタートさせたブランドだ。クルマの販売は1990年にスタートする。

米国車に興味をもたない層の関心を呼び起こすため、GM/サターンが採用した斬新な施策は、当時、おおいに話題になったものだ。従来の“デトロイト流固定観念”からの解放が大事、と、あえてテネシー州に工場を設立した。用地に生えていた木は伐採することなく、よそへ移植。環境に配慮する企業、というイメージづくりをした。

従業員がメディアに登場するときの服装は、スーツでなく、スマートカジュアル、というか、ボタンダウンシャツにコットンパンツと単にカジュアル。そこも老舗自動車メーカーがつくったブランドとしては斬新だった。

SC2クーペは、設計もそれなりに凝っていた。トヨタやホンダの競合として企画されたクルマなので、クオリティに気を遣うとともに、シャシーはスペースフレーム構造を採用し、ボディパネルは合成樹脂。多少のへこみなら復元すると喧伝された。

当時のGM車としては、室内の合成樹脂パーツの組み方とか、異なる素材の色の合わせ方とか、クオリティにもこだわっていた。少なくとも、当時日本で販売されていたオペル車ほどにはよかった。

ドアがもう1枚追加された理由

SC2クーペの当時のカタログを、かつてサターンの広報を担当していた人が、「記事の参考に……」と、送ってくれた。なつかしい思いで見ていると、3枚目のドアの企画は8歳の少年の発言から始まったとなっている(そのエピソードは忘れていました)。

米・ニュージャージーにあったサターン販売店オーナーの8歳の男の子が、クーペの後席に乗りこむのがややツライので「ドアをもう1枚つけてよ!」と、言ったのが開発のきっかけになったとか。

企画がすぐに立ち上がって、最初に”こんなドアがあれば”という会議の席上での発言から20カ月後に、マイナーチェンジがあって3ドア車が発売されたというストーリーが紹介されている。このスピード感と、子どもの意見にも耳を傾ける姿勢が、重厚長大なデトロイトにはない、あたらしい自動車ブランドのよさ、と、されたのだ。

ただし、当時、サターンの広報担当者は「通勤に使うビジネスマンがブリーフケースなどをさっと後席に入れられるので3ドアを企画した」としていた。じっさい、SC2クーペのカタログでは、「トランクにしまっておきたくない、大切な荷物を運ぶのに3枚目のドアがある」と、利便性が高さを訴えている。

日本仕様のSC2クーペは右ハンドルだったけれど、ドアはそのまま左がわにあった。後席に子どもを乗せるファミリーなどにとっては、それでいい、という意見も少なくなかったように私は記憶している。

たしか、SC2クーペでは後席にいても、内側から3枚目のドアを開けるためのオープナーがなく、外から開けてもらうのを待つ必要があった。やっぱり、実際のところは“ひとより荷物”かもしれない。そこはMX-30とちがう。なにはともあれ、ドアは乗員のためだけのものではない。という、SC2クーペのデザインコンセプトは、おもしろかった。

短命だったサターン

ただし性能は凡庸というか、特筆すべき点はあまりなかった。エンジン・トルクはそれなりにあるけれど、エンジンを上までまわして楽しむものではないし、足まわりのストローク感もやや不足ぎみ。このあたりの割り切りのよさは、米国車的だなあと思ったものだ。

それでも、いいところはちゃんとある。ACデルコ・ブランドのオーディオは中音の鳴りがよく、ブルースやフォークなど、アクースティックギターのサウンドを大きくフィーチャーした、いわゆるアメリカーナというジャンルの音楽によく合ったのをおぼえている。

サターンの工場があったテネシーといえば、音楽の都・ナッシュビルがある州。もちろん、だからギターサウンドがよく聞こえるというわけではないとはいえ、ふつうのオーディオでも音がいい点に、モダンミュージックのゆりかごだった米国うまれのイメージが重なったものだ。

いずれにしても、SC2クーペが先鞭をつけたような、小さな観音開きのドアを後席のために設けるというコンセプトは、そののち、フォロワーを産んだ。

マツダが「RX-8」(2003年)を開発中、広島・三次(みよし)の工場にはSC2クーペが置かれていたとか。リア・ドアは軽くて操作しやすかった。1年前に発表されたホンダ「エレメント」(2002年)だって、のちのトヨタ「FJクルーザー」(2006年)や、ミニ「クラブマン」(2008年)も、同様の観音開きドアを採用していた。

サターンは、しかし、競合が多い日本市場では、苦戦つづきだったようだ。Sシリーズという小型サイズだけで、デザインも日本車的だったプロダクトで苦戦した、と当時の関係者が語ってくれた。販売網も限られていた(でも、いまのルノーやフィアットより、当時のサターンの販売網のほうが多かったと思う)。

サターンは、日本において「値引きしない」とか「店舗内でセールスから来訪者に声をかけない」とか、あたらしい試みを持ちこんだ。自動車業界的では、”黒船”的なおどろきだったようである。トヨタ系ディーラーがおおいに参考にしたという話もあるほどだ。

サターンが日本から撤退したのは2001年。ずいぶん早いタイミングでの決断だ。本国では2000年にやや大型ボディのLシリーズや、2002年にSUVの「Vue」などが出て、適宜売り上げに貢献したものの、赤字は累積していき、結局2009年にブランドじたいが廃止されてしまった。

でも、MX-30をみてSC2クーペを連想するひとが少なくないようで(担当編集も思い出したという)、いまもそれが撒いた種はしっかり残っているようだ。

文・小川フミオ

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みんなのコメント

7件
  • 記憶が定かではありませんが…当時『新宿高島屋』の1階にショールームが出来て現車を見に行った記憶があります。
  • 失敗例としてあげられるけど、時代より登場が早すぎたことと、考えてた以上に市場が未熟だったことも大きかったのではないかな。

    iPhoneの登場後でモノに対する価値観が変わったあとの世界なら、もう少し売れた可能性があると思う。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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